第14話 ニナ
やっとお昼に起きたMG2は、修理用の巨大ワゴンを従えて、里の貨物用反重力船や老朽化した農機具などを片っ端から直して夕方には、家に戻ってきた。
バップとカイトは、学習機の基部を作り終えて一度資材を取りにワージシティーの綾見家に帰っている。スズと食堂でおしゃべりしている所にMG2が声を掛けてきた。
「マナちゃんにスズちゃんか。ワシ、まだ挨拶してへんかったやろ。ごめんな」
「MG2、元気になったんだ」
「二日酔いは大丈夫?」
「平気、平気。バップがな、スズちゃんすごいんちゃうか言うんや。もしかしたら、ファイター乗りかもしれんて」
「そうかな?」
「もしそうやったら、わしと組まんか。今年のロケットレースは、わしらで、いただきや」
「面白そう。ロケットレースって十月だよね。でも、もう、ファイタークラスの一等は、決まっているってニュースで見た」
「そんなん関係ない。ファイタークラスは、前評判が一番当てにならんクラスなんや。いきなりすごい新人が現われて、優勝をかっさらって行く。それが、ファイタークラスや」
「わたしは?」
「マナちゃんか。カイトがちゃんと教えてくれんのや。ワシが聞きたいわ。大事にされすぎ違うか」
「そんな事ない」
「わし、カイトに断らんで、ええんかな」
「まずいかもねー」
「スズ! 大丈夫よMG2」
「ホンなら、一つだけ。はいこれ」
MG2は小さな石を出してきた。それは、緑色の石で小ぶりな物だ。
「ちょっと浮かせてみて欲しいんや。やってみ」
しかし、浮くなんてこともなく、何のことだろうと思った。悔しいので、手の平に反発フィールドを膨らませて、わざと浮かせて見せた。
「なんやこれ、見たこともない現象やな」
「どう、浮かせたわよ」
「いやいや、持ち上げたんやろ」
「手から離れているんだから、同じことでしょ」
「ごまかされへんで、この石は、浮遊石や。天然物やから、人の意思に反応する。その時、ちょっと光るんや。これ、光ってへんで」
「マナ、降参したほうが良くない」
「はい、はい、降参です。私が持ち上げました」
「やっぱり。そんなら、アレか、光素体言う事か」
「正解よ」
「初めてや。そんな人に出会ったんは。学習機改良せんといかんな。ワシの製作者やけど、エーテルフィールドのエンジニアやったんや。綾瀬博士の研究は、調べつくしたで。実物が、ここにおるんか。ええ時代に、起動できて、幸せや」
「綾瀬って、カイトのご先祖様?」
「そうやで、宇宙時代を切り開いた先駆者や。本当に研究したかったんは、光素のみの世界の考察で、地球の生命との関わりがテーマやった。地球は、生命に溢れているやろ。その伝統言うか、根源言うか。他の生命体が欲しがっとる知的貯金みたいなもんやな」
「精霊様のことかな」
「記憶のことじゃない」
「ええ線いっとる。感情もそうやで、マナちゃんは、メッセージ性が強い人や。魂に呼びかける事が出来るんとちがうか」
「言霊のことかな? 習った事ない」
「わしが、拡声器作っちゃる。ガハハハハ楽しみや。もっと詳しく聞いてええんかな。多分理解できるし、力になれると思うで」
「うん、やっぱり、カイトたちが一緒の方がいい」
「そういうことよ。MG2」
「了解、了解。ワシの方も、ニナ放って、勝手やりすぎたら怒られるから、急いで、ニナ呼ばんとやで」
「そうそう、ニナさんってどんな人」
「パートナーやけど」
「それぐらい分かるわよ」
「関係よ、カンケイ。MG2が酔ったら、ニナさん怒るんでしょ」
「分かるか。そうやな、わしは、製作者の個性を引きついどるんやけど、ニナは、その奥さんの個性を引き継いでいるんや」
「えー夫婦」
「夫婦言われてもなー照れるで、ほんま」
「奥さん美人なの」
