第3話 シェルター人(びと)
私の家は、海側の小高い30メートルぐらいの山の上にある。龍の祠の麓に泊めたオートモービルで、急いで帰り、通信を開いて、ワージシティーに連絡を取った。多分、後でカイトは大目玉を食らう。シェルターの子供は、成人するまで、一人で遠出をしてはいけない。私達と違って、放射線に弱いからだ。
現在、地球は、地磁気が、なくなっている。地球の地磁気が反転する時期に来ているからだ。ただ、何時まで、この無磁気状態が続くのかは、分かっていない。こうなって、もう、二百年経つ。地磁気がなくなって、世界中で、オーロラが見られる様になった。今では、地磁気によって遮られていた太陽からの放射線が、降り注ぐようになり、地球規模で、DNAが、書き換えられ、突然変異する者が多く現われた。弱いものは淘汰され、生き残った者も、今の状況に適応するために、様々な変化をした。
地磁気反転。 地球では、今まで、この現象が、30回は起きている。
この変化は、人間世界にも大きな影響を与えた。地上では、シェルターに非難するシェルター人と、自然を受け入れ、そのまま生活する地上人とに別れた。元々衛星軌道上で生活するコロニー人の三種族が、地球人だ。この中で、悲惨なことになったのは、地上人達だった。無磁気状態が長く続き、地上人は、放射線のせいで出生率が落ちた。赤ちゃんは、生まれても短命な一生を終え、人口は激減した。地上人は、出産の時だけでもシェルターに入れてくれとシェルター人に訴えたが、そのとき地上人は、既に、高放射線を浴びた食べ物や飲み物を飲食していて、どんな影響があるのかわからないと、入れてもらう事が出来なかった。私達地上人の子供は、そんな死地を生き延びた希望の子たちだ。
私の里は、こういう歴史を経て、尚且つシェルター人とも仲良くしている里だ。太陽風が吹かない限り普段は、こうしてシェルター人も外に出る。食べ物や、飲み物は勧められないが、暫く一緒にいるぐらいは、できるのだ。
マナミは、カイトを廃墟の街に放って置く事も出来ず、家に連れ帰った。カイトは、この里が、学校で習った地磁気消失前の自然と良く似ていることに驚いていた。
「ここは、清浄なんですか。昔の日本と変わらない」
「ううん、そんなことない。ここは、桜の木に守られているから、極端な変化を免れているだけ。シェルターの人も調べに来たけど、ちょっとづつ違うそうよ」
「そうなんだ」
「里の食べ物って、美味しいわよ。地磁気が戻って、放射線が減ったらカイトも食べられる」
「放射線って、残留しないのに、食べ物はシェルターに、持ち込み禁止なんだ」
「私達の先祖が、大変だったのを見ちゃったからじゃない」
「うん・・・」
「大丈夫、気にしないで、うちの里は、シェルターの人とも仲良くやっているから。それに、食べられるかどうかは、試験しているみたい。よく買いに来るの」
「地磁気が戻って、元の生活ができる様になっても、今度は、シェルター人が、自然に嫌われるんじゃないかと言う人がいる。そのときは、里の人達に助けてもらいたいと思っているみたいなんだ。都合よすぎだね、オレ達」
カイトは、地上人寄りで、無地気状態の地球をよく勉強していた。偏見を持っているシェルター人を多く見かけたマナミにとってカイトは、友達になれそうなシェルター人だ。スズとカブ爺は、マナミにカイトを任せて自室に帰っていった。二人は、マナミの家人で同じ家に住んでいる。
「マナ、カイトの相手をして。今日は、私が廃墟探査の報告書を書かないといけないのよ」
「うん、カイトの事も書くんでしょ」
「カイトは、顔を洗ったほうがいいわよ」
カイトは頭を掻いてごまかした。私が、カイトの世話をする事になり洗面所に連れて行く。
スズ達が部屋に帰ったので、カイトを海側のテラスに連れて行き、少しおしゃべりをすることにした。
「この家、石作りなんだね」
「珍しいでしょう。昔は城があったところなの、この小高い山は城山って言うのよ」
「城山、聞いたことある。ご先祖様が、この辺りに住んでいたって聞いた。随分昔の話しだよ」
「そうなんだ。ご先祖様は、知り合いだったかもね」
