第2話 秘密

約束の土曜日、瑞樹は楓から服を借り瑞姫として学園の訓練棟に来ていた。

訓練棟の使用許可を得るために黒江に話をつけに言ったときは意外な顔をされた。

それにしても栞は約束の時間になってもまだ来ない。

もう30分は遅れている。

少し心配になるが連絡先を交換していないので連絡しようがない。

仕方なく自分の持ってきたデバイスを取り出す。

もちろんこのデバイスは涼風瑞樹としてのデバイスなので鹿島瑞姫としている間は絶対に使うことはない。

だが今回は例外だ。栞に魔術を教えるならやはり基礎の科学魔術との違いから教えるべきだろうと思ったからだ。

一週間ぶりに触るので調整をしようとした瞬間、訓練棟の扉が開きそこから息を切らした栞が入ってきた。

「はぁ…はぁ…、遅れました」

「おはよう、栞。とりあえずその寝癖直してきたら?」

「へ…?ひ、ひゃーーーー!」

髪を触って跳ねていることを確認した瞬間、顔を真っ赤にして走っていった。

「それじゃ、始めようか」

寝癖を直して戻ってきたところで今日の特訓を始める。

「まずは基礎中の基礎の科学魔術と魔術の違いをおさらいしよう」

手に自分の持ってきたデバイスを取り出す。

瑞樹のデバイスは拳銃型のデバイスと腕輪型のデバイスの二つである。

この二つの違いは記録メモリーを交換することが出来るかどうかということである。

拳銃型はマガジンの部分が記録メモリーになっておりそこを交換することで使える魔術を瞬時に替えることが出来るのである。

一方、腕輪型は専用の調整機を使用しないと替えることが出来ないのである。

「科学魔術はどうして出来たのか知ってる?」

「えっと…、簡単にそして誰にでも使えるようにってことですよね」

「その通り、でもどうしてかわかる?」

そう聞くと栞は少し思案顔をする。

悩んだ挙句栞は首を横に振った。

「魔力には属性がある。その属性と合致すれば簡単に発動できるけどそうじゃないときは普段の倍の魔力制御がいる。それを克服するために作られたのが科学魔術というものなんだ」

つまり科学魔術ではない純粋な魔術を使う場合は自らの魔力属性を知らなければならないのである。

そのことを知ってもらうため瑞姫はこんな初歩的なことを栞に教えたのである。

「ここまでわかったならやることはわかるよね?」

「はい!自分の魔力属性を調べるんですね」

「その通り、一番確実なのはそういった機器で調べるのがいいんだけどそれはないからかなり原始的な方法だけど魔術を使って手ごたえを感じてもらう」

深呼吸をして心を落ち着かせる。

―大丈夫、今見ているのはひとりだけ、落ち着いて…落ち着いて…

ゆっくりと魔術を展開させ氷の柱と炎の球を時間差で作り上げる。

「私は魔力自体に水の属性があるからこんな感じで簡単に水系統の魔術が展開できるというわけ」

本当ならどちらも同じ速度で展開できるのだがそれでは意味がないのでわざと遅らせた。

「今使ったのは本当に基礎中の基礎の魔術だから初めてでも展開できるはずだよ」

栞に展開するために必要な魔術知識を教え少し離れたところで見守る。

魔術に宿っている属性は地水火風の4属性と言われていたが最近の研究で属性は5つではないかともいわれ始めている。

しかし5つ目の属性を持つ魔術師が未だに確認されていない。

(一体どんな魔力属性をもってるんだろう)

なんてぼーっとしていると突然周りの温度が上がりだす。

「か、鹿島先輩。たすけて…」

顔を上げると魔術制御を誤ったのかものすごい大きさに膨れ上がった火球があった。

しかもまだまだ大きくなっていく。

いくら訓練棟が魔術に強い建物とはいえこれだけ大きな火球ではひとたまりもない

瑞姫は大声で叫ぶ。

「落ち着いて!これ以上大きくならないように魔力を落ち着かせて!」

「それがいくらやっても無理なんです」

「なっ!?」

そんなことはないはず。魔力を供給しない限り魔術はすぐに霧散してしまうはずなのだが…

だが確かに栞の魔力はあの魔術に流れていない。

このまま大きくなったら間違いなくここにいる瑞姫と栞は被害を受ける。

瑞姫は瞬時にそう判断し栞に向かって叫ぶ。

「ごめん、今からちょっと力技で助けるからちょっと痛いかもしれないけど我慢してね!」

瑞姫もあの火球に負けないくらいの氷の壁を作り出そうとした。

しかしあと一歩というところでその魔術が展開されない。

(来るな、バケモノ。バケモノ、バケモノバケモノ)

