第3話 初陣

あっという間に二週間が過ぎ学園交流ランク戦が開幕した。

開幕戦は栞の試合だった。

「噂の最強一年生とやれるなんて私は運がいいのね」

そういって構える三年の飛沢(とびさわ)。

開始合図と同時に両手に持ったデバイスで氷魔術、アイスブラストを左右から襲わせる。

栞は慌てることなく両手に持ったデバイスのマガジン部分に氷系の記録メモリーを差し同じ魔術を展開しながら呟く。

「それはあたしも同じです、男の人が相手じゃないならあたしも…戦える」

瞬時に右手に持っているデバイスの記録メモリーを氷系から炎系に差し替え「焔麟(ほむらりん)」を発動。

飛沢の周りに紅い鱗粉が舞う。

そのうちの一つが腕に触れた瞬間小さな爆発を起こす。

そこから連鎖的に爆発を繰り返し飛沢が見えなくなる。

爆発が収まり煙が晴れるとそこにはうずくまった飛沢の姿が。

瞬時に審判が駆け寄り続行可能か調べる。

しかし反応がない。気絶しているようだ。

『最強の一年の名は伊達ではない!!三年の先輩を相手に臆することなく戦い勝利!!初戦で見事白星を飾りました!!』

白熱した実況をする放送委員。

それに聞く耳持たずフィールドから去る。

栞が真っ先に瑞姫のもとへと急ぐ。

「お疲れさま栞。どうだった?」

「今日は男の人じゃなかったんで大丈夫でした。ところで鹿島先輩の相手ってどんな人なんです?」

「えっと鷲沢って人だったかな」

瑞姫は曖昧な返事をする。

もちろん相手のことも知っている。

むしろこの学園にいる2,3年生は全員が知っているだろう。

「鷲沢皐月(わしざわさつき)。現在の副会長だな。この学園の生徒会は基本的に国から招集を受けていることが多くて学園にいることが少ない」

そう説明するのは突然現れた綾人だった。

栞は瞬時に瑞姫の後ろに隠れ瑞樹も少し距離を取る。

「おいおい、俺ってどれだけ信用されてないの」

「あれだけのことをしておいて信用してくださいって方が無理あるよ」

「――っ(こくこく)」

あれだけの男を率いていた綾人は栞にとっては恐怖の対象であり瑞姫からしたらドン引き以外の何物でもない。

親友だと思ったけどまさかあんな一面があったなんて。

「それより、瑞姫さんは最悪の初戦になったな。まずあの人に勝つのは無理だぜ?」

それもそのはず。

鷲沢はこの学園のナンバー2なのだ。だからこそ副会長の座についているのだ。

「別に勝ち負けが重要なわけじゃないから気負いせずにやるよ」

「それもそうか。それよりもお昼に…」

「「ご遠慮しまーす」」

綾人にお昼を誘われそうになった二人は綾人の言葉を最後まで聞くことなく全力で走り去る。

(今綾人と一緒にいたらまた襲われるに決まってる)

