第19話 オズチ様の修業

 オズチ様は、怪我が治って、最近は良く散歩をしている。今日は、みんなが来るので、住処の巨木の下で、うとうとしながら待っていた。


「オズチ様ー」

 マナミが嬉しそうに手を振ってオズチ様の所に行く。他の3人は、聞いてはいたが、あまりの巨体にちょっと遠巻きに止まった。

「寝てる」

 マナミが嬉しそうにみんなを手招きする。

「みんなで呼ぶとびっくりして起きるから、みんなも一緒に起こして」

 どう見ても悪戯っぽい顔をしているが、みんなマナミに従った。全員オズチ様のまん前に立った。

「せえの」

「オズチ様」×4



「ブフォ、何じゃ、おいしいもんくっとったのに」

「薩摩芋食べてる夢見ていたんでしょう。オズチ様、みんなで来ました」


「マナか、今日は、やけにはっきり見えるの」

「やだ、実態です」


「マナ、よく、”ぶふぉ”だけで何言っているかわかるね」

 カイトが感心する。

「オズチ様は、マナの一番の話し相手よ」


 みんなを見たオズチ様が、ぶふぉーーーと、言って立ち上がるでもなく頷いた。そして、ちょっと頭をしゃくってマナミを促した。



「これからカイトが、オズチ様と話せるようにするね。まず私がオズチ様に光色化してもらうの。その状態で、私がカイトに抱きつけばいいのよ。私たちはチームだから、相性がいいのね。そうしたら、私の光色が、カイトに伝播する。ちょっと苦しいかもしれないけど光色が、いい感じになったら、オズチ様が合図してくれるから、サクランボを食べて光色を冷ましてね。そこがカイトの高周波側の安定周波帯ってこと。カイトは、その周波数を覚えて。何回かやれば、オズチ様と話せるようになるって」


「サクランボ」

 そう言ってカイトが手に持った。

「口に含んでいた方がいいわよ。オズチ様の合図が来るまで我慢できなかったら食べて。最初は身動きできないぐらいキツイよ」

「わかった」


 オズチ様の鼻先に手を置くと、オズチ様が金色の光色で、わたしの光色を加速させた。今の私には見えないけど、羽がバンと広がって、びっくりするぐらい光っていると思う。恥ずかしいけど、これから、カイトに何度も抱きつかなくてはいけない。スズにずっとこの件で、からかわれていたが、帰ったらもっとからかわれるだろう。やっぱり顔が赤くなった。



「おどろいた。マナの羽は、片翼で、人をすっぽり包み込めるぐらい大きくいんだね」

 マナミは、金色に発光しているが、白い羽だと認識できる。不思議な感覚だ。そのマナミが、抱きついて来た。金色の光が自分に伝播したのだが、自分は、青く光り出した。最初は、オーラが少し膨らんだ程度だった。


 いきなり、キーンと光色が加速された。


 ブフォ、刺すような光じゃの、麻依と同じ青色か、懐かしいのー

 麻依とは、綾瀬麻衣子。カイトの遠いご先祖様。


 カイトは、体が、バンと張ったようになり動けなくなった。


「く、苦しい」

「さくらんぼを食べて!」


 マナミに言われて、口に含んでいたさくらんぼを噛んだ。すると、光色が覚めてきて、楽になる。


「オズチ様!」


 オズチ様は、もう少しだったと、首を少し横に傾げた。


「カイト、もう少しよ、もう少し我慢して」

 そしてまたカイトに抱きつく。


 今度は、相当我慢した。オズチ様が、今だと合図した。

 ブフォ!

「カイト、そこで加速するのをやめるのよ。さくらんぼを食べてその周波帯を覚えて」


 体がキツイ。今度は、ド――ンと、空に飛びあがりそうな気分になった。


 ガボッ!

「だめ、サクランボを食べて」


「ハアハア、今のは、何だったのかな。空にド――ンと飛び上がりそうだったよ」


「カイト、それ、成仏しかかったってことじゃないか」

「そうかな」

「そうよ」


「結構きついね」


「分かったわ、カイトは少し休んで、次は、スズよ」


 しかし、スズも、バップも、少し加速しただけで、自分のような変化は、起こらず、涼しい顔をしている。


「カイトー おれどうだった」


「スズもそうだけど、そんなに変化していないよ。でも、少しオーラが膨らんだかな。スズの方は、なんだか、オーラが、ふよふよしているように見える」


「本当! それって、一歩前進よ」

 マナミが、とっても嬉しそうな顔をした。

「スズ、ちょっと手の平出して」


 スズが手を広げたところに、マナミが、指を長く延長させた光色で、トントンと、触った。


「あっ、トントンね。わかる」

「スズも、モールス信号習って。夢の私と話せるよ」

「おばあ様と、同じになったのね。嬉しい」


「マナ、ぼくもやってよ」

 しかし、バップは、マナのトントンを感じることが出来なかった。


「まだみたいね。でも、すぐよ」

「そうかな」

 しかし、オズチ様は、バップに何か感じたようで、マナミの背中を鼻でトントンしていた。


 ちょっと残念そうなバップ。でも、二人の成長を見ていて、自分も、もう一度挑戦したくなった。


「今度は、自分の周波数帯を覚えるよ」

「頑張ってね」

 そう言ってマナミは、また、カイトに抱きついた。マナミの光色がカイトに伝播して、また発光しだした。

 オズチ様が、マナミをトントンした。

「そこよ、そこが、カイトの安定周波帯よ」

「苦しい」

 ブフォ!