幻聴が聞こえ呼吸が荒くなり目の前が真っ暗になっていく。

違う、僕は…バケモノなんかじゃ…。

「鹿島先輩!私なら…大丈夫…ですから。思いっきりやっちゃってください!」

栞の声で引き戻される。

まだ呼吸は荒く幻聴も聞こえる。

それでも、やらなきゃいけないんだ!!

瞬間、氷の竜が出現し火球を飲み込み栞の魔術を打ち消した。


その後は何度か挑戦するものの一度も魔術が展開されることはなかった。

同じように残りの属性も試したもののどれも展開されなかった。

「やっぱり私には魔術の才能なんかないのかな」

「そ、そんなこと…ないと思うけど…」

事実、魔力制御だけで見れば瑞樹をもしのぐほどの実力者なのだ。

それだけの魔力制御ができればコツさえ掴めればたやすく展開することが出来るだろう。

問題は彼女の魔力属性だった。こんな原始的な方法ではやはり無理がある。

やはり専用の測定器を使わなければ…

その時、入り口のドアが勢いよく開きそこから多くの生徒たちが入ってきた

「うぉ!?マジだ!!マジでいた!!」

「学園のトップ10(見た目ランキング)の二人がこんな間近に!!」

「きゃー、二人ともこっち向いてー!!」

一体どこからそんな情報が漏れていたのか、土曜日にも関わらず多くの生徒が端末を片手に迫ってきた。

「なに?一体どうなってるの?」

あまりにも突然の出来事に瑞姫も栞も戸惑っていると奥の方に学園の長、黒江の姿が見えた。

とりあえず黒江に向かって睨みつけると申し訳なさそうな顔をこちらに向け一つの魔術を展開した。

『すまなかった。どうもうちの学園の新聞部がいたらしく先の火球について聞かれてしまってな。うっかり喋ってしまった。頑張って逃げてくれ』

黒江の特殊魔術、テレパスによって脳内に直接語りかけられた二人。

瞬間、二人の考えは一致する。

おい、黒江(柊学園長)あとで覚えてろよ、と。

ひとまず二人はそれぞれ飛行魔術を展開。あっという間に浮かび上がりギャラリーにある窓の一つを栞が右手に持ったデバイスで魔力弾マジックバレットを展開させ割る。

悪いのは黒江なのだからこの程度のことは許されるだろう。

ひとまず外に出た二人は全速力で逃げ回ることにした。

「どこまで逃げましょう?この学園にいる間はみんな追ってきますよ」

「それなら学園外に逃げればいい!ひとまず校門まで飛んで校門を出たらすぐにまた飛ぼう!」

校則で飛行したまま校外に出ることは禁止されている。

そのため必ず校門を通らなければいけないのだが流石にそこに人が全くいないなんてことはなく10人ほどすでに待機していた。

そして先陣切って立っていたのは…

「待ってたぜ、瑞姫さんよ」

「綾人…くん」

瑞樹の親友の獅子原綾人だった。

「ふふふ、悪いね。ここは通すわけには行かないんだよ。『瑞姫、栞だいすきっ子クラブ会長』としてな!!」

—はい?

瑞姫は耳を疑った。

えっと、だいすきっ子クラブって…おニャン子クラブみたいな名前で言われても。

それと同時に寒気がする。

まさか自分のファンクラブが作られるなんて、しかも目の前にいる男子生徒が全員そうなのだとしたら…

そう考えるだけで気分が悪くなる。

「とりあえず写メ撮ろうぜ、今の内だぜこの二人のツーショット」

「馬鹿野郎、自分も映らないとダメじゃないか!!」

「サインとかって言ったらくれるだろうか」

栞はもう涙目。

男がただでさえ苦手なのだ。そんな彼女がこんな変た…変態に囲まれたら恐怖以外の何物でもない。

さらに後ろからは先ほどの生徒たちも迫ってくる。

流石に同じ学園の生徒に殺傷系の魔術を使うわけには行かない。

瑞姫は即座にそう判断し栞に近づき囁く。

「今から一瞬だけ彼らを無力化してそのうちに走り抜ける。栞は私の合図に合わせて走って」

栞が頷くのを確認しタイミングを計る。

(今だ!)

