第2話 選んだ力



 パソコン弄っていると、スキルと書かれたファイルがあった。

 

「………このスキルって奴を選べばいいのか?」

 俺の問に空間の声が答える。……いや声じゃないんだっけ? どっちでもいいか。別に大した問題じゃないし。


『そうさ。君が気に入ったものを選べばいい』

「――――ゲームみてぇ。つかゲームだろ」

 ファイルを開きパソコンの画面に表示されたものを見て、俺はゲームにしか思えなかった。


 そもそもモンスターだ戦争だって言われてもピンッとこない。そんな猛獣みたいなのがいる世界で、人はどうやって生存圏を築いているのだ? そのうえ戦争が多いって、よく全滅しないものだ。


 モンスター―――そんなものは、ゲームやアニメの世界でしか知らない。知らないと言うかまるで実感がない。

 だって、急に現実で一度も見たことのない化物がいるって言われても、そうそう信じられるものじゃない。



 画面に表示されたスキルをサラッと流し見しながら下にスクロールしていく。

 気になったものはいくつかあるが、なんとも言えない。そもそも何がある世界かわからないのに何を基準に選べと言うんだ。


 そもそもどんな世界に連れて行かれるのかも分からないのに何を選べと? ここで選ぶスキルでこれからの一生が決まるという大事な決断だ、下手に選ぶわけにもいかない。


 強いて言えば、生き残る為に力が必要なのかもしれないが…………だが力だけで生き残れる場所は限られているだろう。それこそ戦場や化物どもと戦い続ける道しかない。限定されすぎた力は確かに強い、しかしそれは限定的な条件下でのみ強いのであり、少しでもその条件下からはみ出してしまえば何の役にも立たなくなってしまう。


 つまりは汎用的なスキルがあればいいのだが……なかなか見つからない。


 おぉ、魔道具製作ってのは気になるなぁ。

 ボムとか作って敵にばら撒くっていいよな。あれは楽しい。しかし、ゲームのようにコマンド一つで作成し使う事が出来るってわけじゃないだろう。

 他にも道具や素材が必要なはず。そうなってくると選ぶ意味は少ない。と言うか金をもっているなら価値が出てくるだろうが、金がないならメリットは少なそうだ。



 ――つか、魔法ってなんだ? これから行く世界には魔法があるって事なのか?


 リストにはいくつかの魔法が載っている。火魔法、水魔法といった感じに。


 選んでみたくはあるが、使い方が分からない。

 最悪宝の持ち腐れになってしまう可能性すらある。いやなるだろう、いきなり新しい器官が増えたとして、それを使いこなすなんて器用な真似、俺には出来そうもない。


 迂闊に選ぶのは危険だろう――――あ、雷魔法が消えた。何度見返しても、先ほどまであったはずの場所から雷魔法が消えていた。誰かが選んだのだろうか? 勇気があるのかアホなのか……異世界で雷魔法を使う奴とあったら勇者って呼んでやろう。


「……誰か試練を終えたんだな」

『みたいだねぇ。君に続いて2番目だ。凄いね、早くも2人目が試練を突破したんだ』

 何を驚いているのだろうか? 試練だっても、毎回数100人は突破しいてるんだろうに。いや、時間の感覚がないから、早いのか遅いのか分からないけど。


 にしても雷魔法ねぇ、また主人公っぽいの選んだなぁ。面白そうではあるけど、たぶん困った事になってるだろうな。

 使い方なんて誰にも教えてもらえないだろうし。使いこなせればかなり強そうだけど。



「なぁ、単純で分かり易い奴ってないか?」

『単純? それはどんなのだい?』

「ああ…………肉体強化、みたいなの? なんつーか、こう力が増えたり馬鹿みたいに傷の治りが早くなる感じのはないか?」 

 単純なものほど扱い易く、汎用性がある。

 力が強ければ出来る事は多いし、傷の治りが早ければそれだけ無茶が出来る。


 実際力が強ければ仕事に困る事はないだろうし。傷の治りが速い――瞬時に治るレベルならかなりの無茶が出来る。腕の一本でも切り落として見せれば大道芸として食っていくには困らない。

 まぁそれは最後の手にしたいところだが。痛いのは嫌だし。



『たぶん、真ん中辺りにあると思うよ』

「あんのか……さんきゅ」

 ページを下の方へとスクロールしていく。――にしても量が多いなっ。いちいち見ていくのは無理! 数が多すぎて見切れねぇ。

 途中にあるものを無視して下へ下へとスクロールしていく。


「お、あったあった」

 真ん中辺りにホントにあった。スキルの内容を見ていく。



力増加――見た目的には変わらないが、力を大きく底上げする。

速度増加――行動すべてが速くなる。

知力増加――賢くなれる。魔法の研究に影響する。



 THE・シンプル!


