第5話 四人の仲間

 剣術の練習を早めに切り上げていいと聞いて、私とスズは、大喜びした。先生のカブ爺は、里の教え子にもう少し教えると言って、私達を見送ってくれた。まだ、お昼には、間がある。珍しく、お婆様が、迎えに来てくれた。今日は、お客さんが来るので、長のお父さんと一緒に出迎えなさいという事だった。


「昨日あなたが、助けた綾見カイト君が、お父さんと、お礼に来るそうです。迎えに行ってあげなさい」


 私は、ドキッとした。昨日の今日にもう会える。スズが私をからかった。


「あれ、マナ赤くなってない」

「そ、そんなことないよ。スズは平気なの」

「このー正直者。私は、タイプじゃないよ。科学お宅」

「はい、はい、二人とも、無駄口たたいていると、到着してしまいますよ。クルーザーデッキにリュウイチが居ます。早く行きなさい」

「はーい」


 私達は、屋上にあるお客さん用のクルーザーデッキに急いだ。三人で、待っていると、見たこともない大型のスカイクルーザーが、音も無く着陸した。中から昨日の子が出てきた。お父さんは、カイトのお父さんと知り合いみたいだった。


「ヒデ、久しぶりだな」

「リュウイチも元気でよかった」


 二人は、抱き合って喜んでいる。私のところには、カイトがやってきて、手を握ってきた。多分ちょっと顔が赤くなったと思う。後でスズに笑われそうだ。そう思ってスズを見たら、スズは、私より顔を赤くしていた。


「スズちゃんだよね。ぼくは、清田バップ、バップって呼んでくれ」

 スズは、両手で、バップに手をギューッとにぎられ、どうしていいか分からないようだ。

「はなせ、バカー」

「ごめん、スズちゃんが、あんまりカッコいいもんだからつい」

 バップは悪びれていない。

「マナちゃん、昨日は、ありがとう」

「カイトのお父さんと、私のお父さん知り合いだったのね」


 私達の方がにこやかだ。それにしても、スズのやつ、動揺しすぎよ。後で、からかってやろう。お父さん達は、私達を紹介しなかった。私達は、私達で、出会ったからだ。


「今年のマスカットは、どうだ」

「天気の長期予報は、晴天が続きそうだからな。今年は、最高の出来になるんじゃないか」

「本当か、楽しみだ。今日は、仕事でも来たんだ。去年のマスカットワインを見せてくれ、火星の貿易基準が緩んだんだ、もしかしたら、もしかするぞ」

「本当か、助かるよ。こっちも話がある。後で、驚くなよ」



 私達が、いつも朝食を食べている広いリビングに三人を通した。私は、下を向いているスズをからかった。


「スズ、動揺しすぎだぞ」

「だって、あんなに、ギューって、男の子に、手を握られた事ないよ。ビックリしただけ」

「おねし、まだ顔が赤いぞ」

「うそ!」

「うそだよーん」

「マナったらひどい」

「さっきのお返し、まいったか」

「まいりました姫」

「こういう時に、守り手モードに入るの反則よ」

「エヘヘ」


 カイトとバップは、自前で持ってきた、マスカットジュースを飲むようだが、カイトのお父さんは、里のマスカットワインを飲む気だ。お父さんも平気で勧めている。


「カイト、バップ、実際は、ここの食べ物を食べたからと言って、健康被害など無い。ただの風評被害だ」

「マナミ、スズ。だからと言って、無理に、シェルターの人に食べ物を勧めてはいけないよ。放射線を怖がっている人の方が、多いのだから」

「じゃあ、オレ達が、ここの食べ物を食べたいって思えばいいんだ」

「それは、待つんだ。いいか、二人とも、成人するまでは、お母さんの言う事を聞きなさい。ただ、火星のコロニーは、ここより過酷だ。だから、里の食べ物を欲しがっている。火星の人は、里の食べ物を食べて元気になった人のほうが多いんだ」


