第21話 テスト飛行

 リンセイ号のテスト飛行が、やっとできるようになった。元は、スカイクルーザーなので、ファイターには見えないが、ぎりぎりファイターとして登録できた。ファイターにしては、とても大きく、先端は、とがっているものの、ずんぐりしていて、やぼったいと言われそう。スズは、もう、200時間もリンセイ号のシュミュレーションをしている。MG2とバップが、宇宙艇の製作をニナのために優先していたので、ずっと調整してもらえなかったが、リンセイ号を宇宙艇とドッキングできるように施作したので、リンセイ号の中身にも、手が入り、本格的なテスト飛行をすることになった。


 私は、フクロウのミミ様から聞かされて、とても、気になっていたことがある。メキシコの山中に、サーベルタイガーの赤ちゃんが人に飼われている。この子は、精霊の子だと教えられた。両親と兄弟は、ネオグランドに殺されて、一族は、この赤ちゃんだけになった。私は、この赤ちゃんに会いたいとずっと思っていた。


 精霊の赤ちゃんが住む太平洋側の険しい山岳地区は、コーヒーの産地で、メルセデスという品種を育てている。メルセデスの意味は、スペイン語で神の恵みという意味。ミミ様は、その地方が、あまり、森に侵食されていないのは、その精霊様のおかげだろうと言っていた。このコーヒーが、龍の里のような防護林の役目を果たしているそうだ。カイトと粗忽屋コウは、このコーヒーに飛びついた。太平洋に面した険しい山岳地区の昔の地球の現風景写真と、コーヒーをセットで売り出せば、商売になるというのだ。


 MG2は、宇宙に出たがったが、元々、カイトの目的が、地球の国々を見て回ることなので、全員一致、プラス粗忽屋コウの賛成で、メキシコに行くことになった。なんでも、MG2かニナがいれば、現地での入国審査がいらないということで、事前申請しただけで、現地に直接向かうことになった。


 バップとスズは、リンセイ号の調整で、とても忙しくしていた。操縦席は、最初、カイトに合わせた作りだったが、火星のロケットレースに出場することが決まり、全てスズの大きさにカスタマイズした。


「どう?」

 バップが、スズの横にしゃがみこんで、操作性を聞いていた。

「ナビゲーターを一人乗せていいんでしょ。これだと、私、一人だけって感じ」


 最初の作りが、金星の宇宙艇と同じ3人操作のコクピットで、正面にパイロット、パイロットの右後ろに、兵器と科学分析、左後ろに、通信と艦内環境の席になっていた。これを無理やり、一人操作に集約したので、コクピットが、ガランとした感じになっている。


「師匠、もう、話していいかな。それとも、パイロット席の後ろに人が座るサブ席作る?」

 バップが、これ以上隠していられないと、MG2の許可をもらった。

「しゃあないな、せやけど、艦長・・、おっと、わしの席は、譲らんで」

「じゃあ、このままで」

「なんのこと。私に隠し事? バップ」

「とんでもない。リンセイ号を申請するとき、スズに、守り手モードになってもらいたくなかっただけだよ。いつものスズが好きなんだ」

「えっ!」

 スズは正直者だ。顔が赤くなった。

「そういうこっちゃ。そんなら、通常モードにするで」


 MG2が自称艦長席に座って、コクピットを通常モードに戻した。スズが、最初に見た3人操作のコクピットに戻る。


「すごい、ファイターじゃあないみたい」

「そうさ、だから、申請が終わるまで、このことを言わなかったんだ」

「知らんかったら、嘘つく必要もないやろ。これがばれてみい、申請、通らんかったで」

「うん」

「じゃあ、師匠、化学分析席に座ってよ。ぼくが、通信席に座るから」

「わしらがサポートするから、好きに触ってみい」

「じゃあ、点検からね」

 スズは、慣れた手つきで、リンセイ号の点検を始めた。




 そのころ、コウとカイトは、リンセイ号のクルーザー部分で、私の情報をもとに、サーベルタイガーの森のたもとに住む、リベラ家とブレンコ家の情報を引き出して、「当たりだ」と、喜んでいた。2軒ともコーヒー農家。それも、メルセデスを育てている。