栞にそう伝えると同時に魔術を展開。

デパートで使ったのと同じ眩い光によって周りの者の視界を奪う。

今回は自分たちも巻き込んでしまうのである程度加減はしているがそれでも目を閉じなければ十分の威力だ。

あらかじめ見つけておいた隙間に向かって目を閉じたまま全力で走り抜けそのまま校門を通り過ぎる。

二人はその勢いのまま飛行魔術で一気に飛び去って行った。


「栞、大丈夫?」

瑞姫しか知らない山の山頂に飛んできた二人はそこで休息をとっていたのだが栞の顔色が優れない。

それもそうだろう、あれだけの人数の男が襲ってきたのだ。

男性恐怖症な栞にとっては地獄だっただろう。

「は…はぃ。大丈夫れす」

呂律も回らないほど疲弊している栞の背中をさすりながら思う。

瑞姫じぶんも男なんだけど…今はまだ黙っていよう―と。

「そ、そりぇにしても…鹿島せぇんぱいは…すごいです」

「へ?どうして…」

「あれだけの大人数の人が一度に来ても慌てることなく落ち着いて…魔術を使って突破していたから」

そこまで言われてから気が付く。

確かにあの時大勢の人の目があった。

普段なら間違いなくトラウマで魔術なんてうまく展開できないだろう。

だが実際はそんなことはなく無事逃げ切ることが出来ていた。

しかし今それを思い出すとやはり辛い思い出も蘇ってくる。

なんとかそれを表に出さないようにして返事をする

「ちょっと昔にいろいろあったからその経験が生きただけだよ」

「羨ましいです、鹿島先輩…」

「どうしてそう思うの?」

「それだけの強さを持っていることが羨ましいんです。私にもそれだけの強さがあったら…」

そう呟いて彼女はどこか遠くを見た。

それからしばらくただ風の流れる音を聞いていると再び栞が口を開く。

「鹿島先輩には…話してもいいかな。私の秘密…」

「栞がしゃべりたいと思うのなら黙って聞いててあげる」

「ありがとう、先輩」

そういうと彼女は語りだした。自らの過去を。どうして男性が恐怖の対象になったのかを…


小さいころ、魔術師を目指そうとは思っていなかった。

普通に暮らして幸せを感じていればいいと思っていた。

そんなあるときテレビでやっていた科学魔術特集で格好良く舞いながら戦ってる科学魔術師を見て憧れた。

両親に無理を言って科学魔術師を育成する小学校に通わせてもらったりとそれくらい熱心になっていた。

気が付いたら学校でも有名な科学魔術師になっていた。

そして6年生になったある日、中学生のランク戦に出てみないかと声をかけられた。

小学生のランク戦ではもう敵なしの強さを誇っていた栞にとってちょうどいい機会だった。

「あたしの強さがどこまで通用するのか…試してみたい」

栞はそう言って参加を決めた。

それからしばらくして中学生のランク戦の初日を迎えた。

やはり中学生ということで強い人も多く初戦以外は勝利することが出来なかったが緊張感のある戦いだった。

次の日も同じようにランク戦をしているとどこからか視線を感じた。

(なんだろう、昨日は見られてなかったのに)