 カイト達に合せて私達も里のマスカットジュースを飲んだ。でも、カイト達のジュースは、薄そうだ。


「薬って訳でもないのに不思議」

「そうか?マナミは、ちょっと分かるだろ。ここの食べ物はどうだい」

「みんな光ってて、元気よ」

「そうだろ、火星は、若い星だ。人が住み出して間もない、だから植物達も元気が無いんだ。多分輝いて見えないと思う」

「ふーん」


 私達が、そんな話しをしているとき、カイト達は、全然違う話しをしていた。


 バップがカイトを肘でつついた。

「カイト、スズちゃんのオーラってどんな感じだ」

「赤いよ。炎みたいなんだけど、暖かい炎って感じだね」

「そうかー スズさんは、燃える女なんだ。じゃあ、マナちゃんは?」

「背中に、羽が生えてる。真っ白い天子の羽みたいだ」


 ガタン

「エー そんな人初めて聞いた」


「バップ、何、騒いでる」

 バップはカイトのお父さんに言われ頭をかいて謝った。しかし、後ろに殺気を感じて、振り向くと、お婆様が、怖い顔をして、カイト達を見ていた。


「マナミの背中がどうしました?」

「エッと、羽が」

「羽がなんです」

「羽が生えているように見えただけです。ごめんなさい」


 私、スズ、お父さんは、驚いてカイトを見た。

「カイトは、見えない光の世界が見えるのか」

「不思議な事を言う子だろ、でも、そういうのを見える人が、ご先祖様にも居たそうだ」


 お婆様は、当たり前ですという顔をした。

「綾見家の人間なら、そういう子が生まれても不思議はありません。昨日、気になって蔵書倉で調べました。綾見家は、昼間でも、光素体が見えるご祖先様が居たのです」


 お婆様は、確信を持って私を見た。


「マナミ。カイトは、貴方のパートナーです」


 お婆様は、ニコッとして話した。急にパートナーといわれても、意味分からない。お婆様は、いつもしている銀のペンダントを首から外してカイトのお父さんに見せた。


「綾見さん、このペンダントと同じ物が、貴方の家にもあるはずです。見つかったら、カイト君にあげてください。私達の繋がりの証です」


 このペンダントは、カブ爺も持っている。そのうち、スズに渡すと言っていた。お婆様からも「マナミが成人になったら渡しますからね」と、言われている。カイトの父ヒデオは、難しい顔をして銀のペンダントを見た。


「小さいころ見た事が有ります。気になっていた次期も有りましたが、なんですか、これは、古い物ですよね」


「先代の龍神様が私達に託した物で、私達を守ってくれる物だそうです」

 カイトは、私のパートナーだと言われて喜んでいる。私は、あのビキニ姿を見られるのかと別の想像をして顔を赤くした。バップは、又、カイトをつついた。


「良かったなカイト。マナちゃんのことは、お婆様公認だぜ。幸先いいな」

「カイト、里に遊びにいらっしゃい。そこのメガネ君も、来て下さいね。貴方にも何か感じます」

「ぼ、ぼくもですか。ぜひ、ぜひ。ね、スズちゃんん」

「ばっかじゃないの」


 バップは、お婆様にそういわれて嬉しそうだ。スズは、ちょっと複雑なのかな。顔を真っ赤にしながら、顔をそむけた。


 お婆様は、去年のマスカットワインと急速冷凍していた果実を戻して持ってきた。カイトのお父さんは、それを美味しそうに、食べて、その後、ワインをテイスとして頷いている。


「今年は、これより良くなりそうなのか」

「まだ分からないだろ。天気しだいだよ」

「サンプルをくれ。火星に持って行く。桃はどうだ。さくらんぼは」

「気が早いな。全部、検閲に掛けたらどうだ。通る物から考えたらいいだろ。さくらんぼは、野生だから値段も安く出来るし、収穫時期も早い。里の守護木だから喜ばれるんじゃないか」


 お父さん達は、作物のことで盛り上がっている。私にとっては、カイトが、見えない光の世界が見えることの方が一大事だ。大体、この話は、里から漏らさないんじゃなかったのと、言いたい。お婆様をジトッと見ていたら、分かったわと云う顔をされた。私達は、テラスに出て、さっきの話しをすることになった。


「リュウイチ、この子達を借りますね。例の物は、カブ爺に持たせました」

 お父さんがニヤッとした。

「すいません、助かります」


 例の物とは、砂金だ。ヒデオおじさんが素っ頓狂な声をあげたら見せた時だろうなと思った。テラスに私達を誘ったのは、お婆様が、私の疑問に答えるためと言うより、カイトに確かめる事が有ったからのようだ。


