第4話 新星(スーパールーキー)VS学園最強

瑞姫、栞はここまで無敗で勝ち上がってきた。

栞は何度か男との対戦もあったが何とか怖がることなく順調に勝ち進んだ。

「おつかれさまです。鹿島先輩」

「おう、お疲れ。流石に副会長に勝ったんだからそこら辺のやつなんて手ごたえがないだろ」

そういって出迎えてくれたのは栞と綾人だった。

「そんなことないよ、わざわざ私に挑んでくるんだからそれだけの対策をしてきてるからね」

今回の交流戦はあくまで今後ある他校との調整試合のためのものだ。

参加するもしないも自由なのだ。(ただし栞と瑞姫には参加しか選択権がない)

そのため参加してくる生徒はいずれも上を目指す生徒なのだ。

そういう生徒ほどやりにくいものはない。

「それもそうか」

「ところで栞は大丈夫?次の相手は…」

「…考えたくもないです」

次の栞の対戦相手は現生徒会長であり学園最強の初月海斗なのだ。

男が苦手な栞にとっては最悪の相手だ。

今までは格下が相手だったということもあり恐怖を抱く前に決着がつくことが多かった。

しかし海斗の実力は今までの生徒とは比べ物にならない。

今までの試合すべて20秒かからずに決着している。

しかも手の内を一切見せず。

そのため栞は一切の情報が無い状態で海斗と戦わなければならない。

「あぁ、なんであたしばっかりこんな目に…」

(僕もなかなかひどい目にあってたけどね)

「なに、試合はお昼からなんだろ?ならお昼でも食べて―」

「「あんたとは食べないから安心してください」」

そういって全力でこの場をあとにした。


いつものように人目につかないところでお昼を取り始める。

「ところで今日もですか。皐月副会長」

「いやー、おいしいお弁当が食べたくてコンビニに寄るのが嫌で」

そういって手を伸ばしてくる皐月。

それにあわせて栞も手を伸ばしてくる。

ここ数日で見慣れた光景だった。

ため息をついて小さなパックを手渡す。

「「ありがとうございます鹿島先輩(瑞姫さん)」」

もともとは皐月だけがねだってきていたのだが栞が欲しそうな目をしてきたので一度作ってきたらこのようにねだるようになったのである。

栞は知らないからいいが皐月は瑞樹の正体を知っている。

男が男の手料理を貰ってうれしいのだろうか…。

「「いただきまーーーす」」

二人揃って貰ったおかずを食べ始める。

今日のおかずは卵焼きとアスパラの肉巻きを渡している。

どちらもそれほど時間がかかるものではない。

おいしそうに食べてくれるのでまぁ悪い気はしない。

そんないつもの光景を見ながらお弁当を食べていると足音が聞こえてきた。

「お、なんだなんだ。ここは皐月ハーレムか?」

そういってやってきたのは生徒会長、初月海斗だった。

瞬時に瑞姫の後ろに隠れる栞。立ち上がって無言で海斗に近づく皐月。

瞬間、スパーーーン!!という音が響いた。

「相変わらずだね、海斗。その減らず口」

「お前一人に対して女生徒が二人。どこからどう見てもハーレムじゃないか」

「うっさいわ」スパー――ン!!

