第27話 ネオグランドの裏技術
スペースコロニの国、ジオシティーズ合衆国は、宇宙軍に秘密にしている技術がある。宇宙艇のステルス技術の、ある部分である。軍が使っているステルス技術より高次元なので、お忍びで移動が可能だ。これをスペースコロニー同士の連絡に使っている。これが国を保っている秘訣である。ごく一部の高官しか知らない技術なのだが、これを開発したのが、ネオグランドのアジトになっているスペースドックなので、コロニー群の国、ジオシティーズ合衆国も、ネオグランドを割り出せないでいた。開発元は、更にブラックBOXを持っている。それを使って犯行していたからだった。
ネオの両親は、すでに他界し、跡継ぎのネオに、このドックの技術を託した。だから、割の良い仕事が恒久的に入ってくる。その仕事さえこなしていれば、このドックは安泰である。それは、ステルスコアの浄化で、このドックが、その技術を独占していた。最近ネオグランドが大人しかったのは、国から、ステルスコアの浄化を依頼されていたからだった。
このドックの事務所は、アースライトを浴びれるように設計されている。窓には一面の地球。オーロラが浮かんでは消えていてとても美しい。やせぎすのネオは、三つ揃いのスーツをびしっと決めて、いつものように地球を眺めて、ため息をついていた。そこに、側近のパロがやって来た。パロは小太りで、走るのが苦手。その割には、とことこやって来た。
「ネオ様、ステルスコアの浄化、終わりました」
「いつも総督と呼べと言っているだろ」
「はい、総督」
政府のお役人が来たときは、ネオ様でいいといったくせに
「さて、本職をやらないといけないな。あの、ニュースになっている里は監視しているか」
「龍の里ですか。お祭りをやるんですよね。楽しみです」
「ちがう、害獣を祭るのだ。楽しみであるものか」
「お祭りを襲うのですか。無理です」
「だから監視しろと言っている。元凶を断てばよいではないか」
「お祭り、見に行きたかったな」
「いいからやれ」
「はっ」
軍服っぽいパイロットスーツを着た部下のパロは、ちょっと、だらしない敬礼をしてほかの仲間にネオの指示を知らせに行った。
工房では、自分たちの宇宙艇のステルスコアを浄化しているところだった。汚れたステルスコアは、大量の光を当てないと浄化できない。工房の者たちはみんなサングラスをして作業していた。
「パロさん、3層域まで浄化できました」
「そうなんだ、4層目に取り掛かってください」
ふつうは、3層域までしか浄化しない。
「全員待機。強化シェルターを下す。多孔式レーザーに、それぞれ宝石を装着しろ」
「了解」
「了解」
「パロさん、これ、なんでいつも手動でやるんです。時間かかりすぎです」
「いいじゃないですか。はめるだけなんですから。この時ぐらい働いてくださいよ」
この技術は、門外不出です。一つにまとめたら、持ち出せるようになっちゃうじゃないですか
浄化装置にはめる宝石はいつも違う。大事なのは、総合的に、ある光を生み出せばよいだけだ。これを知っているのは、ネロだけなので、パロもどうしてそうなっているのか理解できていない。
「皆さん、作業しながら聞いてください。龍の里が、猪を祭って、お祭りをするでしょう。ネオ様が、その猪は害獣だっておっしゃるんです。お祭りを監視してください」
「お祭りを襲うのですか。無理です」
「害獣ったって、ただの猪でしょう」
「人の楽しみを邪魔するのですか」
「そうですよね。いやいや、巨大猪だそうです。害獣を除けば、そんな変な祭りもしなくなるでしょう」
「猪なんて、いくらでも観測していますよ」
「龍の里近くの神聖林は、いっぱい居ます。あそこを焼くと、人里に火が行きます」
「人殺しはしたくないな」
「同感です。いやいや、祭られた猪だけでいいでしょう。とにかく祭りを監視してください」
「見に行くんじゃなくですか」
「どうせ放送されますよ」
「ネット放送じゃ、ダメなんですか」
「多角的に監視すると言う事で、誰かが、光学観察とレーダーを受け持つというのはうです」
「じゃあ、くじ引きだ」
「ほかの連中も呼ぼうぜ」
「パロさんは?」
「ネロ様の補助具の整備です」
ネロは、長いこと無重力に近いコロニー中央にいたので、地球の重力に耐えられない。骨ももろくなっている。ネロは極端だが、体の衰えは、多かれ少なかれ、コロニー人全体に言える。
「総督のですか」
「地球に、こだわるよな」
「月に住めばいいんですよ。健常者の振る舞いができるしリハビリもできる」
「本当にその通りです」
ネロの曾祖父は、地球近辺のスペースコロニーをまとめ、建国した人だ。地球衛星軌道上のスペースコロニーだけでなく、地球の太陽公転上にあるスペースコロニーまで、参加しての建国だった。両親は、その曾祖父の遺志を継いだ立派な人だったが、ネロは、生まれたときから虚弱で、ずっと見ている地球にあこがれを持っていた。その地球で、人よりも自由に歩き回る巨大生物が憎くなって数年たつ。最初は、地球に帰りたかっただけだった。
「害獣め」
ネロは、事務所のオープンパネルに、地上を拡大させた。直近で、活動した南米の山中を映し出す。そこの住人が、コーヒー畑を拡張しているのを見つけた。ネロは、それを見て、あのサーベルタイガーを駆除したのは間違いではなかったと満足した。
まさか、このコーヒー農園のリベラ家とブレンコ家が、サーベルタイガーの精霊に祝福されているとは、露ほども思わなかった。
次にネロは、曽祖父の記録をオープンパネルに出した。曽祖父は、高重力に耐える体の持ち主で、宇宙艇のエンジニアだった。ネロのあこがれの人だ。そして一番好きな映像を映す。曽祖父、アナキンが、火星のロケットレースで優勝した時の映像だ。そこには、アナキンと一緒に、MG2が、仲良さそうに映っていた。
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