第7話 MG2

 カイトとバップは、スカイクルーザーを作っているが、完成したら宇宙船に改造するつもりだ。初めからそのつもりなので、ほかのクルーザーより大きいしデザインも変わっている。宇宙船をつくるのは、失敗が許されない。だから、メンテナンスロボットが必要だ。それが、完成しないと話しにならない。そんな時、父さんが、とんでもない掘り出し物を持ってきた。それが、この、ガンゾシリーズと呼ばれるメンテナンスロボットだ。基本的に個人が、宇宙艇をワージシティー内で製作してはいけない。それなりの工房に最終的には持って行く事になる。しかし、父さんが持ってきたAIは、普通の工房よりよほどいいものを作るAIだ。その後のメンテナンスも、マスターになった人に教えながらする。もう、五百年も動いている伝説のメンテナンスロボットだ。その、新品に近いゼロベースのAIを父のヒデオが、入手した。入手経路は未だに教えてくれない。ただ、自分とバップが最初にこのAIを動かせば、オレ達がマスターになる。主人が居なくなると、どこかに消えてしまうガンゾシリーズだ。現存しているのは、多分これ一つだと思う。



「父さん、いろいろありがとう。メンテナンスロボットを作るの、ここで、やっていいかな」

「機材壊すなよ。じゃあ、市長のところに行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 カイトは、ロケットを握って、気合を入れなおした。メンテナンスロボットは、上半身を大半作り終えたが、どうしてもロボットアームが気にいらない。AIは、人と一緒で頭頂に組み込む。そうすれば後は、自分で調節する。しかし、今のところ調節するロボットの、アームの精度誤差が大きすぎる。最初の段階で、ロボットに負担を掛けすぎると、それが最初の記憶のベースになりかねないから、こういうのが得意なバップに任せることにした。


「ロボットアームを頼むよ」

「任せといて、だけど精度確認は一緒にだぞ」

「出来たら、頭部分を起動させていいかな。そうすると、昼までに終わると思うんだ」

「そうだな、取り掛かるとするか」


 バップが、精密スコープを被った。カイトは、ガンゾシリーズの特徴の一つである、動体視力の筋肉系システムをいじることにした。ガンゾAIは、この動体視力のおかげで、ぶれ誤差精度を上げる事が出来る。人で言うところの長年の勘みたいなものに相当する。いい塩梅にしといた。みたいな事をしてくれる。そういう、人間的なロボットだ。


 二時間後


「カイト、右手の精度を見てくれよ」

 ロボットアームを精密測定機にまわしてみた。

「すごいな沙単位(一億分の一)の誤差じゃないか。じゃあ、こっちは、アームを取り付けて、頭にAI入れとくよ。電源が核融合って言うのは、珍しすぎだけど仕方ないか」

「おう」


 二人とも気合を入れて作ったが、昼飯を越える事が決定した。精度を上げるのは高等技術なのだ。セレナは、料理好きだ。サンドイッチの差し入れをしてくれた。おかげで、調整を続行して、ついに上半身までを完成させた。


 カイトとバップは、待望の電源を入れることにした。


「それじゃあ電源入れるぞ」


 電源は、首の後ろの、針の様に小さいスイッチを押す。いきなりロボットは、ロボットらしくない動きをした。眼が、すごい勢いで動いたと思ったら、ハーとため息をついた。


「はー、なんやここ、どこや」

「ワージシティーだけど」とバップ。

「いやいや、そうじゃなくて」

「此処はカイトん家だよ」


 いきなり、個性を持ってスタートするなんてと、思ったが、伝説のAIだ。何が有るか分からない。


 ロボットは、愛想笑いをした。


「分かった。時代はいつや。今、何年なんや」

「二千九百九十五年三月だけど」

「なんや、五百年も経っとるやないか。ちょっと情報収集するか。ありゃ」


 ロボットは、歩こうとしたが、歩けない。それもそのはずだ、まだ、上半身しか作っていない。


「ごめん、まだ上半身しか作っていないんだ」

「これ、アンさんらが作ったんかいな。やるなー なんちゅうんや、名前」

「オレは、カイト。綾見カイトだよ」

「ぼくは、清川バップ」


「そんなら、あんさん達が、わしのマスターゆうことか。まあ面白いか。悪いけど、足の部品作ってくれるか。今データー出すよって、大雑把に作ってくれたらええで、胸の端末にパソコン繋いでくれるか」


 ロボットの胸に光ケーブルを繋いだ。これが、本当に五百年前のAIかと思うスピードで、ここの工房の機材を把握し、部品リストの場所を口頭で言う。下半身と足の部分を示してきた。


「本当にこれでいいのかい」

「でも、これなら夕方までに出来るよ」

「動けばいいんや。後は自分で何とかする」

 本当に自分で、自分を何とかするんだ。二人は、作業に取り掛かった。

「そうや、まだ名前言っとらんかったな。わし、MG2や、よろしゅうな」

 MG2は、すごく楽しそうに話した。

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