ひとまず人気の少ないところまで走った二人はそこでお弁当を食べることに。

「鹿島先輩も相手が悪かったですね。いきなり学園の生徒会の人と当たるなんて」

「別に勝ち負けが重要じゃないからね。やれるだけのことはやるけど」

「そうそう、勝ち負けだけがその人の実力を知る手段じゃないからね」

そういって瑞姫のお弁当に手を伸ばす少年。

あまりに突然のことで見ていることしかできない瑞姫と栞。

「んぐ、んぐ。美味しい。これ自分で作ったの?それともお母さん?」

「あ、えっと…自分ですけど…」

「なかなか上手だね」

なんて褒められてようやく思考が追いつく。

「って、いきなり現れて誰ですか!?」

「ごめんごめん、僕は鷲沢皐月。キミの初戦の相手だよ」

そういって笑みを見せる。

しかしこう見るととても自分よりも年上とは思えないほど子供っぽかった。

無邪気に笑う仕草、そして低い身長。

それらがよりそう見せるのだろう。

でも男なのだ栞は大丈夫なのだろうかとチラ見すると怯えることなくこちらのやり取りを見ていた。

「栞、大丈夫?この人男だけど」

「はい、なぜかわからないですけど大丈夫です」

きっと男というよりも子供として見ているからだろう。

性別を意識してないと平気なんだな。

「それでえっと…鷲沢先輩はどうして鹿島先輩のお弁当をつまんでるんです?」

「おいしそうだったし何より僕もまだお昼食べてないからお腹すいちゃって」

そういいながらさらにお弁当をつまんでいく。

しかもから揚げや卵焼きといった子供の好きなお弁当のおかずランキング上位のものばかりを。

「それにしても身長高いね。羨ましい。女性でそれだけ高いとモテるんじゃない?」

「え、いや。そんなことは…」

完全に会話の流れを皐月に持っていかれてしまい返事に困る瑞姫。

どうしたものかと困っていると急にまじめになった皐月が問う。

「キミ、学園長に聞いたんだけど全力を出さないんだって?」

あまりのプレッシャーに息が詰まる。

「僕相手に本気を出さないだなんて面白いね。意地でも本気でやってもらうから」

そういうとまた先ほどと同じ無邪気な皐月に戻る。

「それじゃ、この後の戦い。楽しみにしてるね。あとお弁当ごちそうさま~」

「半分近く食べられた。しかもおかずばっかり」

「えっと…鹿島先輩、私のお弁当食べます?」

結局栞からお弁当のおかずを分けてもらいお昼を二人で過ごした。


「みなさん、お待たせしました。お昼一発目の交流戦は注目です!この学園で知らない人はまずいません!ネット上で注目を浴びその実力も未知数。鹿島瑞姫選手です。対する相手は学園ナンバー2。生徒会副会長、鷲沢皐月選手です」

お互い入場の瞬間歓声が上がる。

しかしお互いに一切それらを気にすることなくリング中央まで歩く。

「へぇ~、キミってデバイスを使わないんだ。今時珍しく魔術師なの?」

「えぇ、そういう副会長は科学魔術師なんですね」

「さて…どうだろうね」

お互い装備しているものを確認して相手の手を思考する。

(デバイスは両足に拳銃型のデバイスのホルスター。手には何もないけど足には間違いなく飛行用のデバイスがあるはずだ。飛行術式の属性は風。間違いなく飛行術式以外の術式もあるはずだ。注意しておこう)

距離を取り試合開始の合図を待つ間深呼吸をする。

―大丈夫、大丈夫。少しの間だけなら今の僕なら…

「それでは今日一番の注目の試合を始めましょう!開始!」

合図とともに皐月が飛行術式で飛び上がる。

さらにホルスターからデバイス二本とも抜き氷雪系魔術を二つ展開。

瞬間大量の氷の針が降り注ぐ。

もちろん瑞姫も慌てず防御用の結界魔術を展開し危なげなく防ぐ。

「へぇ~、デバイスなしでその魔術が使えるのか。魔術制御が得意なのかな」

属性を帯びている魔力ではこのように属性のない魔術を展開するのにそれなりの技術がいる。

そのためこのような防御系の魔術や魔力弾(マジックバレット)といった魔術はデバイスを使用して展開されることが多い。

「そんなことよりも次は私からいきますよ」

そういって瑞姫はアイスフラワーを展開。

氷の綿毛が触れた場所から凍っていく。

皐月は器用に一つ一つを回避し地面に降り立つと飛行術式を解除。

そして足に装備したデバイスで一つの魔術を展開。

瞬間、皐月を中心に竜巻が起こる。

竜巻の風に乗って中心にいる皐月には届かない。

しかしそれで攻撃の手を緩めることはしない。

先ほど皐月が使った魔術を展開。

竜巻の上部から氷の針が降り注ぐ。

「おーっと鷲沢選手の初撃を難なく防いだ鹿島選手。お返しと言わんばかりの猛攻だ。果たしてこれらを防ぎきれているのか!」

竜巻が消えると現れたのはかまくら状に張られた防御用の結界魔術だった。

「流石の威力だね、デバイスじゃとてもじゃないけどこの威力は出せないよ」

と笑顔で答える。

「そんな、副会長も流石ですよ」

あの一瞬、皐月はデバイスでの結界魔術では防ぎきれないと判断し両手に持った拳銃型デバイスで魔力弾(マジックバレット)を何度も発動し防ぎきれないものを砕いていたのだ。

