第8話 羽ばたく
マナミは、いつも行く廃墟の街には向かわず、ミミ様がいる巨木を目指した。
多分ミミ様は、私のご先祖様の事を知っている。夢見巫女本家のご先祖様が、精霊様とケンカをしていると聞いて、黙っているわけにはいかない。今どうこう出来なくてもミミ様が認めてくれたら、助けに行ける。今日は、もっと修行をしたいと、ミミ様に言うつもりだ。
ミミ様は、龍頭山の北に住んでいる。龍の祠から山伝いに北に進むと大きな杉の木がある。この道は、オズチ様のところに、向かうより安全な道だ。オズチ様が、昼間動くのが得意なのに対し、梟のミミ様は夜だ。大木の高いところにある巣に住んでいる。雑食性で、何でも美味しく食べるが、大きい者は狙わない。果実も好きで、一時期果実ばかり食べて、お腹を壊した事がある。雑食だからバランスよく食べないとダメなようだ。今の楽しみは、私の成長で、本当に少しずつだが、精霊しかできないような事を私がまねるので、期待してくれている。ミミ様がいる百メートル近くある杉の巨木は、腐りにくい樹液を出している。虫がその樹液を嫌っているので、静かに暮らせて嬉しいそうだ。
「ミミ様、ミミ様は居ますか。マナです」
ふわふわ高度をあげながら木の中腹まで登っていくと、夜行性のミミ様の目が、月明かりに光った。横で、野生の梟が、フォフォゥ、フォフォゥと鳴いている。小さいほうの梟も鳴き出し、フォ、ホォフォー、ホォフォーと音楽のようになった。
「この子たちには、マナミは見えません。そのままにさせてあげましょう」
私は、鳴いている梟の邪魔にならない枝に座り月を見た。ずっとこの子達の泣き声を聞いていても飽きないのだが、今日は、ミミ様に話しが有る。
「ミミ様は、私のご先祖様とも、こんな感じで話しをしていたんですよね」
「ホウ、フォホウ。そうね、でも、千年前よ。それより前は、三千年近く前。みんないい子だったわ」
「ご先祖様は、どんな修行をつけてもらったんですか」
「なんにも、三千年前の夢見巫女は知り合い程度だったし、千年前の夢見巫女には、教えることは、あまりなかったのよ。良い仲間がいっぱい居たの。ホーフォホウ、フォホウ」
「わたしにも仲間が出来そうです。千年前のご先祖様の仲間が、私の家に来たんです」
「まあ、懐かしい。光、翼、炎、風の仲間ね。光の子に会いたいわ。久々に話がしたい」
急に他の梟たちの泣き声が止み、地上を一直線に目指して飛んでいった。たぶん、小動物を見つけたのだろう。梟達は、とても眼がよい。
「私、三千年前のご先祖様の家が大変だって聞いてしまったんです。ミミ様何か知っていますか」
「それを知ってどうする気。マナは、まだ、何も出来ないわ」
「話しだけでも、知っておきたいです。わたし、細かい事は、忘れてしまうじゃないですか。何度も聞くと思います」
「ホー しょうがないわね。推測でいい」
「はい」
「あそこには、水属性の精霊が多く居ます。山の中に住む者、海に住む者、川に住む者です。ホーフォホー もめるとしたら、山の中に住む者ですが・・・でも、おかしいわね。みんな人と遊ぶのが好きよ。風の子に調べてもらってちょうだい。なにか分かるから」
「バップね、聞いてみます。後、私、どんな修行したら、いいですか」
「飛びなさい。この木より高く飛んで、里に帰る事が出来れば、いいのよ。自分の身は、自分で守るのよ」
「でも、オーロラが・・・・」
「ホーフォホウ、ホーフォホウ、オーロラは、この木の百倍上空よ。それに、この姿のときは、大丈夫。マナは、自分の安定周波帯を覚えたでしょう。問題が起きても立ち直れる。光色は、そのための練習だったのよ。まさか、指先だけ光色させる高等技まで出来るなんて思わなかったけど。今なら、高周波数帯に入っても戻れるでしょう。なんなら、ちょっと試してみる?」
