第4話 綾見家

 ワージシティーのほとんどは、地下都市で、地上のエーテルドームに住む人は、ほんの極わずかだ。カイトの父親は、星間貿易を営んでいるので、エーテルドームの安全性を熟知している。その上、「これぐらいの放射線へでもない」とドームの外に住みたいぐらいの人だ。それをやると、商売的にまずいので、ここに住んでいる。母親のセレナは、優しい人で、カイトが、シェルターの外で、スカイモービルの事故を起しても、咎めたりしない。しかし、「周りの人に迷惑を掛けた事は、反省しなさい」と言われた。


 窓から空を見上げると、エーテルドームが、薄く光っていて、その先には、オーロラが見える。太陽風が吹くときは、このエーテルドームが二重になる。二重になると、互いに影響しあい更に明るく光り出す。カイトは、今日会ったマナミを思い浮かべた。


 バルコニーに居た彼女は、まつげが動くたびに大きい目が際立って見える。一瞬見とれて、瞬きがスローモーションのように見えた。まつげの影まで、はっきりと見える。その目で、にっこりとされると、自分がボーッと見とれていることに気づいた。


 かわいい子だったな。懐かしいような、ホッとするような


 そういえば、スズもカブ爺も他人に思えなかった。カイトは、スカイモービルの整備法をもう一度、一から勉強しなおすことにした。学習機で詰め込まれたから、知識はある。でも、ちゃんと使わないと今日のような事故を起してしまう。もっと体を動かさないとダメだ。スカイモービルのエンジンは、回収してもらった。今作っているメンテナンスロボットが完成すれば、相棒のバップと、もう一度、一から作るつもりでいた。


 トントン

 窓をたたく奴は、バップしかいない。カイトは、笑顔になって窓を開けた。


「大破だって、ほら、差し入れ」

 バップは、窓から入ってきて、マスカットジュースを投げてきた。

「なんで、いつも、窓から入って来るんだ」

「なんか、行動的って感じがするからさ。スカイモービルがないと遠出できないだろ」

「今度貸してくれないか」

「やだね、一緒に行くんならいいよ」

「それ、ばれたら、一緒に怒られろってことだろ。バップの父さん、鬼みたいに怖くないか」

「親父は、怖くないんだ、でも、母ちゃんは、しぬほど怖い。一人で、怒られるのは、やだよ」

 バップは、まいったという感じで手を広げて見せた。

「仕方ない。今度、一緒に行くか」


「行かせてください、だろ。それより、龍の里にいったんだって。聞かせろよ、どんな感じだった」


 バップもドームに閉じこもるのが嫌いだ。それに、もうすぐ成人だから、待ち切れない。


「驚いたよ、学校で習った自然がそのまま残ってた。だから感じたのかな、すごく懐かしいんだ。長の娘にも会ったよ。すごい美人なんだ」


「友達になったのか」


「ちょっと話しをした。又、会いに来ていいかって聞いたら。かまわないって、言うんだ」


「なんだってー よし行こう。明日行こう」


「むちゃ言うなよ。反省中なんだぜ。それよりオレの、メンテナンスロボット作るの手伝ってくれよ」


「そうだな、ああいうのは、一人で作るから、楽しいんだ。おまえん家には、ガンゾタイプのAIあるんだろ、上半身さえ出来れば、後は自分で何とかするんじゃないか」


「指の精度が、いまいちなんだ、バップはそういうの得意だろ」


「ようし分かった。あしたカイトの親父さんに、龍の里に行っていいか聞いてみてよ。OKだったら、ぼくも連れて行ってくれ。そしたら、手伝わないこともないよ」


「ハードル高いな。スカイモービル大破させたばかりだぞ。聞いてみるけど期待するなよ」


「うまく行くって、期待してるよ、相棒」


 バップは、嬉しそうに手を振りながら、窓から帰って行った。父さんと話すのは、明日だと話したが、チャンスは、もっと早く訪れた。バップから貰ったシェルター産のマスカットジュースを飲んでいたら、父親のヒデオが入ってきた。


