第12話 ネオグランド

 昨日ドキドキしすぎて寝られなかったが、今晩は、グッスリ眠る事が出来た。夢でとりあえず、龍の祠まで飛んで、お参りして、龍神様に新しい家族が出来ましたと、お礼と報告をした。私は、夢の中で、この祠の中に入った事がない。相当奥まで行かないと神棚がない。入った所は真っ暗だからお参りは、入り口で済ませてしまう。


 西参道を下って廃墟の町に出た。ちょっと、ショッピングモール跡にあるガラス張りの植物園を覗いた。変わった植物や、攻撃的な植物が多いと教えられたが、みんな元気なので安心。植物が、元気だと見えない光も明るく光って元気だ。この中に、光素体のさくらんぼの種を蒔きたいなと思った。桜の木はクローンで、繫殖は、人の手でやる。種は、発芽しないが、怖がっている植物達を沈静化する。たまに、現実と見えない光のさくらんぼがずれているのを見ることがある。光素体を触れるカイトがいれば、二人で収穫できるようになるだろう。私は、希望に胸を膨らませた。



 広い道路に出て、北に向う。神聖林の入り口まで来ると、コンが迎えに来てくれた。私は、コンに抱きついた。


「コン聞いて、友達が出来たの。カイトとバップよ。私の家に引っ越して来たの。家族が増えたのよ、嬉しい」

 コンは、私の顔をなめて一緒に喜んでくれた。コンと遊んだ後、オズチ様のところを目指す。


「オズチ様にも、報告したいの。ミミ様も知っていたから、オズチ様も絶対カイト達の事が分かると思うんだ。連れてって」

 もう、ちゃんと飛べる様になったのだが、コンがいるとつい、甘えてしまう。コンの首輪に摑まって、神聖林を走り抜けてもらった。緑の林は、流れるように私の後に去っていく。


 大木の洞で、オズチ様は寝ていた。私は、そっと近寄っていきなり抱きついた。


「いったーい」

「ぶほっ、不意打ちじゃな」

 オズチ様は、毛並みを柔らかくしてくれた。

「ワシの硬い毛に触れるようになったか。どれ、こっちに来なさい、見てあげよう」


 私は、ふわふわ浮かんで、オズチ様の鼻先に来た。


「ぶほっ、ぶほっ、サクにペンダントをかけてもらったんじゃろ。一回り大きく光って見えるぞ。とにかく、ほれ」

 私の体が、一瞬光ったと思ったら、痛みが嘘の様に引いた。

「ブファハハハハ。今度からは、触り手の腕を上げてから、不意打ちするんじゃな。痛かったろう」


「痛かったですー でも、ペンダントは、お婆様じゃなくて、カイトに掛けてもらいました。カイトもお婆様と同じペンダントを持っています」

「なんじゃと、悪ガキの仲間か。懐かしいなぶほっ」

「やっぱり、オズチ様もカイトのご先祖様を知っているのね。カイトは、昼間でも、見えない光が見えるんです」

「ぶほっ、ぶほっ、ぶほっ。光属性の子じゃ。マナが現われたんじゃ不思議ない。ここに連れてくるんじゃ。久々に話がしたい」

「ミミ様にも話しました。光、翼、炎、風、みんな連れてきていいですか」

「実態があるときに会えるんか。楽しみじゃ。ぶほっ、みんな連れてきなさい。スズと風の子は、すぐには話せんじゃろうがの」


「風の子は、バップです。どうしたら、話せる様になるんです?」

「光の子もそうなんじゃが」

「カイトです」

「ブホッ、カイトもなんじゃが。龍の祠から食べ物を持ってきなさい。それがないと危険じゃ。相性もあるからの、本人が採りに行くしかない」

「見えない光ですか。奥まで入ったことないです」

「そうじゃ、見えない光の方じゃ。カイトが居れば道が開かれる。ぶほっ、マナの先祖たちが、いっぱい植えているから、きっと合う食べ物が有るはずじゃ」

「私も?」

「マナは、今ならなんでも食べられるぞ。いや、合う、食材はないとおかしい。食べたら分かる。ぶほっ、ぶほっ、ぶほっ」

「収穫時期は、現実の時期と同じですよね。みんなを見たら嗜好が分かりますか」

「来た時見てやろう。ヒントぐらい分かるじゃろ」

「それじゃあお願いしまーす」


 私は、オズチ様の柔らかいけなみに抱きついた。


「ぶほっ」

 オズチ様は、怒るでもなく、私の好きにさせてくれる。こんなに大きくて気持ちいい絨毯見たことない。夢のときは、オズチ様に甘えるのが一番楽しい。だから、ここにいる時間が一番長い。


