第18話 コン
3人は、その足で、神聖林に入ってオズチ様に会う。龍頭山を廃墟の町側に下り、町の奥に入って神聖林を目指す。
途中、海岸側にある桜の木で囲まれた試験場に寄り、オートモービルを借りる。神聖林の入り口まで、これに乗って移動した。
いつもそうだが、コンが神聖林の入り口で待っていてくれた。カイトとバップは、初対面。熊ほどもあるコンの巨体に驚いた。オズチ様は、コンの三倍はある。もっと驚くことになるだろう。
「コーン!」
「ばうっ」
「コン、カイトとバップよ」
「コン?」
コンは、この二人、なんだか見たことある?と、首をひねったが、いつものように匂いを嗅ぐ仕草をした。
「二人とも、コンの鼻先に手を出すのよ。それが最初の挨拶」
スズに言われ、恐る恐る手を出す二人。
コンは、鼻先を丁寧に二人の手、一人一人に持って行き、匂いを嗅いだ。
「くーん、わふっ」
「あっ、しっぽを振ったわ。二人とも、今日からコンの友達よ」
「そうなんだ良かった」
「まだちょっと怖いけど、触ってもいいかな」
「いいんじゃない」
バップが、恐る恐るコンに触るのを見てカイトも加わった。二人とも、神聖林の生きものと交流するのは、今日が初めてだ。
「コン、道案内お願い」
マナミもスズも、カイトとバップを待っていたから、神聖林に入るのは、今日が初めてだ。特にシェルター人のカイトとバップにとっては、未踏領域に足を踏み入れることになる。
神聖林それは、自分が小人になったのではないかと思うほど、大きな巨木が点在する林。その、巨木の下に生えているシダ類も大きい。コケ類まで大きな植物になっている。
緑の海の底のような世界、それが、神聖林だ。
ここに住む動物や昆虫も大きい。入り口付近にいるのは、おとなしい動物たちで、シマリスや、野生化した鶏など、人の生活圏になじめそうな動物たちだ。それでも、普通サイズの倍はある。昆虫もそうだ。どれもサイズが大きくなっていた。
そろそろ梅雨の季節になる。木も草も花を咲かせて生き生きしていた。
「ここの自然は、優しいわ。でも、奥に行くほど厳しい自然になるから気を付けて。コンがいるから、他の動物は、変なちょっかいを出してこない。コンが居なかったら、大人の守り手が、五人は、付いてくるのよ」
バップが、おっかなびっくりみんなの後をついて行く。
「でも、いきなりビギナー四人のパーティって感じ?」
「主様に会うのよ。初めて会うのに大人数は良くない。これは、白門島の口伝にあることよ」
スズが、主様とのかかわり方を話す。
「今だとスズに守ってもらうしかないや。頑張ります」
「急がなくていいわ、体力測定順調だったじゃない」
「カイトもね」
二人とも、やっと、艦橋用パイロットスーツの効果が表れ出した。スズは、ニナの学習機の性でとんでもないことになっていたから、全く追いつける気がしない。バップは、それでも、MG2が言う、頼れる男を目指す。
カイトたちは、光サイドの話をしていた。光素側の全般を光サイドという。カイトの家にあった古文書にそうある。
「どんな感じ。みんな元気でしょう」
「海の底にいるみたいなのに、植物たちが光を放っているから、下からも光が来るだろ、驚いたよ」
「夜しか見たことないけど、そうかも。ここは、神聖林でも穏やかな所よ。ここの植物たちの、光サイドの種子を廃墟の街に植えると、廃墟の街は、今よりもっと穏やかになるんですって。もし、現実とずれている果実や種を見つけたら教えてね。持って帰って廃墟に植えるから」
「まだ六月だよ」
「サクランボは、六月に収穫できたでしょう。そうね、じゃあ何か見つけたら、オズチ様に見てもらう?」
「そうだね」
カイトが、周りをきょろきょろしながら歩き出した。マナミは、カイトが躓かないようサポートする。
たぶん花粉だろうが、林の中で舞っているので、蛍が飛んでいるように見える。とても幻想的な世界になっていた。
「神聖森だと、もっと深いし濃いんだよね」
「そうだと思うけど、人が住んでいる話を聞いたことない。奥神聖林には、人が住んでいるんですって。たまに神聖林まで出て来て薬を売ってくれるの。私は海側だから見たことない」
「今度、山側の人に聞くよ。あんまり蟲がいないね」
「これから増えるわ。危険になった虫もいるから、カブ爺に聞いてね」
奥神聖林の人たちは、奥神聖林に住んでいるからと言って全く文明とかけ離れた生活をしているわけではない。自然エネルギーシステムが充実しているので、自立できるし、情報も入ってくる。しかし、彼らは、自分たちの情報を外に漏らさない。シェルター人だったカイト達にとっては、謎の人たちである。
「コン!」
コンが小さな声で上を見上げた。
「あっ、飛ビムカデがいるみたい。みんな静かにね。カイト、大声出したらダメよ。林の番人なの。騒ぐと、他の動物を呼ぶわ。実体のある動物も来るから注意して」
「でかい!」
飛びムカデは、頭こそ、ちょっと丸みを帯びているが、全体的に平たく、とても長い。全長10メートルはある。
「羽がないぞ」
「光サイドにしかいない生きものよ。でも、いるってことは、元は実態があったってこと。たぶん反重力生物よ」
「仲良くなれるかな」
「野生だからどうかな。オズチ様に聞く?」
「オレ、今日話せるようになるのかな?」
「カイト次第。2人目だから、やり方は、分かっているって」
そう言ってマナミはちょっと顔を赤くした。
バップが立ち止まっているのを見て、スズがアドバイスした。
「バップは、普通にしていればいいわ。まだ関係ないとおもう」
「普通って言っても、見えないし」
「私もよ。そうね、今ここだと、光サイドに影響できるのは、カイトだけでしょう。私たちの場合は、里の人たちと一緒だと思う。私たちが、少々騒いでも何も起こらない」
「ぼくらも鍛えられるんだよね。他人ごとじゃないとおもんだ。光サイドのことを勉強しないといけないね」
「いろいろあるから大変かも。ニナに言ってマナの夢日記を学習機に入れておくかな! おばあさまに相談してみるね。ニナにまとめてもらった方が早いと思うんだ。ニナにいろいろ聞いて」
「マナの夢日記って里の秘密なんじゃないの。ニナは、バーム評議会と繋がっているんだよ」
「マナがもうすぐ、活動できるようになるでしょう。情報公開できるもは、評議会に掛けるって、里長のおじさんが、おばあさまに相談してた。とりあえず全部情報を入れちゃって、ニナに管理させればいいのよ。マスターは、私達よ」
「そうだよね。ぼくは、MG2の弟子になっちゃったから、忘れてたよ。マスターって言っても、お願いって感じだけどね」
「分かってる」
スズは、たまに守り手モードに入るから押しが効く。
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