 うん、やっぱり単純な方が使い易そうだ。むしろここまで分かり易いと間違いようもない。…………いや賢くなれるって、いるのかそれ? 魔法の研究に影響するってあるし、これはあれか? 異世界いって魔法の学者にでもなれってのか? 魔法関連とセットで取れれば、実際かなり有用そうだ。……一つしか取れない時点で意味がない。


 まぁ力増加か速度増加が今のところ1番かなぁ。つかそれくらいしか俺に使えそうなのがない。

 ある程度は決めたし、後は適当に見ていくか。面白いのがあればそれにするかもしれない。



 数多くのスキルが並んでいるのを流し見していく。

 見ているだけで面白そうな奴がたくさんあるのだが、選んでいる時間はそんなにないし……なによりも使いこなせる自信がない。


 だって魔法とかどうしろと? 魔道具なんて作れないぜ? 召喚獣を呼び出すとか意味分かんない。





 ――――不死の猛獣。




 この文字を見た瞬間―――バクンッと心臓が跳ねる。


 なにこれ、凄く心惹かれるんだけど。なに、どんな効果なの? 凄い気になる。効果次第では即座に選ぶ。むしろ効果を確認して早くこれに決めたい。



不死の猛獣――怪我が瞬時に治る、致命傷さえも即座に治る。力が増加する。ただし力増加程の効果はない。



 おおっ。複合型!! なにそれ、最高じゃんか。これにするしかないだろ。

 不死ってくらいだし、かなりの無茶が出来るだろ。致命傷でさえ治るなんて、無敵じゃねぇか。

 おまけに力も増えるって、良い事尽くめじゃね? 力増加程じゃないっても、上がるには上がるんだろ? 


 これにしよう。

 うん、決めた。だって強そうだし。何よりも不死って言葉に惹かれました。

 一度死んだだけに、もう二度目は嫌だよね。痛いのは嫌いだし、その内痛みに慣れるのかね?



「――どうやって決定すればいいんだ?」

『君はどうやってそれを使っていたの』

「え、ダブルクリックで……」

『じゃあそれでいいはずだよ。形だけは君の大切なものだけど、君が望んだやり方で使えるはずなんだ』


 ――――ようはダブルクリックでいいんだろ?


 不死の猛獣にあわせ、ダブルクリックをする。

 画面が切り替わった。どうやらこれで大丈夫らしい。





 スキルを選んだみたいですね! 

 しばらくお待ちください。スキルが定着するまでお待ちください。


 


「おい、この後どうすればいいんだ?」

『待ってればいいよ。その内準備が終わるから』

「準備って、なんだ?」

『君の体を創り変えているんだ』

「――は? いや待て、創り変えるってなんだっ」

『そんなに心配する事はないよ。たぶん子供になるくらいの変化しかないはずだしね』

「待て、いいから待てっ。少しくらいは説明を――――」




 準備が終わりました。

 これより肉体の変換を実行します。

 暫らく動かないでください。


 変換――終了しました。

 無事肉体の変換が行われました。


 これより異世界――――アグードに転送致します。


 なお、出現位置は完全なランダムとなりますので、お気をつけください。


 転送開始。5-4-3-2-1……0――――転送実行。




 カウントが0になり体が光に包まれ、瞬時に掻き消える。




 ――――転送完了。






『あらら、いっちゃった。なかなか面白い子だったなぁ』

 誰もいない白い空間に声が漏れる。

 

『次は誰が来るんだろうね。面白い子だと言いのだけど』

 何もないはずの空間が緩やかに崩れていく。

 まず最初に、白い部屋からノートパソコンが消えてなくなり。そして部屋そのものが消えてなくなった。









「――――してくれ! ……て、どこだここっ?」

 薄汚れた狭い部屋に俺の叫びが響く。

 慌てて周囲を確認すると、狭く小さな部屋にぽつんと1人、俺だけがいた。他に誰かいる気配はない。1人以外が生活している跡がない。

 よくよく見れば、ここは部屋じゃない。朽ちた石材、所々空いている穴を破れた布と形の悪い木材で埋めている。


 崩れた家の跡――――廃墟だ。


 どうやら俺は廃墟に転送させられたらしい。……それにしても、ここにある物が全体的に小さい。まるで子供用だ。…………ん? 子供用?

 その言葉を思いついた瞬間――空間の声が言っていた、先ほどの言葉を思い出した。

 


「ちょ、ちょっと待ってくれ……マジか、マジで子供になったってのか?」

 全身をぺたぺたと触り確認する。大人のものには見えない小さな手足、妙に低い視点、先ほど聞いた子供になるという言葉――――嘘だろ? ホントに子供になっちまったって言うのか? 


