二の話

 ねえ、知ってる? この学校の音楽室にはね。 ……出るんだって!

そう幽霊。 音楽の夢を捨てなければいけなかった子が、自殺して。 

それでね……






「怪談、学校の十不思議…… ですか?」


オカルト研究部の活動日、さっそくとばかりに恵夢めぐむ秋華あきかに調査を頼んできた。

十不思議、普通は七不思議と呼ばれる事の方が多いそれを、調査して欲しいと恵夢は言うのだ。


「そうっ! この学校の特殊な呼び方だけど、まあ怪談話が七個から十個になっただけよね」


聞けばこの十不思議、つねに同じ内容ではなく、大体6年周期で内容が変わるという。

6年周期って、そう言う事よね?

秋華はそんな事を思いつつ、恵夢の話に耳を傾ける。


「んで、我がオカ研としては、その十不思議に挑むって訳なのよ!」


恵夢はそう言うと秋華をジッと見つめる。


「で、秋っちには一番目の不思議、音楽室の怪を調査してきて欲しいのよ」


「はあ、音楽室の怪ですか?」


恵夢はPCを操作してある情報を秋華に見せる。 それは、音楽室の怪に関する情報だった。


「これはネットに寄せられた未整理の資料ね。 まずはこれを整理してみてちょうだい」


なるほど、そういう事なら出来そうだとホッする。


「もう一つのPCにも入ってるからそっち使っていいよ。 秋っち専用ねっ!」


秋華は、専用にされてしまったPCを立ち上げ資料の選別を始めた。

しばらくその資料を見ていたが、大まかに分けて二つの場所が出てくる事に気づいた。

それが音楽室と、その音楽室が見える教室だ。

しかしそのどちらであっても、音楽の夢を絶たれた少女、という人物が出てくる。

理由は話によって多少変わるが、大体が事故で音楽、楽器だろう。 が出来なくなるというものだった。

やがて少女は自殺し、音楽室に悪霊となって現れる。 もしくは音楽室が見える教室でずっと音楽室を見続け、それを邪魔した者を呪い殺す。 といった内容だった。


とりあえずは、まだ時間はあるということなので、静流しずる先輩に聞いてみようと席を立つ。


「ん? 秋っち帰るの?」


秋華が立ち上がったことに気づいた恵夢は、そう言いながらスマホの時計で時刻を見る。

見ると結構な時間になっていたため、今日は終わる事にした。


「今日は終わりにしよっか? 初日から根を詰めるのもなんだしね」


そう言って伸びをする恵夢に、そうしますと言い荷物をまとめる。

部室を出る時は一緒であったが、彼女は用があると足早に去っていった。

秋華はそれを見送った後、静流とジョンとの待ち合わせの場所に向かう。

そこは、校舎棟側の中庭で真ん中に学校の創立記念植樹された木が一本、青々とした葉を繁らせている。

その周りをレンガで丸く囲い、そこに木に背を向けるようにしてベンチが並べられている。

その一つに、なにかの文庫本を読みながらベンチに腰かけている静流と、背にある木をニコニコと眺めているジョンの姿があった。

ジョンは、中庭に現れた秋華に気づくと手を振って呼んでくれた。

その事で気づいた静流は本を仕舞うと立ち上がる。


「おつかれ七霧ななきり。 早かったね?」


「おつかれデス、ナナキリさん」


挨拶された事で慌てて駆け寄り、秋華も挨拶を返す。


「お、おつかれ様です。 はい、ちょっと早く終わって」


それを聞いて静流は、時間を確認すると提案する。


「じゃあちょっと早いから、部活の事聞かせてよ」


秋華はそう言われ、ジョンの勧めるままベンチに座ると部活での事を話始めた。

話を聞き終わった静流とジョンは苦笑するしかない。

そんな二人に秋華はキョトンとした顔を見せる。

そんな顔も可愛いなと思いながら、静流は説明する。


「ああ、いやその事なんだけどね? その出現場所がバラバラなのは僕たち、というかうちの組織の仕業なんだ」


今だ要領を得ない秋華にさらに説明を続ける。


「うちの音楽室にはね、ちょっと珍しい楽器やら高価なものが多いらしくてね。 それでなんとか出現場所を音楽室以外にできないかって話になってね」


なるほどそれで噂を操作して、しきれなかったようだが。 そこで、音楽室が見える教室というものが出てきたと。

そこはどうしても専門ではないため、というか彼らは戦闘がメインであるためにそういった裏方仕事には向いてなかったのだろう。

人員不足のために戦闘ができる人材を優先した結果でもあった。