一度見ている光景とはいえやはり生徒会長は皐月なんじゃないだろうかと思ってしまう。

鋭い一撃を貰いながらも海斗は瑞樹の後ろに隠れる栞を気にしていた。

そしてその場で言った。

「驚かせてしまって申し訳ないな。改めて自己紹介を。俺は初月海斗だ。好きなように呼んでくれ」

栞は少しだけ顔を出して同じように自己紹介をする。

「えっと…紗倉栞です。その、えっと…」

名前を言ってから何を言っていいのかわからず結局隠れてしまう栞。

すかさず瑞姫がフォローを入れる。

「ごめんなさい。初月会長、栞はちょっと男の人が苦手なんです」

「あぁ、知ってるよ。学園長から聞いてるよ」

「「へっ?」」

瑞姫と皐月が同時に驚く。

「なんだよ、二人してそんな驚いて…」

一瞬目を合わせる二人。

しかしどうやら瑞姫の秘密は聞いてないみたいなので安心する。

こんなおしゃべりそうな人には絶対にばれたくない。

「それなら何で来たの?彼女、隠れちゃってるし」

皐月がそういうと海斗は少し申し訳なさそうな顔をして言った。

「まさかここまで怖がられるとは思ってなくてな。悪かった」

そういって頭を下げる。

「とりあえずもう戻ったら?どうせ仕事サボってここに来てるんでしょ?僕も手伝ってあげるから戻るよ」

そういって背中を押す皐月。

「はいはい、わかったよ。それじゃ邪魔して悪かったな」

海斗はそういって皐月と一緒にどこかに言ってしまった。

姿が見えなくなるのを確認して栞に声をかける。

「もう大丈夫だよ」

そういうと栞はひょこっと顔を出して周りを見渡していないことを確認してから元の位置に戻る。

そして無言でお弁当を食べ始めた。

(大丈夫かな…これ)

試合前からこんなことがあって果たしてしっかりと戦えるのだろうかと不安になる瑞姫だった。


「本日最後の試合は学園最強、初月海斗対期待のスーパールーキー、紗倉栞だ!」

アナウンスの声に合わせて会場が盛り上がる。

そんな中瑞姫は栞の入場ゲートの方にいた。

「ほら、一回深呼吸して」

「すーはー、すーは―…」

大きく深呼吸をして目を開ける栞。

なんとかお昼の時のことはもう大丈夫のようだ。

しかし相手は学園最強の海斗。しかも栞の苦手な男なのだ。

今までは栞が恐怖を感じる前に試合を終わらせていたので何ともなかったが今回はそうはいかない。

今までとは比較にならないほどの接戦になるだろう。

「それじゃ…行ってきます」

意を決してゲートをくぐる栞。

向こうからは同じタイミングで海斗がゲートから出てきた。

「二人の選手が入場です!どちらも今までの試合では一切本気を見せていません。果たして本気の二人がぶつかり合うことはあるのでしょうか」

「よくここまで来てくれた。正直棄権してくるだろうと思っていたからな」

「棄権は…出来ないんで」

そういうと栞は一気に集中力を高める。

栞にとって長引けばそれだけ不利になる。そのため短期決戦に持ち込むように瑞姫がアドバイスをしていたのである。

栞の集中力が上がるのを肌で感じた海斗も刀型のデバイスを構え集中する。

緊張感が高まる中、いよいよ二人の試合が始まる。

最初に動き出したのは栞だ。

足に装着したデバイスで瞬時に飛行術式を展開。すぐさま海斗と距離を取る。

栞は中・遠距離を得意とする科学魔術師だ。距離を詰められた状態では十分に戦えない。

距離を十分にとった栞は足に着けたホルスターから拳銃型デバイスを引き抜く。

瞬間数え切れないほどの火球が海斗を襲う。

それを焦らず必要最低限の動きで回避し同じ魔術で的確に反撃をする。

栞はそれを指輪型のデバイスで的確に防ぐ。

正面から防いでいては指輪型デバイスの出力では防ぎきれないため的確に角度をつけ身体に触れるか触れないかのぎりぎりの防御をしていた。

「へぇ~、それだけの数のデバイスを同時に使えるのか。ものすごい魔力制御だな」

デバイスを同時に扱うには二つ方法がある。

一つは大量の魔力を持つ方法。魔力を常に放出していられるだけの魔力があれば何も気にせずすべてのデバイスに魔力供給が出来るためである。

そしてもう一つの方法は栞のように魔力を制御し無駄なく一つ一つのデバイスに魔力を供給する方法である。こちらの方法であれば魔力を無駄に放出することなく効率よく使えるため一般的な方法なのだがそれでも同時に3つも操れれば十分なのだ。