 そんな馬鹿な……いや問題はそれだけじゃねぇけど。

 子供っても何歳くらいになったんだ? 年次第では、出来る事に大幅な制限が掛かっちまう。


 

 この廃墟に子供が住んでるとすれば、それは俺なのか? 確かに子供となった俺のサイズとあっている物ばかりだ。……俺は転生したのか?


 ―――いや待て。そもそも俺は転送されたのではなかったのか? 転生ではないはずだ。あいつらは異世界に転送すると言っていた。信じきれるわけじゃないが、態々嘘を言う意味もない。


 だとしたらここは俺の部屋じゃないのか? ではここに子供が住んでいるとでも言うのか? こんな廃墟に? うわぁ、最悪な事が思い浮かんでしまった。


 そのうえ、もう一つ嫌な予想が脳裏にチラついているのだが…………言葉にしたくない。したくはないが、事実は事実として認めなければ先に進めない。



「………廃墟に1人で生きてる子供って――孤児、なのか?」

 いや、ここがどこだかわからないが、少なくとも二桁にもなってないであろう子供が1人で生きているのは明らかに異常だろう。

 たぶん、ここらはスラム――あるいはそれに近い場所だ。でなければ子供が1人でこんな場所に隠れるようにして生きてはいないだろう。



 なんで二桁にもなってないって分かるか? 散らばっている荷物の大きさから推測したにすぎない。

 実際には違うのかもしれないが、まぁあっていると思う。


 

 状況を確認する為にも表に出て確認すべきだとは思うのだが…・・・子供が1人で出ても平気なのか? 

 この辺りの治安はどうなっている? いや考える間でもなく悪いのは分かる。問題なのはどんな奴が仕切っているかって事だ。


 ――――不安となる要素は多い。だが、この部屋に留まっていてもどうしようもない。外に繋がっていると思われる通路が一つ。行くべきか行かないべきか……。


 いや、ここの住人が戻ってくるのを待つべきだ。

 そうすればこの世界の情報が手に入るだろうし、色々と見えてくるものもあるだろう。



「――――決めたのはいいけど、これからどうっすかなぁ」

 住人が戻って来るまで暇だ。別にやる事もないし。

 これと言って考える事もない。


 どうしたものかなぁ。


 スキルの検証でもするか? 

 やり方わかんねぇけど。


 なに? 死ねばいいの?

 と言うか、不死の検証って死ぬ以外でなにがあんの?

 傷でも負えばいいのか、でも痛いのは嫌だぞ?

 それに致命傷ってどこまでだ? 心臓貫かれても治るのか? 頭を潰されても治るのか? 実験してダメだったでは済まないぞ。そのまま死んじまうわ。

 

 力の増加を確認しようにも、こんな狭い場所で何をしろってんだ? 下手に暴れればこの場所そのものが壊れてしまいそうだ。








 ―――カツン


 通路から足音が響いてくる。 

 どうやら、誰かが来たらしい。たぶん、この部屋の住人だろう。

 俺がこの場所に来てからどれだけの時間が経ったのか、分からない。

 しかし、少なくとも腹が減るって言うほどの時間は経ってない。



「さて、どんな奴が来るのかねぇ」

 楽しみではある。あるのだが、好戦的な奴だと少々困る。

 一般人の俺が戦えるとは思わないし。子供になった今、勝てるとも思えない。

 相手が同じ子供なら勝てるんじゃないかって? 無理無理、そもそも同じじゃない。向こうはスラムで1人生きてきた狼、それに対してこっちは平和な国でぬくぬく育った豚。

 もっと分かり易く言えば餌と捕食者の関係、勝てる道理がない。


 スキルがあるって? ダメダメ、銃をもったところで使えなきゃ意味ないの。初心者が銃を使っても命中率がどんなものか知ってる?

 しかも、俺のはスキルって言う未知の力だぜ、銃と違って引き金を引けばいいってもんじゃない。精々不死に賭けて死なない事を祈るくらいだ。



 近づいてくる足音。

 通路を見ていると、思ったとおりの子供が来た。


 ボロボロになった布切れを身に纏い、120cmもないであろう小柄な身長。ガリガリに痩せ細った肉体。怯えを含んだギラつく瞳。

 うん、まさしくスラムの子供だな。


 こちらと違って、自分の部屋に人がいる事を予想していなかったのか、驚きのあまり固まっている。……それにしても青い髪って、ホントに異世界なんだな。


 どうでもいい事で、妙に納得してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る