「カイトに聞きたいのですが、メガネ君ってどんな子です?」

「バップです」と、バップが、自分を宣伝する。

「バップですか?気ままな性格っていうか、でも、コンピューターや、ロボットにとても強いです」

「カイトー もっと誉めてくれよ」

「私も、そう思いました。気ままな人なんでしょ、メガネ君。ふふ、バップでしたね」

 私も、お婆様と同じ意見だ。

「スズちゃん、ぼく、まじめですから」

「なに言ってるのよ」


「カイトには、バップはどう見えますか」

「はい、体の周りを、空気が対流しているように見えます」

「やっぱり、風属性ね。自分は、どんな感じに見えますか」

「父さんもそうなんですが、光って見えます。でも、ちょっとずつ色が違いますけど」

「光属性ね」

「私はどうなの」

 スズも興味を持ったようだ。

「スズちゃんは・・・」

「スズでいいよ」

「じゃあぼくも」

「あなたは、スズ様よ」

「そんなー」

「スズは、炎のオーラです。でも、暖かいオーラなんだ。優しい人ってことかな」


「正解」

 私も、つい声を出してしまった。


「えっ、マナちゃんも見えるの?」

 私は、しまったと思った。しかし、お婆様はニコニコして平気そうだ。


「そうなのです。でも、このことは内緒よ。貴方のこともそう。私達は、自然と仲良くしなくてはいけません。もちろん、人同士もそうです。貴方達は、自然と、人を仲良くする事が出来る人です。でもまだ、見えない光の世界の事が、分かっていないでしょう。特にカイトに知識が必要です。だから、ちゃんと勉強してください。自分の事が分かるまでは、内緒にしておきなさい。いいですね」


「ぼく達、仲間ってことですか」

 バップが、体をせりだしてニコニコした。


「そうですよ、バップも含めてね。あなたの家にも銀のペンダントがあるはずです」

 バップは、そういわれて、顔をパッと明るくしてスズを見た。スズは、お婆様にそういわれて、目を逸らし損ねたようだ。バップは余計喜んだ。



 リビングが急に騒がしくなった。


「砂金か、これ、すごいな」


 ヒデオが、大声を上げた。砂金を見せたのだ。お婆様は、そっちに行って、お父さん達と話しだした。私達は、もうすぐ成人だ。これからどうするのか、私達の話題は、そちらに移った。私は、今まで、人に話せなかった夢の話を、カイトのおかげで、初めて話せた。スズは、それを神妙に聞いていた。


「私達、もうすぐ成人でしょう。カイトはこれからどうするの。やっぱり、旅に出るの」

「そうさ、世界を旅したいんだ。でも、星間パイロットにもなりたいのかな。父さんの星間貿易をついでもいいと思ってる。急がないけどね」


 バップは、ずっとスズを見ていた。

「ぼくは、カイトのバックアップ。今作っているスカイクルーザーが完成したら、エンジニアとして乗り込むんだ。スズはどうするの」

「スズ様でしょう」

「スズ様」


「私は、マナの手伝いかな。マナがハッキリしてくれないと困るけど」

 スズにそう言われ、今まで話した事がなかったことを私は、話しだした。話している当人が、ビックリした。今まで、本当に誰にも話した事が無かったからだ。


「やりたい事はあるの。地上人と、自然との調和よ。他の里は私たちの里と違って、森と喧嘩しているところが多いの。生存競争みたいな感じでしょ。助け合えば、何て事無いのに。ミミ様から聞く話は、大変な話しの方が多いのよ」


「ミミ様?」


「精霊様のことよ。見えない光の世界の住人。私達と話が出来る人なの。お婆様が、カイトのことを認めたから、今度紹介するね」


「ぼくは?」


「紹介しても、話せないと思う。そうね、これ見える」

 私は、指先を光らせて見せた。


「すごい、指先だけ光ってる」


「そうなのか、ぼくには見えないよ」


「これは、光色って言う光素体を強くする技よ。ミミ様に鍛えられたの。これだと、見えない光を見る力が弱くても、感じたり、見えたりするはずなんだけど、全く能力が無い人には見えないわ。バップは、普通の人だってこと」