しかし栞は右足に着けた飛行用デバイス、攻撃に用いている拳銃型デバイス2丁、防御に用いている指輪型デバイス2個の合計で5つのデバイスを同時使用している。

それだけ栞の魔力制御力が高いということだ。

「でも、俺だって負けてないぜ?」

瞬間、身体を沈みこませた海斗は勢いよく走りだした。

それに合わせて栞もデバイスで狙い続けるがステップで躱しながら栞の真下まで距離を詰める。

海斗は真下に着た瞬間栞に向かい跳躍をする。

特攻時と同じ速度。回避が間に合わないと栞は判断し振るわれる刀型デバイスを防御しその勢いを利用して再び距離を取ろうとした。

それを見た海斗はデバイスで一つの術式を展開。

剣が触れた瞬間、栞は爆発に包まれ見えなくなる。

海斗のオリジナル魔術の一つ「エクスプロ―ジョン」である。

剣型のデバイスに一定の衝撃を与えることで発動させる剣術と魔術の合わせ技である。

煙の中から飛び出してきた栞は一度地面に降りる。

目に見えるダメージは腕のやけどだった。

「けほっ、初めて見る魔術…」

「初見の魔術をそれだけ対応できれば十分だろ」

海斗には見えていた。

あの瞬間、栞は空いている手の方で顔を守るための防御魔術を発動。

さらに首に下げたペンダント型のデバイスで薄い氷の膜を張り腕以外のダメージを極限まで下げたのである。

(てか、いくつデバイスを持ってるんだよ。まるで武器庫みたいなやつだ)