「まあだから、出来たら教室の方に出るように話を纏めてもらえるといいかな」


「なるほど、わかりました」


秋華は、静流の言葉に納得しうなずく。

その後、校内放送で生徒の学校か出る事を促すアナウンスが流れ、それから秋華達は見回りに動き出した。









「はいっ! 完全完治ね」


麻宮あさみやはそう言うと志乃の捻挫していた方の素足を両手でペシリと挟み込むように叩いた。


「ふふふ、痛くないわ!」


志乃は嬉しそうにしながらソックスを履き直した。

それにしても、と麻宮は言う。


「霊力を肉体の回復力に使うなんてね。 そりゃ確かに、肉体能力の強化に霊力が使用されているらしいという研究結果が上がってるのは見たことあるけど、ねえ」


そもそも、肉体強化に使う霊力を霊刀に注いだために天井を蹴った際に足を挫いたのだろう。 というのが麻宮の考えであったが。

日本が、霊力などを科学的に研究しだしたのは近年になってからだった。

アメリカなどは戦前より研究が進んでいたようだが、戦後そのアメリカの技術が入り込んでこの霊研究は飛躍的に進歩した。

そのうちの一つの成果が思金おもいかね製薬である。

とはいえ、志乃の自然治癒力などは霊力持ちの方が回復が早いかも? といったレベルであり、ここまでの回復はあまり例がない。


燕子花かきつばたの双子の天才。 そう言われるだけの事はあるのだと感心する。


「とはいえ、あんまり無茶はしない事! いいわね?」


「はーい」


志乃はそう返事をして立ち上がる。


「じゃあ見回りに参加してこようかな」


そのセリフに苦笑しながら麻宮は無理はしないように再度注意をする。


「わかってまーす」


志乃はドアを開けながら、そう返事をしつつ出ていった。


志乃が出ていってしばらくして一人になると、無表情になる麻宮。


「まったくいまいましいガキだこと! これは、計画を変更してなんとか孤立させないと」


麻宮はそう一人ごちると、保健室を出ていくのだった。







秋華達は音楽室に来ていた。 今だ余裕はあるがいちおうの下見といったところだろう。

特別教室は4階に集中しており、音楽室は階段のすぐそばにある。

その音楽室の戸を静流が開けようとした時、ひょっこりとその階段から志乃が顔を見せた。


「あ、いたいた」


「志乃? なんでここに?」


松葉杖を突くでもなく歩いてくる姉を見て、静流は驚きの声を上げる。

志乃は静流を驚かせようと内緒にしていた事が成功し、ニヤリと笑う。


「ふっふっふっ、完全復活よっ!」


そう言って捻挫した方の足をダンダンと踏みしめて見せる。

その様子にあきれた表情を見せる静流だが、治った事自体は素直に嬉しい。

ひとしきり皆からお祝いの言葉を貰った志乃が合流し、怪談の話をした後あらためて音楽室の戸を開ける。


「まあ普通に音楽室よねえ」


特に異常も見当たらず、志乃は少しガッカリしたような声を上げるがそれ以上はなにも言わず次に教室の方に向かう事にした。


「このあたりかな?」


静流がそう言って開けた三年の教室の窓から音楽室がよく見える。

丁度真正面に音楽室が見えるこの教室が、怪談の部隊にふさわしいだろうという事になったのだが。


「条件付けはドうしますかか?」


とジョンが言った。


「条件付け?」


その聞きなれない言葉に秋華は首を傾げる。


「ああ、条件付けっていうのはなにかしらの行動を取ったら霊が現れるみたいなことだよ。 トイレの花子さんとかで一番奥のドアをノック三回して”花子さん出てきてください”と言うと出てくるとか、聞いた事ない?」


なるほど、それならわかると秋華は納得した。

そこで、スマホのアプリを見ていた志乃が提案してくる。


「じゃあ、満月の夜とかどう? それなら時間も合わせやすいし」


そう言って志乃が見ていたアプリ、月の満ち欠けのスケジュール表ソフトを見せてくる。

これなら予定も組みやすいと、志乃の提案が採用されることになった。

その後見回りを問題なく終え、20時近くなったので解散となった。

最初は不安だったが、なんとかなりそうだと秋華はホッと胸をなでおろし帰路についた。


……その後ろ姿を無機質な目で見つめている瞳に気付かぬまま。










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