「当たり前やないか。しもうた、今言った事は、ニナには内緒やで。これでも、頼りになる男で通したいんや」
「いいんじゃないの」
「そうよ」
「とにかく内緒や。カイト達は、まだ帰ってこんのか」
「資材の搬入に手間取っているのかも」
「そういえば、宇宙艇作って欲しそうだった」
「ほんまか、やっとその気になったか。分かった、ニナがいる。アハハハハハ」
「ちょっと、MG2泣いてない」
スズが耳打ちしてきた。
「ニナさんは、宇宙艇のメインコンピューターなのよ」
「なるほど」
「ちょっと裏技使わせてもらうで。ガハハハハハ」
その夜、里の衛星軌道上に、バーム軍のド級戦艦が停泊していたそうだ。その奥には、プラネット級も。夜中に、こっそり、宇宙艇のメインコンピューターが運び込まれた。私は、それを神聖林に行っていて見逃していたので、ニナさんに会ったときは驚いた。
翌日、カイトたちが、地下の倉庫に来て欲しいというので、スズと二人で向った。いきなり、学習機が完成していたので、驚いた。それも、挨拶された。
「まあ、あなたが、マナさんね。バップが言っていたカッコいい人がスズさん。ニナです。仲良くしてくださいね」
「初めましてって、すいません、ニナさん何処にいるんですか」
スズが何処に向かって挨拶していいか分からないと、とまどった。
「学習機に決まっているじゃないですか。私は、これのオペレーターです。私は、ちょっと気難しいの。だから、宇宙艇が完成するまで、ここに仮住まいよ」
「よろしくお願いします」
そういわれても、学習機に向って挨拶するしかなく、微妙な感じだ。
「ニナ、やっぱり、自立移動せえや」
「MG2が、私の目になってくれるんでしょ。私は、この時代に馴れる為に当分動けないわ」
「そうやけど」
「師匠、もしかしたら、ニナさんのお尻に引かれてる?」
「そんな事あらへん。ニナの情報収集量が異常なだけや」
私も、スズと、ひそひそ話をした。
「奥さんに頭上がらないんじゃない」
「私もそう思う」
やっぱり、お尻に引かれている。昨日の勢いは、何処にもない。
「オレ達は、もう、学習機に入ったんだ。水着に着替えて、二人共入ってくれないか」
「そうなんだ。ニナさん、僕たちには、興味ないみたいなんだ」
「そんな事ないです。時間が掛かるだけ。私の製作者も最初は、バップ君たちみたいだったわ。なんとかなります」
「とにかく二人も頼むよ」
「分かったわ」
スズと私は、水着に着替えて、一人ずつ学習機に入った。まず、スズが、先陣を切った。学習ポットに入ると、頭の所につける端子が、ヘルメットごと降りてきた。ヘルメットと酸素吸入機をつけるとポットが羊水で満たされていく。羊水は、生体電気を帯びて青く光りだした。
ニナは、学習スピードを上げていく。
「スズさんすごいわ。でも、ビジュアル系はどうかしら」
ニナは、学習機のモードをシュミュレーションモードに変えた。
「MG2手伝って、ちょっと変じゃない」
「そうやな、羊水が沸騰して見えるで。せやけど水温は、かわっとらん」
「シュミュレーションモードだとありえないスピードよ。普通の人を遥かに超えているわ。この子が本当のマスターなの」
「いいや、この子もや。スズちゃん、聞こえるか、あんさん、ファイター乗りになれるで」
スズは、学習ポットの中で、にっこり笑った。MG2も、スズとファイターに乗れると、大喜びしている。
次は、私だ。
「マナちゃんもすごいわ。じゃあビジュアル系ね」
シュミュレーションモードにしたとき、異変が起きた。
「MG2、今度は、全然インプットされない。どうなっているの」
「何でやろう。わからん」
そこで、カイトがMG2に代わって私に話しかけてきた。
「それ、学習機に抵抗してるだろ」
「ごめん、無意識なの」
「何のこと?」
「どないなっとる」
