第20話 収穫祭の打ち合わせ

 今日は朝からみんな忙しくしている。私も、厨房に立ちっぱなし。それというのも、収穫祭の打ち合わせに、だるま市の市長、ワージシティの市長、白門島の島会長と、重要なお客さんが来て、お父さんと打ち合わせをしているからだ。


 スズは、ちょっとうらやましいけど、両親が、だるま市の市長について来たので、カブ爺の代わりに、里の最近の様子を話している。スズの両親は、Mシリーズのメンテナンスロボットが、地下の倉庫で宇宙艇を作っていると聞いて、地下に降りていった。スズからすると、MG2と一緒に宇宙艇を作っているバップを紹介したかったんじゃないかな。どうせそうなるから、結果オーライ。

 普通、地上では、シャトル級以上の宇宙船を制作してはいけない。しかし、Mシリーズのメンテナンスロボットは、超法規が適用され、シャトルより大きな宇宙艇まで作ることが出来る。とっても珍しいことなのだ。


 今日のお昼は、大変だ。ワージシティの市長が、ここでお昼を食べると言ってきた。バップのお母さん、敦子さんが言うには、「収穫祭で食べる気みたいよ。今回は、予行演習」と、言っていた。お父さんは、「市長生命掛けていないだろうな」と、心配していたが、敦子さんは、「もう、老い先短いんだから、それぐらいのことで、反発する人いませんよ」と、言うのだから、そうなのだろう。だけど、公の場で食べるということは、ワージシティの市民のみならず、他のシェルター人にとってもセンセーショナルなことだと思う。多くの人が、シェルターの外の食べ物を怖がって、食べられないのだから。


 カイトは、お父さんのサポート。昼間オズチ様と話せる唯一の人なので、打ち合わせに参加している。でも、カイトのことは、公にしないことになっている。白門島の島会長にだけ真実が告げられた。白門島は、精霊との付き合いが長い。実際は、ワージシティの市長にも、だるま市の市長にも個人的に教えるそうだ。今ここにいる市や里や島が、無磁気状態の困難を乗り切る先駆者になる。秘密にしていて、それが、後でばれる方が気まずいと言っていた。白門島の島会長に教えるということは、島のみんなにも、口伝で伝わるということ。カイトを助けてくれる人が、一気に増えることになった。


「それじゃ、行くわよ」

 敦子さんの号令で、料理が運ばれることになった。おばあさまは、接待のために、厨房に立てなかった。今回の仕切りは敦子さんになる。最近敦子さんは、平気で、里の食べ物を試食している。それは、セレナさんも一緒。私は、デザートのチョコレートケーキを任された。 


 献立は、ごくありふれたもので、ご飯に筑前煮、メバルの煮つけである。魚は、当然天然もの。


 ワージシティの市長は、「こんなおいしいもの食べたことない」と、泣きそうになりながら食べていた。本番の鯛の造りや煮つけを食べたら、泣きだすんじゃないかと心配した。私のチョコレートケーキを食べる前に、打ち合わせになったからがっかり。市長が、打ち合わせに私が参加したことを歓迎してくれた。


「マナミちゃんが来たことだし、主様に撫でてもらいたい人はどうしたらいいか知りたい。マナミちゃん、教えてください」


 市長、ケーキも食べて(心の叫び)

「えっと、主様は、鼻が器用です。鼻先に行けば撫でてもらえます」


「ほう、鼻で。カイト君から、体に触るのはOKだと聞きましたが、触ってはいけない部位は、ありますか」


「たぶん座って動かないようにしてくれると思います。だからどこを触っても大丈夫なんですが、額の傷跡は痛がると思います」


「傷跡に触らないのは当たり前でしょう」

 だるま市の市長が、わたしに相槌をうってくれた。


「私たちの話していることは、分かりますから、なでてくださいと言えばそうしてくれます」


「本当に! それは、素晴らしい」

「大人も大丈夫か」

 白門島の島会長は、オズチ様に撫でてもらう気満々だ。


「おじさんも!」

「ダメか?」

「大丈夫だと思います」


「ふー、マナミに、お願いしそうになったぞ」

 白門島の島会長。石塔家は、お母さんの実家だ。徹おじさんは、伯父にあたる。


「兄さん、主様の警護をお願いします」

「あの、ネオグランドってやつだろ。来たら、撃沈していいか」

「中国の巨鳥の件もあります。捕まえて、罪を償わすべきです」

「中国に引き渡すということか。了解した。ただ、事故はあるかもしれん。うちのは、荒い」

「穏便に」

 島会長も、カブ爺同様、ネオグランドには、相当頭に来ているみたい。お父さんが、抑える方に回るの珍しい。「ネオグランドには、うちも気を付けるよ」と、ワージシティの市長も、だるま市の市長も言ってくれた。



「好物は、サツマイモだと聞いたが、他に何かありますか」

 今度は、だるま市の市長だ。だるま市は、交易をしている町なので、いろいろな物資がある。


「今回は、サツマイモだけでいいと思いますぞ。里の者は、みんな薩摩芋も栽培しています。食糧難になった時、主様に、サツマイモで助けてもらいましたから、そのお礼がしたいのです」


「了解したが、他に何かできないですか。マナミちゃんは、付き合い長いのでしょう」


「主様ですか? とっても歌が好きです。たまに歌ってます」


「音楽か! どんな歌だ」


「童謡とかが多いかな。古い歌ばっかりです」


「いいね」


 お父さんや伯父さんは、祭りらしくなってきたと、ノリノリだ。


「古式の祭か。太鼓とかか」

「いいですね」

「こちらでも調べましょう」

 ワージシティと、だるま市の市長までノリノリになった。


 おばあさまとカイトは、私の応対をニコニコ見守ってくれた。良い祭りになる予感がした。

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