視線を受けながらも普段通り戦う。

お昼過ぎて午後からのランク戦を始めようと準備をしていると突然声を掛けられた。

「よぉ、お前が噂の小学生か?」

「そうですけど…あなたは?」

「おっと、そんな警戒しなくてもいいじゃないか。次の相手が気になって来ただけだから」

そういうと彼は手のひらを見せて無害をアピールしてくる。

「それにしても小学生でここまで強いとかびっくりだわ、ほんと最近の子は強いね」

「あたしはただ好きなことに集中してるだけです。強くなんてないです」

「ん~、いい言葉だ。それが君の強さの秘密なわけだ」

彼はそういうとゲートに向かって歩いて聞こえるかどうかわからないくらいの声で呟く

「でもな、上には上がいるって…教えてやるよ」

あたしも彼のあとに続いてゲートに向かっていった。


「それでは、紗倉栞さくらしおり白崎燐しらさきりんの対戦を始めます。危なくなったらこちらから止めますので思いっきりやってください。それでは…開始!!」

瞬間、白崎が動き出す。

飛行魔術の応用で一歩蹴りだし二人の距離を縮める。

それに対して慌てることなく飛行魔術で空中に逃げる栞。

「なんだ、今の対応できるのかよ」

「ここで嫌というほど同じ戦術を使う人がいたもの」

「そうかよ、それじゃ…これならどうだ」

今度も同じように一歩で空中に迫ってくる。

それを難なくよけ距離を取って反撃をしようとした瞬間、空中で方向転換をしてきた白崎が迫ってきた。

「えっ!?」

驚きながらも回避行動をとり触れられるぎりぎりで回避する。

(どうして…あの人は飛行魔術を使っていなかったはず)

目で追いながら確認すると白崎は空中で何か足場のようなものを蹴って移動していた。

「おら、ぼさーっとしてる暇なんかねーぞ!!」

三度迫る白崎。

これだけ単調な攻めをしていたら簡単に対応できる。

落ち着いて右に回避しようとしたが見えない壁のようなものに阻まれて動けない。

慌てて左に回避しようとしても同じように動けなかった。

もう目の前まで来ているので仕方なく右腕に付けた腕輪型のデバイスで防御魔術を展開し衝撃に備える。

しかし襲ってきた衝撃は目の前からではなく後ろからだった。

「な…んで…」

「おいおい、これは魔術師同士の戦いだぜ?馬鹿正直に真正面から攻撃するかよ」

そういうと白崎は一つの魔術を展開する。

重力系魔術、グラビティゼロ。

範囲内の重力を操ることのできる魔術。

それによって栞のいる範囲の重力が増し地面に叩きつけられる。

「っぁ…」

あまりの激痛に呼吸が止まる。

「おいおい、まさかもう終わりなのかよ…つまらねぇ」

栞の近くに降り立ち見下ろす。

審判も勝負がついたと見たのか合図を出す。

しかし白崎は魔術を解こうとしない。

それを注意するために審判が近づく。

「こら、勝負はついてるんだ、早く解放して―」

しかしその注意も最後まで言えず吹き飛ばされる。

栞はその瞬間を見ていた。

(今の、吹き飛ばされたというより引き寄せられた?)