私が頷くと、ミミ様は、私の背中に乗り、羽で私を覆った。実態が無いのに、私を捕まえる。羽で私を覆うと、私の体全体が光りだした。私は、黄金色の高位の周波数帯で、安定して見せた。ミミ様は、私を更に刺激する。羽がバンと広がり更に光りだした。ミミ様は、私からはなれて、私を激励する。
「早く、元に戻るのよ」
「フー」
私は、光るのを止め、元の姿に戻った。以前は、ミミ様に貰った、光素体の木の実を口に含んで、それを食べる事で、戻っていたが、今では、自分の意思で、戻る事が出来る。
「ホーフォホウよくやったわ。今のは、マナ自身に過剰エネルギーが発生するか、外からエネルギーが勝手に流れ込んで暴走してしまった時の対処法よ。逆に、自分で、過剰エネルギーを作り出せるようにもなってしまったのはすごいことよ。光色は、怒りで使ってはダメ。相手の魂が傷つきます。分かりましたか」
「それは、とても大事なことなんですよね」
「そう、絶対よ。フォーフォフォーじゃあ、飛んでみて、光素の空気を感じるのよ。もし自分の体が、加速されて(暴走)光出したら、地上に降りて休めばいい。普通は無い事よ。光素の反発フィールドを自分ではれる様になったら、私の干渉も跳ね飛ばせる様になります。それが出来れば、太陽風の中でも飛べますよ。その練習のためには、銀のロケットを持っていらっしゃい」
そこまで出来てしまったら、精霊級になってしまうかもしれないけど・・・
ミミは密かに思う。
「さあ、飛びなさい」
私は、羽を広げて木の天辺を目指した。地上から一番高く上昇したのは、ミミ様の巣までだったが、オーロラに負けない力を貰ったのだと思ったら、急に元気が出てきた。
フォホウ、フォホウ、フォホウ
下から梟の合唱が聞こえた。ミミ様が、仲間にも頼んで、応援をしてくれているのだ。地上百メートル。木の天辺に降り立った。遠くに里の明かりが見える。月光に照らされて、林は、穏やかな暗緑色の帯を山伝いに連ねていた。ここから、龍の祠を目指せば、一気に飛んでいける。まだ羽たたせた事が無い翼を目いっぱい広げた。星空の北斗星目指して、もっと高く、もっと高く昇る事にした。気がついたら、さっき居た巨木も小さく見える。里の奥に見える海も広い。
飛べる
マナミは、滑空しながら翼を羽ばたいた。今まで感じた事のない高揚感だ。それも、早い。今の地球には、巨大化した動物が増えている。しかし、人ほどの大きさの鳥は、まだ見た事が無い。あっという間に城山に着いた。今日は、自分の部屋のバルコニーで、海を見て過ごそう。私は、知らないところには、なかなか行こうとしない。誰か一緒に居てくれないと不安だからだ。
カイトがいたら遠くにいけるのかな
里の者は、私と少し距離をとるところがある。特に同年代の子にそういう傾向がある。だけど、カイトとバップは、普通に接してくれた。
羽を畳んで、うずくまって海を見ていると、お婆様が、やってきて横に座った。お婆様は、私を見ることは出来ないが、感じる事が出来る。指先を光色化すると私も、お婆様に触れる。だから、指先信号で、たまに話しをする。
トントン
「今日は、早く帰ってきましたね。まだ深い眠りに着く時間には、早そうです。お話しますか」
―・・・ ・―(はい)
モールス信号で話すことになるが、朝起きて、寝ぼけて忘れてしまうよりずっと夢の話が出来る。
「カイトとバップをミミ様が、懐かしいって言っていました」
「今日は、ミミ様のところに行っていたのですね」
「光、翼、炎、風の仲間だと、言ってました」
「そうね。千年前のチームは、すごかったみたいよ。あなた達も、そうなるといいわね」
「お婆様は、カイトたちの事をどう思う?」
「だから言ったでしょう。貴方のパートナーです。それ以外の事が聞きたいの」
―・・・ ・―(はい)
「いい子たちよ。里に偏見を持っていない。マナミ達の友達になれると思ったわ」