 早速コウが、リベラさんに連絡した。すぐ来てほしいと言う事だった。コーヒー農園は、以前に比べて、とっても小さな規模になっていたが、買う人がいるのなら、大きくしてもいいという。たぶん、まだ、息子さん夫婦が、都会に帰らないで、いるのだろうなと思った。



「どや、そっちは」

「リベラ家に連絡ついたわ。すぐ来てほしいって」

「やったね。すぐ発進できる。スズ、惑星ナビゲーションON」

「OK」


「スズ、ゆっくりスタートね。里のみんながびっくりしちゃう」


「OK、OK。スタンバイ。行くわよ」


 スズは、スガンと、リンセイ号を出発させた。


 たぶん、あれで、ゆっくりスタートさせたのだ。スズは、ずっと、戦闘訓練をしていた。発進も、ほとんど、緊急発進ばかり。ロケットレースは、適度に相手の邪魔をしてもよい。「先頭走りたかったら、敵の妨害をするんじゃなく、避けること覚ええ」などと、MG2にけしかけられていた。


 今日は、梅雨の晴れ間。梅雨が明けると収穫祭になる。コクピットに窓はないが、全面オープンパネル。窓のように外を映す。私もコクピットで外を見たい。コクピットは、3人だけどごり押しで入るつもり。打ち合わせをしているカイトとコウを置いてコクピットに走った。


 すごい、最初は、ちょっとショックがあったけど、反重力バラストが効いているのね。加速Gを感じないわ


 コクピットに入ると、そこは、雲一つない真っ青な空の中だった。「きれい」と、言おうと思っていたら、その空が、どんどん、濃くなって、コバルト色になって、濃紺になって、オーロラが際立ってきたって、これって、成層圏に向かっているんじゃない。


「バップ、宇宙には、行かないんでしょ」

 宇宙船の中が安全だとわかっているが、オーロラを見ると気が引ける。

「そうだよ。だけど、衛星軌道から目的地に行った方が速いんだ。なんせ、目的地は、地球の反対側だからね」

 バップは、スズと顔を見合わせて、ニコッとしていた。私は、オーロラを以前ほど怖がらなくなっていた。

 

 衛星軌道に出るには、申請が必要だ。たぶん、それも簡易で済ませたのだろう。開いた口が塞がらない。


「第3軌道ルートが空いてる。標準加速」

 標準加速とは、3G加速(重力加速)のことだ。これは、バーム軍の太陽系内標準航宇速度。第3軌道ルートとは、バーム軍の軌道ルートのことだ。


「軍の軌道ルートを使うの?」


「空いてるからな。すぐ来てくれって言われたんやろ。この席に座りい。わし、自分の席に戻るで」

「師匠」

「了解です艦長」


 たぶん、一時間もしないうちに現地についてしまう。初めての宇宙旅行なのに、景色を楽しむ暇がない。私も、計器類を触れるぐらい学習は、しているが、シュミュレーションモードが嫌いなので、実戦の役には立たない。


「何もしなくていいんでしょ」


「わしが、艦長・・うぉほん。自分の席に着いたからな」


「艦長、ファイターのスクランブルです。コードナンバー、ブルーフェザー」


 MG2、スズに艦長って呼ばせているんだ


「馴染みの奴や。スズ、ちょっとあれやってや」

「師匠ここで?」

「OK」


 リンセイ号が、急にとんぼ返りをした。相手のファイターが、機体の底をリンセイ号に合わせて、逆トンボ返りをする。


「きゃー」

「まな、ごめん。ファイターの挨拶なんだって」

 本当かな?


「よっしゃ、よっしゃ」

 コードナンバー、ブルーフェザーは、そこから東を目指した。バーム軍の宇宙ステーションがある方角だ。客室の2人からブーイング。さすがに、重力バラストが効かなかったみたい。私たちは、南東。太平洋側からメキシコに侵入した。

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