第22話 ファンヤ様

 ルソン高原 それは、とても美しい高原だった。


「バップ、そこだ、そこを撮れ。まだ、収穫時期じゃないが、コーヒー畑だ。スズちゃん、ここでホバリングしてくれ」

「OK」

「コウおじさん、ロロさんが待ってるのよ。早く行こうよ」

 コウおじさんが私の言うことを聞くわけないけど。


「バップ、ちょっとずれてるぞ」

「コウさん、シャッター渡すから、自分で撮ってよ。はい、スコープ。アイキャッチでシャッター切れるから」

 このスコープは、戦闘用。シャッター代わりに使おうなんて普通思わない。バップが、だんだんMG2化してる。


「なんだ、これ。目を凝らしたら、勝手にズームしたぞ」

「水晶体の収縮にズームを連動させたんだ。見たいところがそのまま見えるでしょ」

「成長したな、バップ」

「師匠!ありがとございます」


「おい、わしの視野をオープンパネルに出せるだろ。マナミちゃんが言っていた火事の後だ。なんか変だ」


「本当、そんなに、毒シダに覆われていない」

 焼失した森は、最初、毒シダに覆われ、時間がたつと、更に厳しい自然になる。

「そうなのか、ぼくも見たい」

 狭いコクピットに、カイトまではいって来た。

「本当だ。あの、真ん中。焼け残ってないか」

 やだ、カイト近い。

「竹林やね。竹林は災害に強いんや」


「竹林って、あの竹林か」

「そうや、タケノコの竹林やで」

「シナチクの竹林じゃないの。シェルターにあるよ」

「そうだが、外に出すと育たないんだ。龍の里に、竹林は、ない。カイトに頼んで、日本を回る時に、生き残っている竹の種子を見つけたら、取ってきてもらおうと思っていたんだ」

「種子ですか?」

「そりゃ無理やで、竹は、60から120年に一度、花を咲かせるだけや。地下の茎もろうて植える方がええんと違うか」

「そうなのか、MG2君頼むよ」

「頼まれましたで。そやったら、リベラ家と、ブレンコ家に断ってください」

「サーベルタイガーの家族は、あの竹林で暮らしていたって」

「コウさん、調べましょう」

「ロロさんの所に行こう。スズちゃん頼む」

「OK」

 やっと、コウの興奮が収まった。




 リンセイ号は、リベラ家の前に着陸した。リベラ家の庭は、とても広い。ここで、コーヒー豆を干しているそうだ。リベラ家全員で、出迎えてくれた。お目当ての、サーベルタイガーの赤ちゃんもいた。


「コウ、カイト、お嬢さん、いらっしゃい。ロロです。ここにいるのは、家内のミランダ。息子のドナトに嫁のマリア、孫のアリリオです」

 みんな思い思いに自己紹介して握手した。


「あの、マナミです。この子は?」

「大きな猫でしょうマナーミ」

「ええっ!」

「あなた! ごめんなさいマナーミ。名前はあるのですけど、呼んでも、こっちを向いてくれないんです」

「ポポ、マナーミですよ。挨拶しなさい」

 奥さんのミランダさんが、ポポの背中をぽんぽんと叩くと、渋々ポポが私の方を向いた。


「くうん!くうん、くうん」

 ポポが急に、私に興味を持って、私の足を前足でさすってきた。私は、とっさにカイトを見た。カイトが変な顔をしたので、ポポが何かを訴えて来たのは分かったが、この場で、ポポと話をする訳にもいかず、赤ちゃんなのに猫の倍はあるポポを抱き上げてあやすことにした。ポポが、興味津々の顔をして私を見上げている。


「あら、ポポが、初めての人になつくなんて。ねえ、あなた」

「うれしいね。良い商談になりそうだ。マナーミ、ポポの相手をしてもらっていいですか」

「はい」

 願ったりかなったり。


「カイト!」

「ロロさん、ブレンコさんが来るまで、ポポと遊んでいていいですか」


「そうですね。コーヒーの早生があるので見てもらおうと思いましたが、カイトさんは、ブロンコが来てから食べるのがいいかもしれません。完熟の実は、甘くておいしいですよ。コウさんは、畑を見に行くでしょう」

「よろしくお願いします」

「楽しみにしています」

 メルセデスは、完熟の実を手摘みするという貴重なコーヒー。



「マナーミ、カイト。後でお茶の時間にしますからね」

「はーい」

 ミランダにそういわれて、庭先でポポと遊ぶことになった。


 スズたちは、リンセイ号の調整で機内にいる。カイトが、ちょっと困った顔をして私の所にやって来た。


「もしかして、ポポ、もう話すの?」

「すっごい、がなり声だよ。だけど、『ファンヤ』って、繰り返しているだけなんだ」

「もしかして、本名?」

「マナが呼んでみて」


「ファンヤ」

「ガオーーーン」

「そうみたい。でも、正式名はまずいよ。ミミ様に怒られる。略称でいいんじゃないかな『ファン』でも同でしょ。ねえ、ファン」

「がう」

「ファンでもいいみたい」

 精霊の名前は、その精霊に対して、力ある言葉になるので、一部の者以外には隠される。


「分かったけど、どうやって説明する?」

「あー・・・ ポポの日本名だってごまかす。ファンに反応するんだからいいでしょ」

「がう、がう」

 ファンも同意。

「無理やりだね。何とか口裏を合わせるよ」

「ファン、呼んだら来るのよ」

「がう」


 この後、お茶の時間に、ファンを呼んだら、遠くにいても、ファンが、私の許に走って来てくれた。接待をしていた、奥さんのミランダとお嫁さんのマリアが驚いた。だけど、二人とも私の言い訳をうのみにしてくれた。だって、ミランダと、マリアがファンって呼んだら、私が呼んだ時より嬉しそうに走り寄って、二人に飛びついていたもん。




 その夜。光体になってファンの所に行くと、頭の中に響くような声で、話しかけられた。言霊だ。


 ・・・様、・・・様、お久しぶりです


「ごめんなさい、マナミです。わたし、翼族です」

 そう言って、羽を広げて見せた。


 おおっ、お友達の


「えっと、詳しく教えてください。その人って誰ですか」


 そうか、まだ、出会っておらんのじゃな。なに、すぐ出会う。すまん、眠くなった


「ヒントをください」


 光の・・・光の巫女・・・


「眠ってしまわれた」

 たぶん、成体になるまで、ちゃんと記憶が戻らないのだろう。

「無理させてごめんね、ファン」


 すやすや眠るファンの頭を撫でて、少し横に座っていたが、おばあさまに、遠出をしてはいけませんよと言われていたので、それを守って、早めに深い眠りにつくことにした。



 翌朝、スズにその話をすると、スズが、バップとカイトを叩き起こして、二人にその話をした。カイトは、「その話、預言っていうより、古い記憶の話じゃないか」と、言う。私も、そう思う。でも、バップは、「過去、そうっだったとしても、また、そうなるんだよ」。スズも、「そうよ、その子、たぶんみんなと友達になるわ」と、鼻息が荒い。

 その時私は、ファンに光の巫女と、言われたことは覚えていたが、なぜか、その巫女様の名前を思い出せなかった。とても古い名前のように思っただけだった。

 MG2にその話をしたら、急に黙り込んでしまった。MG2は、ニナとその話がしたいようだった。「わしら、大事な話は、通信せんのや」と、帰りは、ずっと上の空だった。

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