「でもどうせ本気じゃないんでしょ?お昼にも言ったけど意地でも本気になってもらうからね」

そういうと再びデバイスを構え魔術を展開。

先ほどと同じ氷の針が飛んでくる。

しかし数は少なくこれなら簡単にかわすことが出来ると判断し横に飛ぼうとした瞬間、氷の針が加速して飛んできた。

瑞姫は慌てて飛行術式と氷結術式を展開。

足元に出来た氷塊を蹴りその加速を利用して避け無理な回避で崩したバランスを空中に逃げることで瞬時に整える。

無理な体勢での回避だったため皐月を視界に捉えきれず見失ってしまう。

辺りを見回してみると悠長に立っている皐月を捉える。

反撃に出ようとした瞬間、右手に痛みが走る。

「惜しい、あと数センチ横だったらもっとバッサリ切れてたのに」

皐月が残念そうに言う。

それに対して瑞姫は驚きを隠せない表情をしていた。

「ほら、そんなにぼさっとしてるといい的だよ」

今度は両方のデバイスを構え術式を展開。

さらに同時に飛行術式で空を飛ぶ。

「ほらほら、全方位からの攻撃は防げるかな~」

移動をしながら連続で術式を発動し逃げ道をなくしながら攻撃していく。

瑞姫は考えることを放棄し目の前のことに集中する。

すべての迎撃は不可能。

ならば自らの周りにあれを溶かすだけの炎があればいい。

そう判断し魔術を展開。

「こ、これは。炎の龍だ!龍が鹿島選手を守るように渦巻いていきます」

氷の針は龍に触れた瞬間蒸発し中にいる瑞姫にまでは届かない。そのはずだった。

龍が消すとそこには制服も破れそこら中に傷を負った瑞姫が現れた。

「どういうことでしょう、すべて防いでいたはずの鹿島選手が先ほどよりも明らかに負傷しています」

「副会長、もしかして…」

「流石に気づいた?そう。僕は科学魔術だけじゃなく魔術も併用してたんだよ」

あの瞬間、確かに氷の針は防いでいた。しかし皐月はあの中に石の針も混ぜていたのだ。

しかもばれにくいように氷で覆って。

「学園ナンバー2は伊達じゃないってことさ。これでもまだ本気出さないというのかな」

瑞姫は答えない。

というよりも答えれられない。

「答えないってことは全力でやらないってことだね。それじゃもう終わりにしよう」

そういうと皐月は地面に降り立ち足のデバイスで術式を展開。

殺傷力は低いが二人を飲み込むほどの大きな竜巻を作り出す。

「竜巻が二人を飲み込む!!これでは中の状況がわからない」


「これは僕が自分でカスタムしてる科学魔術、ブリーズストーム。殺傷力はないけど僕の魔術と合わせることでその効果を発揮する」

皐月がそういうと足元に転がってる石の破片を蹴とばす。

破片が竜巻に触れた瞬間まるでやすりにかけられたように小さくなっていく。

「触れた瞬間、大けがは必然だよ」

そういうと皐月は両手に持ったデバイスで再び氷の針を飛ばしてくる。

次は炎ではなく防御の結界で防ぎ息を整える。

「ほら、ゆっくり守ってる暇はないよ」

右手のデバイスで科学魔術を変更。

氷の針に交じってカラスの形をした炎が飛んでくる。

数は多くないが威力が高い。

それでも慌てず呼吸を整える瑞姫。

しびれを切らした皐月はどんどん竜巻を小さくし動ける範囲を狭めていく。

防御用結界と触れるか触れないかのところで瑞姫が動き出す。

氷の龍を作り出し皐月を覆う。

「-っ!!」

流石に突然の出来事に驚いたようだが皐月は慌てることなく氷の龍を破壊しようと両方のデバイスで先ほどのカラスを作りだす。

しかし火力が足りず一部しか溶かせない。

すると龍の向こうから瑞姫が言った。

「ごめんなさい、副会長。全力を出さなかったんじゃなく出せなかったんです。でも今ならお見せできます。これが私の全力です」

瞬間氷の龍が解け水となって皐月に降り注ぐ。

壁が無くなり攻撃に移ろうとデバイスの引き金を引いた。

いや、正確には引こうとした。

しかしデバイスの引き金と指が凍ってしまい引くことが出来なくなっていた。

ひとまず一度体勢を整えるために下がろうと地面を蹴った。

(竜巻の範囲を一度広げて距離をとれるようにしないと)