「さて、まずは年上の怖さというのをゆっくり教えてやるよ」

そういうと手足により強い重力がかかる。

このままではやばいと栞は右手と左手のデバイスで防御魔術を展開する。

「はっ!今更そんなことしても無駄なんだよ!!」

そういうと白崎はより一層魔術を強める。

そのまま力任せに栞の手足の骨を砕く。

「―――――っ!!」

あまりの痛みに悲鳴を上げることもできず顔が歪む。

「はーはっは!!それだ!その顔が見たかったんだよ!!」

白崎が叫ぶ。

何とか抵抗しようとしてもそのたびに腹部に魔術を浴びせられる。

結局、そのほかの審判の人が止めに来るまでこの暴行が続いた。


「それ以降、私は魔術を護身のために習うようになったんです。楽しもうなんてもう…思えなくて」

そういって栞は嗚咽を漏らしながらうずくまってしまった。

その姿を見て瑞姫は栞を優しく包むように抱いた。

驚いたように震える栞だったがすぐに瑞姫だと分かると大声で泣き出した。

「もう大丈夫、今は私もいるから安心して。何かあったらすぐに助けてあげるから」

瑞姫はそう呟いて力強く栞を抱きしめた。


学園長室で一つの書類に目を落としながらため息をつく。

その書類書かれていた内容は他校からの手合わせ願いだった。

ここ数日、こういったことが増えていた。

「仕方のないことか、もうすぐランク試験もある。それに向けた調整のためだろうけど…」

それにしては多すぎる。

これも瑞樹のせいだろう。

あとは紗倉のこともあるだろう。

「どうしたものか…」

瑞樹はまだ人前で安定して魔術を展開することが出来る状態ではない。

さらに紗倉は異性が苦手と来た。

今注目の二人がこんな状態じゃどことやっても…

頭を抱えているとノック音が響く。

「失礼します、学園長。書類をお持ちしました」

「またか、もう勘弁してくれ…」

書類を受け取り目を通しため息をつく。

「どうしたものか…」

受けるにしてもあの二人の了承を得てからではないと話は進められない。

だからと言って放置しておくわけにもいかない。

すると先ほど書類を持っていた先生が案を出す。

「ひとまずこの話は置いておいてあの二人のリハビリのために何か手を打ったらどうでしょう?」

「それだ!!何でそっちに考えが行かなかったんだ!」

「疲れてるんです、休んでください」

なにか言われた気がするが気にせず掲示板に張る掲示物を作る。

内容は―学園交流ランク戦。

「さて、楽しくなりそうだね」

黒江はそう呟いて強くキーボードを叩いた。


月曜日、いつものように学園に登校し綾-変態を避けて教室に行く途中瑞姫の端末が鳴る。

相手は…栞だった。あのあと栞と連絡先を交換しておいたのだが今日が初めての連絡だった。

内容は『掲示板前に来てください』というシンプルなものだった。

なるべく人の少ないところを選んで(まただいすきっ子クラブとやらに囲われるのは嫌なので)掲示板前を目指す。

掲示板前には多くの生徒がいた。

その中に土曜日に土曜日のことを知る人がいないことを願いながら栞を探す。

すると人ごみの中とは別のところから聞きなれた声が聞こえてきた。

「鹿島先輩、こっちです」

少し離れたところで手招きをしている栞を見つけてそちらに向かう。

「ごめんなさい、いきなり呼び出しちゃって。早いうちに伝えた方がいいかなって思って」

そういって栞は端末を操作し一つの写真を出す。

男が苦手な栞はあの掲示板前にいるのが苦痛だったのだろう。

さっさと掲示物だけ撮ってここに避難してきたようだ。

栞に見せられた写真を見てため息をつく瑞姫。

「…栞、ちょっと一緒に抗議に行こう。土曜日の件も含めて」

そういって栞の手を引きながら黒江のいるであろう学園長室へ向かうことにした。

「それで、いきなりここにやってきたというわけか」

そういって黒江は申し訳なさそうに言った。

「土曜日の件は悪かった。まさかあんなに生徒がいたとは。それとあのガラスも流石に今回は何も言わん。こっちに非があるからな」

「当たり前です。それよりもこれはどういうことですか?」

瑞姫は栞の端末を見せて問う。

「見ての通りだ、学園交流ランク戦案内だ」

「なんでこんなことするんですか!?別にやらなくてもいいじゃないですか!!」

人前でなるべく魔術を使いたくない瑞姫と男が苦手な栞。

二人にとってはもはや地獄の交流戦でしかない。

中止とはいかなくても二人は参加しなくてもいいようにしてくれと懇願する。

「何を言ってる、これはお前たち二人のためでもあるんだぞ」

「あたしと鹿島先輩の…ため?」

そういって黒江は手元にある書類を二人に見せ付け言った。

「これ、全部お前たち二人目当てでやってきた他校からの手合わせ願いだ」

その数、10枚以上。

二人はあまりのことに言葉を失う。

「紗倉は小学生の頃から有名でさらにランクA。瑞姫に至ってはこの前の事件解決の一部始終を知ってるやつもいる。そのおかげで今年はこれだけの願いが来てるんだよ」

「でも…」

「知ってるよ、紗倉は異性が苦手なことくらいな。そして瑞姫お前のこともな」

黒江はあえて瑞姫のことは深く言わずに話を続ける。

「そんな状態でこの話を受けてもお前たちにも迷惑がかかるし相手にも迷惑がかかる。そこでこの学園内でそれらを少しでも克服してからにしようと考えたんだ」

そういって黒江は最大級の爆弾を落とす。

「そんなわけだ。お前たちにはこの学内戦の第一試合をしてもらうぞ。もちろん多くの人が見てるし相手はお前たちに合わせた奴だ。楽しみにしておけ」

「「……えぇーーーー!!!!!」」

学園交流ランク戦まであと2週間。

瑞姫と栞は震えながらも毎日特訓をすることを決意した。


「また、学園長も変なことを考える…」

「いいんじゃない?久々の学園でいきなりこういうイベントがあっても」

「お前は気楽だな、副会長」

「そういう会長だってちょっと楽しみにしてるでしょ?」

「ははっ、違いない。何やら今年は一年に一人強いやつが入ったらしいからな。将来が楽しみだ」

「そっか、僕としては転校してきた子の方が気になるかな~」

「俺たちが卒業してもいいように今から鍛えておかないとな」

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