「えっ!」

 オズチ様が、マナミを後ろから押した。マナミは、カイトにまた抱きつくことになる。びっくりした海人は、その周波帯で、加速するのをやめた。私、絶対顔が真っ赤になったと思う。


「あれっ、苦しくない」


 ブフォ、ブフォ、ブフォ 

 オズチ様が、大笑いしている。この方法は、先代の夢巫女が、安定した時のやり方だった。


「オズチ様!」


 ぶふぉ、ぶふぉ(そう怒るな、ほれ!)

 オズチ様が、カイトの方に頭をしゃくって見ろと言っている。


「もしかして、カイト、さくらんぼうを食べていないの」


 カイトが、サクランボを口から出した。

「光っているんだけど、なんだか自分のオーラがふよふよしているよ」


「やった。そこがカイトの安定周波数帯よ。自分で冷めること、できるかな」


 カイトは頭を斜めに傾けた。

「自分で加速したわけじゃないからね。戻れって言われてもよくわからない」


 スズが、マナミから聞き取っていたことを思い出した。

「そうだ、龍の鬚をカイトに掛けてみようよ。もし加速されなかったら、最高の状態だってマナが言ってたよ」

「本当?」

 マナミは、夢のことを忘れる。


「とりあえず、さくらんぼを口に含んで」


 龍の鬚があるロケットを掛けても、カイトは、これ以上加速しなかった。ここで、サクランボを食べて元に戻ったカイトだったが、その後は、何度マナミが抱きついても、その安定した周波帯で、加速が止まった。


「オズチ様、やりました」

 マナミの喜びにオズチ様が頷いて、青く光り出した。


「カイトじゃったかの。麻依と同じ青色じゃ。懐かしいのー」

「オズチ様ですか」

「いかにも、まだカイトの光色に合わせて話さんと、聞こえんじゃろうの。修行は、これからじゃ。まあ、この光色を覚えたんじゃ。光色が冷めても、わしの声が聞こえるんじゃろ」

「はい」


「カイト?」

「カイトー。もしかして、オズチ様の声が聞こえるのか」

「すっごい大きい声だよ。でも優しい声かな」

「正解」


「マナに言うてくれるか。カイトは、光色も色も先代の麻衣と同じじゃ。サクにもそう言うてくれ」

 それを聞いたマナミが嬉しそうな顔をした。

「じゃあ、古の神様とも話せるんですか」


「修行次第じゃろ」


「うちの文献に、そんなの無かったぞ」


「夢見巫女の領分だったからよ。その内、言霊習えって言われるよ。私もまだなんだ。とっても大変だからってミミ様が言ってた。でも、カイトがいるんだったら、修行できる。そう、古文書にあるのよ」


「鍾乳洞の入り口に、神聖林があるのは、その先輩のおかげじゃ。テオに聞いてくれ。薩摩芋は無事かとな」

 テオとは、初代ガーディアン。


「あっ、それは、読みました。オズチ様専用の畑なんですよね」

「今は、あの洞窟には、入れんでの。そのうち収穫してきてくれるか」

「了解です」


「カイト、こっちもお願いがあったでしょ」

 スズが、突っついて来た。


「えっと、里の収穫祭に、オズチ様も来てくれないかと、里の人に言われました」

 サクランボの収穫祭。


「本当か、マナに断られていたんじゃ。ええんか、マナ」


「カイトが、オズチ様と話せるようになったから、OKです」


 ぶふぉーーーーーーーーーーーーーーーー

 超巨大な猪の、喜びの雄たけび。


「オズチ様、サツマイモをいっぱい用意して待っています」

「白門島の海賊もいっぱい来ていいですか」

「ワージシティもいいですよね」


「みんな、いっぺんに喋らないでよ。通訳者は一人なんだよ」

「話す方は、もともと聞こえているの!」

「ええっ、海賊?」

「あれ、話していなかったっけ。うちのお父さんは、そこの首長だよ。今度話してあげるね」

 スズは、白門島で、お嬢と呼ばれている。新派も多い。バップは、結構、前途多難なのだ。


 4人とも、それからしばらく、オズチ様とおしゃべりして、里に帰った。今日は、大収穫の日だった。

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