「マナが、金色に光って、羊水の青色を打ち消しているんだ」
「この青い光は、怖くない、受け入れなよ」
「わからない、オーロラみたいで怖い」
「羊水の内圧が上がり出したわ。緊急停止」
学習機は、緊急停止して、羊水が排水された。
私は、ショックを受けた。
「ふう」
「大丈夫、マナ」
スズが、私のところに飛び込んできた。しかし、守り手モードになっていないので、ひどい状態ではないと思った。
「学習機に抵抗していたわ」
「そうやな」
「カイト、マナは、どうなったんだ」
バップも心配してカイトと私を交互に見ている。カイトが、私の手をとってくれた。
「大丈夫?物凄く怖かったんだろ」
「うん。スズのを見ているのに、ごめんなさい」
「ニナ、MG2、悪いけど今日はここまでにしてくれないか。スズ頼むよ」
スズが私をお風呂場に連れて行ってくれた。シャワーを浴びると、落着いたので、部屋で、休むことにした。
トントン
「カイトでしょう。開いてるから、入ってきて」
入って来たのは、セレナだった。
「カイトの方が良かった? お昼に来なかったでしょう。ダメよ、食べないと」
セレナは、サンドイッチとオレンジジュースを持って入ってきた。ベランダにプレートを運んで、私のところに戻ってきて、ベッドにうずくまっていた私を抱いてくれた。
セレナは、カイトの小さい頃の話しをしてくれた。
「カイトって、見えない光が見えるでしょう。小さい頃からそうだったのよ。だから、最初は怖がって、マナミちゃんみたいな感じだったわ。そのときは、いつもこうしていたのよ」
「カイトは、今でも、怖がりなの」
「どうかしら、今日は、マナミちゃんにこうしたかったかもよ。私に、マナミちゃんのところに行ってって、しつこく言っていたから」
「ごめんなさい」
こんなに優しい気持ちになったのは、いつのことだろう。私は、お母さんを良く憶えていない。生きていたらこんな感じだったのかなと思った。
その頃、地下倉庫では、スズも交えて、カイトたちが、MG2と打ち合わせをしていた。
「懐かしいわ。MG2の初代マスターなんか五時間も抵抗したわよね」
「そやけどこの現象は、初めてや。理屈は、分からんことないけどな」
「光素の反発フィールドね」
「それも、高周波のや」
「カイトー」
バップが、スズの怖い顔を見て、訴えてきた。
「そうだな、スズには、理解してもらいたいから、オレに話させてよ。本当はニナに教えてもらった方が、早いんだけど、そんな雰囲気じゃないよね」
「私は、マナの守り手よ」
スズは、腕組みしてなぜかバップを睨んでいる。
「この学習機のシュミュレーションモードは、体の全神経と生体電気で接続されるんだ。だから、青く光って見える。シュミュレーションがダイレクトに体全体を反応させるから、普通の人だと、全身筋肉痛になっちゃうんだよ」
「ビックリしたわ。本当のコクピットにいて、加速Gまで感じたわ」
「限度があるから、危険はないんだけど、初めてだからビックリしたんだよね」
なぜか、バップが話すと睨んでくる。
「そんな風にビックリしたわけじゃない。体が軽くなったのよ。文字的な知識を詰め込まれるより、よっぽど良かった」
「スズはんは、特別やで」
「だけど、マナは、怖かったんだよ。生体電気と言っても、強制力を上げる為に、高周波帯の生体電気を使うんだ」
「高周波帯!?」
「普通、見えない光は、低周波帯なんだ。オレ達体温があるだろ。だから、光っている。でも、それは、見える光じゃないよね」
「赤外線だから」
「そう、だから、普段オレ達が安定している光素の周波数帯は、低周波なんだ。それを無理やり刺激するには、高周波帯に帯電させて神経を刺激するんだよ。神経は、電気信号で、脳から、命令を送っている。それを逆手にとって、外から学習させるのが、学習機なんだ」
