手とは人間の象徴である
手を重ねた瞬間、ほんの一瞬友嗣の目つきが変わった。
普段、人間観察をしていて髪の毛を一センチ切っただけでも、三年間使ったシャーペンを無くして落ちこんでいる表情でも気づく望でさえ気づけないほどの一瞬だった。
手を離すと友嗣は話を続けてきた。
「望君。俺さ、この学校よく分からないから放課後案内してくれない。」
望にとっては最悪の提案だろう。避けようと思っていた相手からの学校案内の依頼。
(くそっ。何で俺がお前なんかの案内をしなくちゃいけない。俺は独りで静かにしてたいんだよ。頼むから関わるな。)
望は少し考えてこう答えた。
「いやー。今、母さんが病気でね。家事とかやらないといけないから早く帰らないと行けないんだ。すまないが他の人に頼んでくれないか。」
望は嘘をついた。望の母親は病気なんかではない。望は依頼を断る為に嘘をついたのだ。
「そっかー。なら仕方ないなー。」
(お、諦めてくれたか。)
友嗣は諦める素振りを見せると望に少し近づいて小さくこう言った。
「君の特殊な能力について知りたかったんだけどなー。」
おぉ、何たることか。友嗣は気づいている。望に普通の人にはない能力がある事に。
望は驚きを隠している。何故バレたのかと。友嗣の前で能力は使っていない。のに何故、望に特殊な能力がある事に気づいたのかと。望は驚きを隠しているつもりだったが、右手の小指が少し震えている。
「何で気づいたか知りたかったら、放課後校舎裏にきて。」
友嗣は一言、言い放つと左に百八十度旋回し隣の人に自己紹介を始めた。
望は言いようのない不安感を感じていた。自分の静かな生活が脅かされるのではないかと。
その後、友嗣が望に話かける事はなかった。
望は授業をもぬけの殻のように受けた。
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