会話のアンブッシュ

聖は荷物を端にかけると望の方を向いてきた。

「ねぇ、君の名前はなんて言うの?」

明らかに望に聞いている。

望は面倒という心を抑え答える。

「華威 望です。」

「へぇ、望君かぁ。望君は好きな物ある?」

会話を続けようとしている。

しかし、こんな事で心が乱れを表面に出すような望ではない。

(これ以上の会話は不要だ。

此処は彼が絶対に知らなそうで、かつ興味の持たなさそうな答えを返さねば)

「そうだな。特にこれと言って無いかな。しいていうなら占いの研究かな。」

「へぇー。」

聖はよく分からないと言った感じで前に向き直った。

(よし!会話が終わった。これで奴は俺に興味を持たないだろう。)

望は心の中でガッツポーズを決めた。


「ところで望君。アメリカ映画好きかい?」

聖はいきなり望の方向に向き直り、質問した。アンブッシュである。

「俺さ。アメリカ映画の小粋なジョーク大好きでさ。ある映画でね。主人公達が警察署に侵入するのに透明な車が必要だって言ったんだ。そしたらもう一人が用意出来ると言ったんた。どういう意味だと思う。」

「さ、さぁ。」

咄嗟に聞かれた望は言い返しが出来ず、変な相槌しか出来なかった。

「そいつは透明な車としてパトカーを用意したんだ。粋だろう。パトカーは警察署の中では透明の様に目立たないって事さ。」

「そうなんだ。」

望は聖に対して言いようのない不安感を覚えた。普通の人は趣味を聞いた後、興味が無かったら話を終わらせる。しかし、こいつは聞いてもいない自分の趣味を話し出した。こいつは望の願う静かな生活を邪魔する者かもしれない。

(こいつには決して関わらない様にしよう。それが俺の望む生活への道だ。)


「まぁ、そういう事でよろしく。」

聖は望の方に右手を差し出してきた。握手を求めてきている。

(此処で返さないのは変に人間関係をこじらせてしまう。仕方がない。)

あぁ、なんて事だ。此処で望は聖と握手をした未来を予知しておけば絶対に握手なんてしなかっただろう。だが、望はこんな握手で運命がかわると思いもしなかった。だから、予知をしなかった。

この握手によって望の未来は大きく変わってしまった!

望も右手を出し、友嗣の右手と重ねた。

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