「マナちゃんは、生体電気を光素の反発フィールドでシャットアウトしてしもうたんや。それも、物理的に羊水まで押し戻そうとしたから、ポットの内圧が、上がってしもうた」
「分かるけど、何で怖がったの」
「光素は、どの物質にも含まれているんだ。陽子や電子、中性子。熱にも含まれている。だけど、マナが、夢の世界に出かけるときは、光素だけで構成されて出かけている。もし、光素体だけのときに、高周波側にずれたら、それは、成仏する事を意味するんだよ」
「死ぬって言う事」
「死んだ人は、成仏するかも知れないけど、マナには、体が有るから、そうはならないんだ。だけど、夢の時だと危ないかもしれないかな。だから、夢の時の感覚も持っている。それで、怖がったんだ」
「ただ、怖がったんとちゃうで。抵抗したんや。初めて見たわ、ビックリや」
「そうね、文字系は、学校でやっていたからなれていたのよ」
「バップはどう思う」
ちょっと理解したのか、スズは、やっと肩の力を抜いてバップを見た。
「マナちゃん、オーロラみたいで怖いって言ってたよね。その辺分かるかな」
「オーロラが、何処でも見る事が出来るようになって、人がいっぱい死んだでしょう。マナのお母さんもよ。放射線は、高周波だから怖いに決まってる。放射線に対抗するために、ミミ様から光色の技を習ったの。そっちにずれても、マナは、元の安定した状態に戻る事が出来るのよ。でも、高周波に反発したのは、初めてじゃあないかな」
カイトが、これらのことと、自宅にある古文書の知識でマナのことを推察した。
「マナのお婆様にも言ってもらいたいんだけど、マナが実態で自分を光らせた時に、絶対銀のペンダントを掛けないでもらいたいんだ。龍の髭には、光素を加速させる力が有る。一回光らせたら、止まらない。そのときは、ペンダントを外すこと。すぐだったら、自力で戻れると思うよ。だけど、戻れないときは、龍の祠にある神聖林の食べ物が、必要なんだ。見えない光の食べ物だよ」
「それって、オズチ様が言っていたことに、似てる。私やバップもそうやって鍛えるって言われているの」
「そうなのか。僕たちも体験するんだ。じゃあ、龍の祠にいかなきゃあ」
「何となく話がまとまってきたところを悪いんやけど。結局、マナちゃんどうする」
「カイトが、マナと話してよ。私も話すけど、怖いのを治すの無理だよ」
「それは、母さんに頼んだ。オレも、子供の頃から、見えない光の世界が見えて、怖かったんだ。母さんが特効薬だった」
「何となく分かる。マナには最高の薬かもしれないね」
スズが納得した。
「そうか、こっちもなんとなく分かった。マナちゃんのことはカイトに任す。ニナもそれでええやろ」
「そうね、光素体だったかしら、精霊とかキーワード貰ったから、シュミュレーションモードに入ってみようかな」
「さすがは、ニナや。わしは、宇宙艇の制作に入る」
「ごめん、ぼくは、MG2と宇宙艇を作るよ」
「バップよう言うた。せやけど、パイロットスーツ来てからな。カイトもちゃんと着いや」
「えー」
「約束だからね」
それぞれやる事が決まった。バップは、MG2と宇宙艇を作る。いつの間にか、万能成形機と精密成形機があるので、バップがMG2に聞くのだが、「裏技や」としか教えてくれない。カイトとスズは、学習機の説明と、マナミの状態を見に行った。マナミの部屋に行って見ると、ベランダで、セレナと楽しそうに会話しているマナミがいた。セレナが持ってきたサンドイッチもちゃんと食べている。カイトとスズは、その会話に加わった。難しい話しは後でも出来る。二人は、マナミにとってこの時間が、とても大切だと思った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます