第10話 里に行く準備
MG2は、胸に長々と光ケーブルを繋いで、笑いながら、スカイクルーザーを仕上げていた。カイトとバップはそれを呆れ顔で眺めた。
「何が面白いんだか」
「笑ってばかりじゃないぞ、昨日なんかバップが帰った後、泣きながら、作業していたよ」
「多分、最初の作業スピードから考えると、五百年分のデーター収拾なんてとっくに終わっていると思うなー」
「そうさ、いまやっているのは、ゴミデーター解析に決まってる。五百年分の個人データー見るなんて無茶だよ」
「そういえば、カイト、運転席見た? あの、一番後ろのちょっと高くなった席ってMG2が座る気だよね」
「艦長席らしいよ。だって、運転席をコクピットって言ってたし腕組みして座ってるのを見た。それより、居住空間見たか。クルーザーだから、あるのは、当たり前なんだけど四人分の個室スペース作っていたぞ。この後、どうやって宇宙艇にするんだろ」
「あっ、あれ。あれは、ぼくのオーダーなんだ。だって、スズたちと旅するんだろ」
カイトは、バップの肩に手を置いた。
「相棒、気持ちは分かる。でも、どうするんだ、宇宙船に改造するんだろ」
「うーん、とりあえず、共用スペースに変更可能なんだ。だから、三部屋にして、男子、女子部屋と共用部屋かな」
「相棒!しっかりしろ」
MG2が、今の会話を聞きつけた。それで、腰に手を当てて二人の前に来た。
「そりゃ違うで、四部屋は、四部屋や。ひとつは、ワシが作業用に使う。宇宙に出たときの部品の確保もせんとやで」
「そうだけど、どうやって、宇宙艇の部品装備するんだ。ムリだろ。バップの話しを聞きすぎだよ」
「何ゆうてんねん。もうすぐ宇宙船、完成するがな。シャトル級より小さいオーダーなんて、燃えたなー」
「へっ、これ、宇宙船なの」
「わしが作るんやで、宇宙飛ばんで、どうするんや。そやけど、この大きさや、ファイター扱いなんや。外宇宙(太陽系外)は厳しいで。今苦労しとるんは、レーザーキャノンどうつけるかや」
「ぶ、武器を装備するの!」
「本当は、集積レーザー砲つけたかったんやけど、アンさんら、へたれっぽいもんな。主砲は、もう装備済みや三十GP(ギガパルス)やで」
「えー、それ、戦艦の主砲と同じ出力じゃないか」
「まあ、小さいよってにな。一基で勘弁してや」
どうりで、クルーザーの先端部分に変な穴が空いているはずだ。空いた口が塞がらない。
「わしの初代のマスターは、それはすごい人やったんやで、カイトも、バップも鍛えるから、その気でな。まあ、死なん程度にするつもりやけど。その、マナちゃんと、スズちゃんの実力も知りたいな。鍛えがいあるわ、ほんま」
なんだか、開けてはいけない箱を開けたというか、笑うしかないというか、シェルターを出て行くのに悩んでいた自分が、バカなんじゃあないかと思えてきた。
「とりあえず、四月になったら、出発やろ。部品積まなアカンから、作業スペース確保してくれるまで居住スペースは、なしや。倉庫にするからな」
バップが、涙目で訴えてきた。
「なっ、だからお願いして。マナの家って、でかいじゃん。居候させてもらおうよ」
「オレが、頼むのか。う~ん、生活環境のためだ。やるだけ、やってみるか」
今は、鼻歌を歌って作業しているMG2を尻目にヒデオの通信機を使って龍の里長を呼び出してみた。過去ログが有るし、父親のアドレスだから、すんなりリュウイチさんがモニターに出てきた。
「オー カイト君じゃあないか。今日ヒデは?」
「火星です。里の作物を検疫にかけてます」
「そうか、楽しみだな。それで」
あまりにも、ニコニコされているので、難しい事を考える事が出来なくなった。これも、MG2の影響だ。
「来週成人なので、里に住もうと思うのですが、里に慣れるまで、居候させてもらえないかなと思いまして」
「いいぞ」
「やっぱりダメですよね」
「それで何時来るんだ」
「えっ」
「居候したいんだろ、部屋はいくらでも有るからいいぞ。マナミもスズも喜ぶ」
「本当ですか」
後ろで、バップがガッツポーズしている。後、作業スペースな。と、耳打ちしてきた。
「バップもいいですよね」
「当たり前だ。ばば様公認だからな」
「もう一つお願いが有るんですが、地下倉庫に空いているスペースないですか。オレのメンテナンスロボットが、作業したいそうなんです」
「いいぞ。昔、宇宙艇があった倉庫が、そのまま空だから好きに使いなさい」
横で、浮かれているバップの頭を抑えて二人で最敬礼した。
「よろしくお願いします」
「ワハハハハハ。当分飯は、只で食わしてやるぞ。だがな、娘に手を出そうと思うなよ。わかったな」
立一さんは、モニター画面をいっぱいに使って顔を映した。
コエー
「そんなー、オレ等が束になってもかないませんよ」
立一さんは、うん、うんと頷いている。
「じゃあ来週。ワハハハハハ」
立一さんもお父さんと一緒で高笑い系なんだ。家にいるのと変わらないか。通信が切れて、肩の力が抜けた。
なんだか、へろへろ声でMG2に良い知らせをしてやった。
「MG2。作業スペース確保したぞー。宇宙艇が入っていた倉庫だって」
「ええな、それも作るか、その前に学習機な」
「ちょっと、そんな資金、どこにあるんだよ」
「Mシリーズなんやけど、製作者が、ひどい人で、わしらに資金稼がせたんや。隠し財産すごいで、戦艦ぐらいすぐ作れるけど、どうする」
「けっ、けっこうです」
「そういえば、何のために、わし起したんや。宇宙にそんなに、出たがらんし。何したいんや」
「まだ良くわからないんだ。でも、これから行くところに答えがありそうなんだよ。今、地球は、おかしくなっている。だから、良くなるようにしたいのかな。漠然としているけど、ごめん」
「ぼくはエンジニア。カイトのバックアップさ」
「ええと思うで。それとバップ。カイトのバックアップ言う事はや、あんさんをこき使うても、ええゆうことやな」
「ぼくもマスターじゃあないのー」
「あほ、エンジニアになりたいんやろ、わしに教わるしかないがな」
「ですか」
ここ数日のMG2マジックを見てしまったカイトとバップは、ロボットで、大阪弁で、ハチャメチャに見えるMG2が好きになっていた。
「なんなら、地磁気治す調査に行くか?」
「それは、自然のままでいいんだ。人類が、進歩する時間と言うか、もっと地球を知るチャンスだと思っている。それが分かると、スペースコロニーや火星が疲弊した理由も分かるだろ」
「えらい。やっぱり面白そうや。外に向っていくだけで栄えることなんかない。ガハハハハハ」
「そうだ、これから行くところは、オレ達、居候だからね。そこは、わきまえてよ」
「メチャ、メチャ分かるー 心配せんでええ。わし、居候暦、通算うん百年なんや。どんだけ気い使こうても、居候は居候やからな」
MG2、もう自分の過去ログメモったんだ
MG2が、どんな人生送ってきたのか、今度ゆっくり聞こうと二人は思った。MG2は、良いとして、バップとカイトは、親と向かい合わなくてはいけない。成人まで、後わずかになった。カイトは、覚悟を決めて、母親のセレナに今後の事を話すことにした。バップは、多分喧嘩覚悟だと思う。
セレナは、金星から嫁いで来た人だ。金星は、元々地磁気のない星だった。だから、今の地球に酷似している。セレナは、地球人で言うとシェルター人と同じ。金星のコロニーと地球のシェルターは、生活環境が似ているためシェルター人は、地上人よりむしろ金星人と仲良くしている。しかし、金星人は、激減した地上人にあこがれる傾向がある。環境は良く似ていても、自然の多様性と力強さは、人口種付けで苦労している金星とは、雲泥の差だ。地球に帰化する環境が整ったら地上人になりたい金星人は多い。
セレナは、料理好きの家庭人だが、ヒデオが言うには、とてもおてんばな人だと教えられている。実際、宇宙艇を一人で運転できるし、火星のロケットレースに出場したこともある。小さい頃、親に連れられて応援した事がある。金星は伝統的に一家に一台宇宙艇がある。その中で、出場権を勝ち取った人だ。この年になって、そういうことに興味を持ち出して、初めて母のすごさを実感している。カイトは、そんなセレナに、甘えっぱなしで今日まで来た。セレナは、リビングで、料理のレシピを検討していた。
「母さん、ちょっといい」
「あら、バップ君帰ったの。お昼食べたい?」
「そうだね、後で食べたい。それより話があるんだ」
カイトは、セレナの前に座った。ソファの背もたれに背中をつけないで、少し前かがみになった。緊張したんだと思う。
「もうすぐ、成人だろ。龍の里に住みたいんだ。里長の城山さんの家にお世話になって、地上人になりたいと思ってる」
「いつ出発?」
「いいの、母さん」
「ヒデから話は聞いているわ。ヒデの仕事の都合が有るから、今の生活環境を維持しているけど、私もついて行きたいぐらいよ。引越しするときは、私も城山さんの家に挨拶に伺うつもり」
セレナは、里に住む事をあっさり認めてくれた。
「来週には実行したいんだ。大きい声で言えないけど、MG2のやつ、スカイモービルをもう、宇宙船に改造しちゃったんだよ」
「ふっ、すごいわね。ガンゾシリーズでしょう。見込みがあるってわかったら、ロケットレースに出場させられるわよ。ファイターの部に出ろって言うわ。そうしたら、母さん鼻が高い。実家の親戚一同で、絶対応援に行くから、がんばってね。それで、向こうでの食事はどうするの?」
「城山さんのお世話になるんだ。居候させてくださいって、お願いしてバップともどもOKもらったよ。当分食べさせてくれるって」
「だめよ、お世話になりっぱなしなんて許しません。分かったわ、私が、料理を手伝いに行く。マナミちゃんのお母様は、亡くなっているし、スズちゃんのお母さんは、対岸の町に赴任していて、女手は、城山さんのおばあ様だけなのでしょう。男勝りに育っていないか心配だわ」
セレナは、里に行く息子の所に通う気満々でいる。
「母さんが来てくれたら、マナやスズが喜ぶと思うな」
「本当!私も居候になっちゃおうかしら」
「それ、父さん困らない」
「冗談よ。行く日が決まったら、言ってね。それじゃあ、グラタン作ってあるから、温めるわね」
理解ある両親を持って、カイトは幸せ者だ。
バップは、もめるだけ、もめて、また、バップのお母さんが泣いてという状態だった。しかし、セレナに、一緒に里に通いましょうと誘われ、バップのお母さんは、百八十度言う事が変わった。龍の里は、シェルターから近いので、しばらく息子の成長を間近で見られると有って、里行きの話しは、一挙に進んだ。元々、引越しの準備は、二人共していたので、翌週早々引越しが決まった。
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