 私は、頭の上に乗って足をパタパタさせながら、この間のやせうつぼ事件を話した。


「ミミ様が、やせうつぼの突然変異は危険だと言ってました」

「ぶほっ、なるほど。スズメバチの怖がりようが気になる。異常繁殖の引き金は、やせうつぼに間違いないじゃろう」

「里の人総出で、やせうつぼは、刈り取りました。里の作物にも寄生するので、みんな、行動早かったです」

「わしも、散歩がてら、森を見回ってみるか。異常繁殖しているのを見かけたら、言うから、たのむ、ぶほっ」

「はい、お父さんに言います」




 朝起きて、お婆様とスズに、龍の祠の話しをした。

「龍の祠に、見えない光の食べ物がいっぱいあるのですね。なるほど古文書にある神聖林とは、今の林のことではなく、龍の祠の、奥のこと。早速カイトに話しましょう」

 スズと私は、先にしたい事がある。

「おばあ様、バップ達に早朝稽古を見に来るよう、約束しています」

「スズは、二人を鍛える気なのですね」

「早朝稽古は遅れてきてもいいと言いました。まずは、体力測定です」

「良い事です。カイト達の予定も有るでしょう。起していらっしゃい。スズ、守り手モードは解くのですよ。そのモードのときは、手加減しないよう鍛えられています」

「バップに嫌われるわよ」

「おばあ様、マナ!」

「フフ、冗談です」

「うふっ」

「手加減ぐらいできるもん」

「スズ、一緒に起しに行こう」

「マナは、先に顔を洗いなさい」


 二人でカイトたちを起しに行った。バップは、大口開けて寝ていたので、スズに「起きなさい」と、大声で言われた。バップは、「うわー」と、飛び起きた。どうやら、スズの声に反応するみたい。カイトは、起きて、海を見ていた。私は、カイトの横に座った。


「きれいだね」

「そっか、すごく光って見えるから、よけいでしょう」

「シェルターの中にいたから、殆ど海を見ていなかったんだ。それにシェルターの中は、里みたいに光っていない」

「これからは、毎日見れるよ」

「ああ」

 カイトは、海から目が離せない。スズが、バップとやってきた。

「二人とも、何、たそがれてんの」

「熱いよ、ひゅーひゅー」

「バカ、そんなんじゃあない」

「朝食に行くわよ」

「おう」


 食堂に行くとお父さんが、ネットニュースを見て難しい顔をしていた。

「お父さん、おはよ」

 カイトたちもそれぞれ挨拶して席に着いた。お婆様が食事を持ってくる。

「どうかした?」

「うむ、コロニー人が、勝手に地上に降りて悪さをしている。大きくなった動物達を、怪獣かなんかに見たてて、狩っているそうなんだ」

「殺すの」

「食べるためなら、まだしも、只の殺戮だ。それも、戦闘用の重火器まで出している」

「酷い」

「シェルター人が、地上防衛しているが、組織だっているそうなんだ。コロニー連合が、もし、捕まえる事が出来ないなら、戦闘やむなしという宣言をした。人は、襲わないようだが、森を一つ焼いてしまった。これは、地球だけでなく、太陽系で決めた地球自然保護法を完全に逸脱しているからね」

「コロニー人の過激組織『ネオグランド』ですよね。『地上を人の手に』が、スローガンで、本当は、地上に帰化したいんだけど、自然が怖くて攻撃しているって、父さんが言ってました」

「馬鹿な連中だ、本当に怖いのは、自分の中の恐怖だがな」

「ぼくたちは、地上人に助けてもらわないといけないかもしれないけど、自然と仲良くできると、分かってる。ただ、シェルターから出ないだけだから」

「暗い話で朝からすまん。飯食ったら、皆で朝練に行くんだろ」

「そうです。お味噌汁が冷めますよ」


 全員でいただきますを言い朝ごはんになった。スズが、MG2がいないのに気がついた。


「バップ、MG2は」

 バップがブックでMG2を起そうとした。しかし、あきれて、首を振っている。

「寝てる。機能遮断しすぎて、復帰中。二日酔いみたいなものだって」

「なんじゃ、あいつは、一杯しか飲んどらんぞ」

「効率いいわね」

「ワハハハハハ」

 お父さんの高笑いが出た。今日は、一日機嫌がいいだろう。

「水でも、飲ませば治るんじゃないか」

「ロボットに水は無いよ。カイト、仮にもオレの師匠だぞ。パートナーロボットのニナが居れば、強制復帰できるけど、まだ居ないから」

「本当に変わってる。私も後で、ガンゾシリーズ調べるわ」

 スズもうなずく。

「ロボットの詳細自体は、大して情報ないと思うよ。本人に聞いたほうが早い。だけどニュースはいっぱい有るから、何やってきたかは。分かると思う」

「うん、調べてみる」

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