しかし二歩目を蹴ったところで背中に熱を感じ振り返る。

するとそこには炎で出来た壁があった。

飛行術式で飛ぼうにも足のデバイスは竜巻を維持するのに使用。

両手のデバイスは使うことが出来ない。

何とか魔術を使おうにも皐月の魔力制御力ではこんな瞬時に魔術を展開することが出来ない。

覚悟を決めて炎の中に突っ込む。そして瞬時に三歩目を蹴ろうと地面に足をつけた瞬間足ごと地面が凍結する。

そこからまるで浸食するように凍っていく。

「大丈夫です、死にはしないようにしてありますから」

それが最後に皐月は意識を失った。


「た、竜巻が消えたと瞬間現れたのは氷漬けの鷲沢選手と膝をついた鹿島選手だ。勝者は鹿島選手です」

勝者コールをされた瞬間皐月を覆っていた氷が砕ける。

瑞姫はそれを確認すると安心して意識を手放した。

次に目を覚ますとあまり見慣れない部屋にいた。

「ここって…」

「ここは学園長室だよ。瑞姫」

声の主はこの学園の長の黒江だった。

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど何で医務室じゃないんですか」

「お前のケガなんぞ知ったことじゃないからな。ケガで気を失ったわけじゃあるまい」

「知ったことじゃないって…」

「それに聞きたいことがあったからな」

急に真面目になった黒江。

どうせ聞いてくることはわかっていたので聞かれるよりも先に答える。

「まだ克服できてないですよ。こうやって気を失うし落ち着いてないといけないしその日の体調次第かな」

「そうか、それでも十分な成果だろ。わざわざ皐月に頼んだかいがあったというものだ」

「ホント、僕も氷漬けにされたかいがあるというものだね」

そう呟きながら頷く皐月。

「って副会長!?どうしてここに!!」

あまりのことに一瞬思考が止まったがすぐにツッコミを入れる。

「どうしてってさっきの話の流れから察してくれないと」

皐月は指を振りながら答えた。

そういわれ先ほどの黒江との会話を思い出す。

そして矛先は黒江に向く。

「どうしてこんなことしたんですか」

「瑞姫よりも実力が低いやつを使っても意味がないからな。そんな中皐月の奴が気になるっていうからな。ぶつけてやったというわけだ」

皐月はそういわれ笑顔でピースした。

「いつかは副会長と当たってた運命だったんですね」

ため息をついて答えると皐月がさらっと爆弾発言をした。

「そうだね、僕としては早めに戦えて楽しかったよ。涼風瑞樹(すずかぜみずき)くん」

思いっきりむせた。

「ど、どどどどうしてその名前が出てくるんですか!!」

「私がしゃべった」

「くろえーーーーーーーー!!!!!!!!」

この学園の長に向かって怒鳴る瑞姫。

そんなやり取りを見て笑い転げる皐月。

「ごめん、ごめん正確に言えば僕がなんとなく感じてた違和感を伝えたら答えてくれたって方が正しいかな」

それでも黒江を睨む瑞姫。

しかしあきらめたように皐月の方を見る。

皐月は察したのか瑞樹がしゃべる前に答える。

「大丈夫、このことは誰にもしゃべらないし秘密にしておいてあげるよ」

それを言われて安心する。

「けど、僕のお願いを一つだけ聞いてくれないか?」


翌日、皐月のお願いとやらを聞くために瑞姫は生徒会室の前に来ていた。

ひとまず一息ついてからノックをする。

「はいは~いっと。待ってたよ。とりあえず入って」

皐月に言われひとまず生徒会室に足を踏み入れる。

「そんな緊張しなくていいよ、今ここには僕たちしかいないから」

そういってコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを出してくれる。

「砂糖とミルクはそっちにあるからお好みで」

そういうと皐月はブラックのまま飲んでいく。

見た目はお子様だが大人の味がわかるようだ。

瑞姫はミルクと砂糖をたっぷりと入れ一口飲んでみる。

少し甘さが足らない気がしたがこれ以上入れるのは気が引けたので飲むことにした。

「えっと私の顔に何かついてます?」

じっと見つめてくる皐月にそう聞くとちょっと申し訳なさそうに答えた。