「カイト、怪我しなかったか」


「父さん、ごめん、スカイモービル大破なんだ」


「エンジンは残ったんだろ、もっと大きな事故にならなかったんだ。よしとするぞ。里の人には、お礼を言ったのか、父さんも後で行ってお礼するからな」


「うん、ありがと。長の娘さんに会ったよ。天子の羽が生えてた」

 カイトは、人が見えない光を見る事が出来る。この事を知っているのは、両親とバップだけだ。


「長って、城山さんか、マナミちゃんだな」


「父さん知ってるの」


「向こうは忘れているかもしれないけどな。そうか、城山家と交流切れなくて良かった。父さんは、星間貿易やっているだろ、だからご無沙汰してしまったんだよ。明日にでも、一緒に挨拶に行くか」


「本当、それなら、バップも連れて行っていいかな。さっき約束したんだ」


「かまわない。だけど、ちゃんと両親には断るように言いなさい。あそこの奥さん怖いぞ。とばっちりは、ごめんだからな」


「分かった、メールしとく」




 翌朝スカイクルーザーに乗り込み、発進させようとしたら、バップが走ってきた。


「まってくれー」

「父さんバップだよ。おばさんを説得できたんだ」

 ヒデオは、浮かんだクルーザーを一度地上に戻した。

「おじさん、遅れてすいません」

「おはようバップ」

「良くお前んとこのおばさん、許したな」

「それがさ、ビックリだよ。オヤジが、ぼくの味方になってくれたんだ。多分夫婦喧嘩の真っ最中だと思うよ」

「バップも、もうすぐ大人だからな、清田さんの気持ちも分かるよ」

「とにかく良かったな。乗れよ」

「オウ」


 カイトたちを乗せたクルーザーは、ワージシティーの地下道を通って地上界に出た。瀬戸内海の海側を通ると障害物が無いのでスムーズだ。そのコースを通る。カイトが取ったルートより南だ。昨日カイトは、内陸のコースを取り、アップダウンや障害物をうまくかわしきれないで、いろいろぶつけ、最後には、無理な運転がたたって、電子系がショート炎上している。


「窓を開けてもいいぞ」

 ヒデオに、そう言われて窓を開けた。潮風が心地いい。瀬戸内の穏やかな海に、太陽のキラキラが反射して、キラキラが、右側に走るように着いてくる。こんなに穏やかな海だが、巨大になった魚も多く生息する様になっている。全く変わらない太古生物(兜蟹)が、いる海なので、大きな変化は無いが、太平洋に出ると、そうも行かない。そこから入ってきて住みついた魚も多い。


「カイトも、しばらくは、このコースで遠出しなさい。龍の里も、この方が近道だぞ」

「その前に、スカイモービル何とかしないといけないけどね」


「それは大丈夫。約束したろ、手伝うって」

 バップは、ボーッと海を見ていたと思っていたが、急に振り向いて、胸を張って見せた。廃墟の町に桜の試験場が見えてきた。龍の里は、もうすぐだ。


 城山の要塞のような大きな石の建物の屋上に、スカイクルーザーが何台か止められるスペースがある。ヒデオは、馴れた運転で、そこに止めた。中から、長のリュウイチさん(城山立一)が、娘のマナミと守り役のスズを連れて出迎えてくれた。


 バップは、スズから目を離せなくなった。


「カイト、あのかっこいい子は、誰だい」

「カッコいい?かわいいの間違いじゃないか、長の娘さんだろ」

「違うよ、ショートヘアの子。あんなカッコいい子、見たことないよ」

「マナちゃんの友達の、スズちゃんだよ。普通の子だよ」

「カイトー 見る目が無さ過ぎだよ。長の娘さんと一緒に居るってことは、守り手だろ、めちゃめちゃ強いに決まってる。多分、オレ等が束になって掛かっても勝てないぞ」

「そうなのか、詳しいなバップ。でも、スズちゃんもいい子だぞ。話したら分かる」

「おじさん、紹介してください」

「普通に話せるよ。自分でやりなさい」

 オレ達は、ここから未知の体験をいっぱいすることになる。

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