「はー なるほど」


「でも、おばあ様が、バップに何か感じたのよね」と、スズ。

「そうね、今度聞いてみる」

「お願いしますよ」

「もっと頭を下げなさいよね」

「は、はー」


 スズが、バップを見て笑っているので、最初バップを否定しているのかと思ったが、そんなに嫌じゃないんだと思った。スズがバップにも、これからどうするのか聞いた。


「バップはカイトのバックアップって言っていたけど、就職はしないの」

「アハハ、仕事より龍の里で、勉強って言うのはどうかな」

「おいおい、エンジニアなんじゃなかったのかよ」

「それも、ここで、続けるという事で」

「気ままな事、言って」

「いいだろ。多分里の役にも立つと思うよ。スカイモービルだって、部品さえあれば、一から作れるし。スズ様どう思う」

「好きにしていいんじゃない。里にそういう人居ないから」

「スズ様公認と言う事で」


 この二人、いつの間にかなじんでいる。後で、スズに、バップのことどう思っているのか聞いて見よう。



 お婆様が、砂金の話しを終えて戻ってきた。ヒデオおじさんが、シェルターの市長との橋渡しをして、それなりの交易になることに決まったようだ。お婆様は、バップの事を思い出した。


「清田バップ。やっと思い出したわ。随分遠いけど、うちの親戚よ。今の属性になる前、城山家は、風属性だったのです」


「そうなんですか」


「調べ物とか強いでしょう、バップのお父さん」

「そうです、シェルターの保安でも、データー管理を任されています」

「貴方にもその血が流れています。城山家の秘密が守れるのなら、蔵書倉の閲覧を許します。どうしますか」

「お願いします。すごく興味があります」


 そう言ってバップは、チラッとスズを見た。多分、不純な動機だ。きっかけはどうあれ、私達四人がチームになりそうな予感がした。成人とは誕生日では無く学年と言う意味だ。同級生は、四月になるとみんな成人扱いになる。来週は、もう、四月だ。パイロットのアカデミーに行く子も居れば、就職する子もいる。学習機が発達しているので、一般教養は全員終えている。使わなければ忘れるだろうが、宇宙戦艦だって動かす知識は詰め込まれている。後は、何を体験するかという事だ。


「来週から、しばらく、ここに通ってもいいですか。学校で、習わなかったことばかりです」

「ぼくもそうしていいですか、機材持って引っ越したいです」

 カイトとバップが、矢継ぎ早にそう言っているのを聞いて、私とスズは嬉しくなった。しかし、お婆様は、甘い顔をしない。


「お父さんと、お母さんに話しなさい。いくら成人しても、親は親ですよ。ちゃんと話せなかったらダメです」

 二人は、顔を見合わせている。多分ハードルが高いのだろう。

「分かりました。マナちゃん来週逢おう」

「スズ様もね」

「もう、スズでいいわ」

「私もマナでいい」

「本当、ハハハハハ」


 カイト達は、これから、親を説得し続ける気だ。お昼になったので、カイトのお父さんが、帰る時間になった。私達は見送りに出て、カイト達に手を振った。あの変わった形のスカイクルーザーは、音もなく飛び立った。




 私とスズは、ご先祖様のことが気になったので、横で見送っていたお婆様の後について行き、もっと話しを聞かせてもらうことにした。


「お婆様、ご先祖様って、どんな人だったの」

「私のご先祖様は?」

 スズも、とっても気になるようだ。


「カイトとバップのご先祖様と貴方達二人のご先祖様は、幼馴染で、とっても仲良しだったのよ。そうね、文献を読むとスズのご先祖様が、みんなを引っ張っていました。だから、これからも、マナミの事をよろしくね」


 スズは、頬を赤くして喜んだ。


「私のご先祖様は?」

「マナミのご先祖様は、神社の神主さんでしょ。今は、木野家がやってくれていますけど。木野のご先祖様を辿ると、私達のご先祖様より神社に関しては、歴史があります。でも、木野家の本家は、今、大変なことになっているそうです。精霊様と喧嘩しているみたいなのです」

「そんな・・」

「ダメですよ、助けに行こうなどと考えては、マナミは、まだ、修行中の身です。空も満足に飛べないではないですか。ただ、夢見巫女の古い文献は、そこにあるそうです」

「気になるね」

 スズは、私の顔を覗き込むようにささやく。

「うん」


 私は、カイトが、また来てくれるというだけで嬉しくなっていたが、気を引き締めた。夢見巫女について、しばらく考えをめぐらせることにした。夢見巫女の話は、データベースに無い。スズと二人で、地下の蔵書蔵に調べに行った。

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