「案外マナは、ロマンティストなんだね。すごい昔だって聞いたよ」
カイトは、スズが私のことをマナと呼んでいたのが気に入ったのか自然とマナと呼んでいた。
「私の家も古いのよ。二千年は経っているそうよ」
「そうなのか、気になるな。うちの親がいいって言ったら、又、遊びに来ていいかな」
「大丈夫?」
「どうせ、マナ達も太陽風が吹いたら非難するだろう。スカイモービルだと、ここは、近いんだ」
「私はかまわないよ」
「ありがとう」
そんな話しをして30分も待っていたら、スカイモービルで、ワージシティーの人が、迎えに来てくれた。カイトは、帰り際に、又、来るといって手を握った。私は、こんな感じに馴れていない。ちょっと顔が赤くなったと思う。
お父さん達は、本当に夕食に間にあう様に帰って来た。私達は、ホッとした。お婆様は、私よりほっとしていた。おじいちゃんを神聖林で亡くしているからだ。
「コンが先導してくれたんだ。オズチ様にも会ってきたぞ。人間の薬だけど、額に薬をぬったからな」
「お父さん、ありがとう。やっぱり傷口残るかな」
「もう、毛は、生えそうになかったぞ。カッコいいだろうって自慢してたんだろ」
「そうなの、ウフフ」
「ワハハハハハ。後で、里の者達が、集まってきて宴が有るから少しだけ顔を出しなさい。みんなも、お前の顔を見たがっている」
「分かったわ、ちょっとだけよ。それより、私も報告があるの。廃墟の町で、ワージシティーの子に出会ったのよ。綾見カイト君。私と同い年の子なの」
「綾見?聞いた名だな。ワージシティーの未成年だったら、大目玉だろう。シェルターの子供は、お前達ほど、放射線に強くないからな」
「うん、なぜかな、懐かしい感じだったんだ。昔は、この里に住んでいたそうよ。八百年前までの話しだけど」
お婆様は、ずっと私達の会話を黙って聞いていたが、なにか、思い出したのか、データーバンクではなく、地下の書蔵倉に降りていった。
宴が始まった。
私の家の一階は、講堂になっていて、大きな厨房もある。近所のおばさん達が集まって、ご馳走が作られ、マスカットワインが樽ごと出てきた。私は、未成年なので、お酒は飲めない。代わりに、マスカットジュースが出された。スズも一緒に相伴に預かり、ジュースを美味しそうに飲んでいる。
「見てくれ、大粒の砂金だ」
長のお父さんが、砂金を皿の上に山の様に積んで皆に見せた。
オー
大きな声と、どよめきが、講堂に響く。
「今日の手柄は、娘のマナミだ。梟の精霊様が教えてくれた。マナミ」
私は、父の横に立った。
「姫様。お手柄ですぞ」
「姫様に乾杯だ」
「乾杯!」
講堂に音楽衆が繰出し、宴は、最高潮に達する。子供たちも数人来ていたので、私とスズは、子供たちの相手をした。
「砂金をマナ様が見つけたの?」
「みんな砂金って言葉を覚えちゃったね。梟の精霊様に教えてもらったのよ。梟の精霊様は、夜起きている精霊様よ」
「どんな人」
「長生きなんだよね」
「普通の梟の倍は有るかな。そうね、梟で、データーバンクを見て頂戴。真ん丸い顔をしているわ。精霊年齢だと七千歳ぐらいだって」
「ふーん」
「会いたい!」
「コンだって精霊年齢だと二千八百歳だって、お父さんが言っていたわよ」
「コンが」
「コンも精霊様なの?」
「そうよ。龍神様と同い年。コンが遊びに来たら、背中に乗せて貰おう。乗りたい人?」
「乗りたい」
「わたしもー」
「わらしも」
スズが抱いていた女の子まで、私の膝許に来た。もうすぐ四月だ。スズと私は、神聖林に入れる年齢に達する。スズが希望を持った目で私を見た。
「私達も神聖林に入れるよね」
「スズも私も、もうすぐ成人よ。防護服に慣れたら、入れるんじゃない」
「マナ様たちいいなー」
「そうね。精霊様や主様に会って、お礼を言わないといけないね」
宴は、なおも続いた。私は、他の人より寝るのが早い。ここにいる子供たち同様眠くなってきた。スズが、「もう寝ようよ」と、言うので、講堂を後にした。
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