栞は震える手を押さえつけてもう一度深呼吸をする。

―まだ、まだ大丈夫。

そう自分に言い聞かせ海斗に向かい次は自ら仕掛ける。


両手の拳銃型デバイスの記録メモリーを差し替え距離を取る。

瞬時に両手のデバイスで魔術を展開。

右手のデバイスで上空に大量の氷柱を作り出し左手のデバイスで海斗の足元を一気に凍らせる。

これで海斗の行動を制限し一気に大量の氷柱を落とす。

海斗はそれらすべてを刀型デバイスに魔力を纏わせ一つ一つを砕いていく。

自分に当たりそうなものだけを的確に砕く。

それでもかまわず氷柱を降らせ続ける栞。

海斗がいよいよしびれを切らして足元の氷を破壊しようと動きだした瞬間指輪型のデバイスで防御用の結界を展開し海斗を閉じ込める。

さらに先ほどまで使っていた右手のデバイスを足のホルスターに入れ腰に付けたホルスターの方からもう一つの拳銃型のデバイスを引き抜く。

先ほどまで使っていたどこにでも売っているようなデバイスとはまた違った形状のデバイス。

栞のオリジナルデバイス「バーストフレイア」である。

栞が引き金を引いた瞬間、先ほどとは比べ物にならない強さの火球が結界内に作られる。

すると足元にあった氷がすべて溶けだし水になる。

結界内で逃げ場のない状態なので徐々に水嵩が増していく。

海斗は早めに脱出するために結界を破壊しようとするが水の抵抗のせいでうまく力が入らない。

海斗の顔まで水嵩が増えたところで左手のデバイスで一気に凍らす。

「はぁ…はぁ…。これで…」

動けないと言おうとした瞬間、氷にひびが入り一気に砕け散る。

「流石にびっくりしたぞ、これだけのデバイスを同時に使えるなんて」

そういう海斗は先ほどの火球で少しだけ制服が焦げているだけで目に見えるダメージは一つもなかった。

「さて、これで終わりか?それならそろそろ俺も本気で行くぞ?」

そういうと海斗は一気に栞との距離を詰める。

先ほどと同じオリジナル魔術、「エクスプロ―ジョン」を発動。

次は一撃ではなく連撃を畳み込み逃げる隙を与えない。

栞はなんとか先ほどと同じ方法で防御していたが徐々に反応速度が落ちていく。

それを見ていた瑞姫が焦る。

「も、もしかして栞!?」

栞はすでに限界だった。

先ほどの攻撃をすべて防がれた時点で栞は海斗に対して恐怖を覚えていた。

そんな中海斗があれだけの猛攻をしてきているのだ今海斗の攻撃を防げているだけでも十分奇跡なのだ。

瑞姫はゲートから飛び出すために一歩踏み出そうとしたが動くことが出来なかった。

「ごめんね、これも黒江学園長からのお願いだから」

そういって背後から現れたのは副会長の皐月だった。

「どういうことですか?これも黒江のお願いって…」

「そのままの意味だよ、もし紗倉のことを助けに行こうとしたら止めてほしいって」

瑞姫は必死に抜けようとするが二つの魔術で足を縛られてしまい動けない。

本気になれば一瞬で抜けられるだろうがどうしてもまだトラウマが邪魔するため本気になれない。

こうしている間に栞は心の傷を負っていく。

「黒江はこうすれば栞の心の傷が治ると思ってるのか」

「真意はわからない。けど僕が言われたのは君を止めることだから」

そういうとさらに腕まで拘束する。

このままでは、栞が…。

「さて、この一撃で終わらせるか」

海斗が大きく身体をひねる。

明らかに先ほどまでとは違う、速く重い一撃を放つために。

栞にもそれがわかった。しかし今の栞には防御するだけの余裕もない。

ただ振り下ろされる一撃を見ることしかできなかった。

瞬間響く轟音。

明らかに決着がついた。そう誰もが思った。

しかし煙が晴れるとそこにいたのは栞を庇うように抱いている瑞樹だった。


皐月はあの時、油断などしていなかった。

一度負けた相手。なんの対策もせずに瑞姫の行動を止めようとは思わない。

そのためあの拘束が破られることはない、そう思っていた。

しかし実際はそうではなかった。

(あの瞬間、彼は一つの術式で二つのことをした)

本来なら一つの術式で出来ることは一つ。

氷柱を作り飛ばす。火球を作り飛ばす。飛行する…

これが絶対なのだ。しかし瑞姫はあの瞬間、皐月を吹き飛ばしさらに栞のもとに跳ぶための術式を一つでやってのけたのだ。

「つまり、まだ本気じゃなかったというわけだ。恐ろしいね~」

皐月はそう呟いて目を閉じた。


「ん…。ここは…」

「気が付いた?医務室だよ」

栞は身体を起こそうとする。

「いたっ」

「まだ無理できないよ。あれだけのケガじゃ流石に治癒術でも治りきらないからね」

治癒術と言っても癒しているわけではない。

あくまで痛みを和らげ表面上を水属性の魔術で直しているだけなのだ。

そのためケガが大きければそれも効かなくなるのだ。

「あたし…」

栞が試合のことを思い出して震えだす。

それを見て瑞樹が優しく包み込むように栞を抱いた。

「ごめん、もっと早く気付いて助けてあげられたら…」

「いえ、あたしの方こそ鹿島先輩に迷惑をかけちゃって」

栞がそういうと瑞姫は落ち着いた口調で言った。

「迷惑なんかじゃない、栞の抱えてるトラウマの方が私のよりもよっぽど辛いものだもの。むしろ私の方が勇気もらっちゃったんだから」

「え?それって…」

どういうことかと聞こうとしたとき医務室のドアがノックされ開く。

「お、目を覚ましたか。よかった」

そういって入ってきたのは黒江だった。

「何の用ですか」

するとさっきまで優しかった瑞樹が一転、黒江に向かって敵対心丸出しにして警戒する。

「お前がここにいると聞いてな。明日の試合についてだ」

「どうせあの会長との試合でしょ。いいですよ」

黒江は驚いた顔を一瞬だけ見せたがすぐにいつもの顔に戻って話を続けた。

「それと明日の試合で校内戦を終わりにする。栞もここまで大けがをしてしまったしな」

瑞姫は血がにじむほど強く拳を握る。

―いったい誰のせいでこんなけがをしたと思っているんだ。

今すぐにでも黒江の顔を殴りたい瑞姫だったがそれをぐっとこらえる。

「それだけだ。邪魔したな」

黒江はそういって医務室を後にした。

「えっと、鹿島先輩?」

あまりにも怖い顔をした瑞姫を心配したのか栞が声をかける。

「私は大丈夫ですし気にしないでください。純粋にあの会長さんが強かっただけです」

「栞…」

そういって笑う栞だったが手は小刻みに震えていた。

それを見て瑞姫は彼女のためならバケモノにでもなんにでもなろうと決意した。


「まったく、柊学園長には毎回困るぜ」

海斗がそういうと黒江は申し訳なさそうに言う。

「今回はホント申し訳ないな。あんな悪役のような役回りにしてしまって」

「でも次は本気でやっていいんだよな?あの時のように寸止めとか加減は一切しないぜ?」

黒江にそう確認すると

「もちろん、彼女はそれだけ強いだろうからな」

と答えた。

「面白れぇ、明日の試合が一番楽しそうだ」

海斗はそういって部屋を出て行った。

「むしろ初月、お前が本気を出さないと危ないからな」

そう黒江が呟いた。

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