「ごめん、コーヒー苦手ならジュースとかにすればよかったかな」

「いえ、飲めないことはないですよ。ただ甘いのが好きなだけで」

「もはやコーヒーと呼んでいいのかってくらい入れてたけど…」

どうやら世間一般ではあの量の砂糖とミルクは入れすぎのようだった。

とりあえずコーヒーを飲んでいると皐月がいよいよ本題を切り出してくる。

「昨日のこと、覚えてるよね」

「私のことを黙ってる代わりにってやつですね」

そういうと皐月は頷く。

「無理なお願いだと分かってるんだけど、ぜひとも君に生徒会に入ってほしいんだ」

「生徒会に…ですか…」

この学園の生徒会は国から要請に協力することがある。

そのため実力者しか生徒会に入ることが出来ない。

それだけ危険を伴うためである。

もちろんそれに見合った保証はある。

必要な単位の補助からデバイスの取り寄せなどをすべて行ってくれる。

「キミの状況は黒江学園長から聞いてる。それでも僕は君を生徒会に入ってほしいと思ってる」

真剣なまなざしの皐月。

なんの迷いもなく見つめてくる。

「わ、私は…」

「なんだ、お客か?これは失礼した」

そういっていきなり入ってきた来訪者は再びドアを閉め廊下に出て行っ―

「皐月、こんなところでいちゃつくなよ?」

余計な一言を付け加えて出て行った。

ってそうじゃない!誰!!今の!!

「はぁ~、ちょっと待っててね。とっちめてくるから」

そういうと皐月は廊下に出る。

そして響くスパーーンという気持ちのいい音。

「お待たせ、ごめんね。改めて今度また―」

「お、なんだ?デートのお約束―」

スパーーーーン!!!!!!!

再び響く気持ちのいい音。

「ちょっとそこに正座ね」

ものすごい笑顔で皐月がそういった。

だたその裏にはものすごい顔した般若がいる気がする。

「えっと、私はどうしたら…」

「話がややこしくなる前に説明しておこうと思うからそのままで」

そして地べたに正座させられている男子生徒を指さして言った。

「現生徒会会長、初月海斗(ういづきかいと)。その実力は折り紙付きなんだけどちょっと性格に難ありというか…」

「何を言う!!人のコイバナに興味を持つのは人として当たり前だろ!」

すぱーーーーん!!!!

これじゃ、どっちが生徒会会長かわかったものじゃない…。

「それでこっちが―」

「鹿島瑞姫だろ?流石に覚えているよ」

そういった海斗の目は先ほどまでとは違う、こちらの手の内を暴くんじゃないかというくらいの鋭いものに変わっていた。

「現副会長である鷲沢があそこまでやられたんだ。覚えているに決まってる」

「み、見てたの?」

「あぁ、しかし途中でお前が余計な目くらましをしてくれたおかげでどのように負けたのかまではわからんがな」

そういって立ち上がると自分の分のコーヒーを入れに行く。

「どうせ生徒会への勧誘をするためにここに呼んだんだろう。実力も申し分なさそうだしな」

「えっと…その話なんですけど」

このままでは本格的に断るタイミングを失いそうだったので早めに行っておこうと思い口をはさんだ。

「私にはまだ荷が重いというかーなんというかーその~」

「気にしなくていい。早くても半年後の話だ」

突然の通告に言葉を失う瑞姫。

半年?つまり今すぐじゃない?

「さて、今日のところはもういいだろ。悪かった。もう帰ってくれてもいいぞ」

「え、あ、はい。それじゃ失礼します」

海斗に言われ生徒会室を後にする瑞姫。

その背中を見ながら海斗が呟く。

「いずれお前とも勝負してみたいが、今はあの一年の方が楽しみだ」

「あれが生徒会長か…」

今までに感じたことのないようなタイプの魔術師だった。

(あの何手先も見通してしまいそうな視線。あれはどちらかと言えば武術を修めた側の魔術師だ)

今の万全な状態での瑞姫でも勝てるか怪しいくらいの実力はあるだろう。

いずれ戦うと考えただけで頭が痛くなる。

ひとまずそのことを考えるのをやめて今日の交流戦に向けて栞のもとに向かうことにした。

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