はい ―・・・ ・―
「まあ、モールス信号なのに、いろいろな『はい』が、あるものですね。カイトなのですが、ご先祖様は、最初、夢見巫女を見ることは出来ましたが、話せなかったそうです。その後、オズチ様の助けを得て、話せるようになったと有りますから。最初は、オズチ様のところに連れて行ってあげなさい。――――ごめんなさい、私がいっぱい話しても、忘れてしまうのでしたね。それじゃあ、今日の話しを聞いてあげます。後で、スズに教えてもらいなさい」
―・・・ ・―
朝。いつもだと、スズが、夢の内容を聞きに来るから、その後もけっこう憶えているのだが、今朝は、お婆様が全部聞いているので、誰にも話さない。いっぱい忘れそうだ。だから逆に私が、スズのところに走った。昨晩、飛んだ事は、すごく憶えている。そのせいで、他の事が抜けている。大切な話が多かったと思うので、スズが起きるのを待ちきれなくなった。スズは、お婆様に、聞き取りのノートを貰い。二度寝を決め込んでいた。
白川家は、スズとカブ爺しかいない。両親は、お婆様の替わりに、対岸の町に赴任している。スズは、この広い石造りの屋敷に住んでいるのだが、スズがいるのは、私と反対側だ。スズの部屋に忍び込むと、スズが気持ち良さそうに寝ていた。
「スズ、スズ起きて。聞き取りのノートが見たいの」
「・・・」
スズは、寝入ったばかりなのか起きようとしない。私は、スズの肩を揺らしてみた。
「うひょ、マナったら、そんなに食べられないでしょ」
何の夢を見ているんだか
いつもは、きりっとした感じなのだが、寝顔が、かわいいい。それに夢のせいか、にやけている。
わたしは、鼻をつまむことにした。
「う、う~ん・・・・・殺す気」
スズは、守り手で、剣術や銃器に強い人だ。スポーツ万能なのに胸が大きい。身長もあるので、かっこよく見える。その割には、無防備だった。
「もう、アイスクリーム食べ損ねたでしょ」
私は、手を合わせて謝った。
「ごめーん、聞き取りのノートを見たかったの。ミミ様に、大切な事をいっぱい教わった気がするのよ」
スズは、枕の上にある清書前のノートを出してくれた。
「今日は、おばあ様が聞いてくれたから、詳しいわよ。朝ごはん、ちょっと遅れていくね」
「えー もう、起きようよ」
「だって、あんなに美味しそうな桃のアイスクリームはめったにないよ」
「本当の朝ごはんの方が、美味しんじゃあないの」
スズは、未だに食べ盛りなので、夢より、実食だ。
「ううん、もう、目が覚めちゃったじゃない。桃が収穫されたら、マナ特製のアイスクリーム絶対作って、絶対よ」
「私って、去年そんなに上手に作った?」
「多分正夢よ」
「願望の間違いじゃない。でも、約束する。バップの分も一緒に作ってあげるね」
「なんで、そこで、バップが出てくるの」
「なんとなくよ」
「ファーー でも、二人共、里にきそうね。だったら、カイトの分も作ってあげて」
「なに、なんで、そこで、カイトが出てくるの」
「仕返しよ。アハハハハハ」
「ウフフフフフ」
「私達が守ってあげないとね」
スズも少しは考えているようだ。
「どうせなら、鍛えてあげない」
「そうね、女の子に守られるの、嫌かも知れない。里の子達って、マナを遠巻きに見ているけど、気がある子多いよ。それが、急にシェルターの子がやって来て友達になられたら、いい気しないはず」
「それは、スズも一緒。守り手の、守り手になりたい人、多いのよ。でも、それより、友達になってもらいたかった」
「うん、二人の事は、来てから考えよ。朝ごはん、朝ごはん」
スズは、来てからと言うが、シェルターの子がここに住むなんてありえない。でも私達、絶対期待している。
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