現状を把握しよう~王都編~
今日も今日とて書類の山脈に埋もれている。フリードからサムスを呼び寄せ、補佐官の長に据えた。最初は地方領主の陪臣風情がと軋轢はあったようだが、実力で黙らせたようだ。
内乱は兵力の疲弊などの爪痕を残していたが、最大の問題は資金がないことである。クーデター派が派閥工作でばらまいたり、鎮圧後に功績のあった者に報奨金として出したり、ついでに封土を加増された領主もいてと、王国の直轄領が減少している。要するに王家の勢力が減少している。
王直轄の官僚団をそのまま摂政府に引きぬき、クーデターのドサクサにまぎれて私腹を肥やしていたようなのを罷免した。そのままだと人員が不足するので、比較的罪状が軽いものについては司法取引で俸給の期間限定の返上などで赦免した。物理的に首を飛ばしてやった腐敗役人たちも国の役に立てて本望であろう。はっはっは。
財政面での対策として財務次官にシャイロックをねじ込んだ。各省庁の長官は全て摂政が兼務している形式であるので、財務については奴が事実上のトップである。王都商業ギルドの上役がガクブルしているらしいがまあ、知らん。自業自得だろう。
そういえば、ギルドからの上納金が今回やたら多くなっているようだ。国難に身銭を切って貢献しようとは実にあっぱれである。今度財務次官と連名で感謝状を出すとしようか。
後、フリード領からの国債の買い付けがかなりの量になっているようである。なんか、俺が王家を乗っ取ろうとしているように見えるので程々にするよう伝えると、すごくいい(黒い)笑顔で首肯された。おいおい・・
軍の立て直しも急務であるが、先立つモノがない。負傷兵への休暇の際に、復帰までの一時金の授与。治療費についても王国の負担で行うこと。各諸侯の軍に所属していた兵たちにも同様の処遇を約束することで兵の忠誠心向上を測る。王都守備兵で軍務につけるものについては近衛と合同で訓練をさせている。また、ラーハルト軍の成功例に基づき、魔法兵の編成と野戦築城技術の向上を目的とした。土木兵たちは今回の内乱で荒れた街道の補修と拡張を行ってゆく。
そしてグラナダ要塞については解体を指示した。といっても更地にするのではなく、河には浮橋を架け交通の要衝として商業都市としての縄張りを行い、再構成させたのである。国の東西を分かつ関門から東西をつなぐ拠点として生まれ変わらせる。ただまあ、実際に取り掛かれるのは何年も先だろう。
さて、王位についてだがまだ移譲はされていない。儀礼上の引き継ぎはイリス王女に、実務の引き継ぎは俺にとなっている。
内政面はエリカ王女が補佐してくれている。民生面について深い造詣を持っており今回のドタバタで出た戦災孤児やスラムの救済などを王都の規模で実施している。
ポワポワとした笑顔でシャイロックから予算をもぎ取る姿はなんというか・・・この王族怖い。
年が明け、春を迎える頃に俺たちの婚礼の儀が執り行われることに決まった。まだ半年ほど先だからか一切実感がわかない。オルレアンからフリードと王都を往復してくれているミリアムがいろいろと情報を持ち帰っている。
東部国境はアルフェンス伯がきっちりと抑えてくれているが、どうも向こう側がきな臭いとのことだ。
国境付近に小規模ながら軍が展開し演習を繰り返している。越境してくることはないが、国境付近の集落には緊張状態になっている。また、フリーデン山脈の領有権を主張する領主が乗り込んできたようだが、ラーハルト公の紋章をたてにして追い返したとの報告があった。めんどくせえ。
サヴォイ伯から近衛と王都防衛軍の合同演習への立会依頼があった。いつぞや語り合った兵の訓練についての内容が見事に反映されている。ただ、回復薬の使用は予算的な意味から控えて欲しかった・・
訓練の成果は見事の一言に尽きた。行軍、布陣、陣替えの速度、野戦築城の速度など、うちの手勢に勝るとも劣らぬと感じさせるものだった。回復薬を使いまくって無かったら手なばしで賞賛できただろう。つーか、サヴォイ伯も摂政府に引っ張り込んでお金の苦労をさせてやろうか・・・
「ものども!摂政殿下にお主らの鍛錬を見ていただくのじゃ!」
「「「サー!イエスサー!」」」
「殿下、お言葉をお願い致します」
「え?ああ、・・うむ。
兵士諸君!皆は我が国の最強の盾であり、敵を打ち破る剣である!
諸君らの前には打ち破るべき敵があり、横にはともに戦う戦友がある!
そして諸君らの後ろには、戦う力を持たぬ無辜の民がいる!」
うおおおおおおおおおおおお!
「諸君らの為すべきことは何だ!」
「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」
「立ちふさがる敵がいる、どうする!」
「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」
「なれば示せ!諸君らの武勇を!我らと戦うには等しくその生命が対価となることを知らしめよ!」
「「「王国バンザイ!摂政殿下バンザイ!王国の敵は殲滅せよ!」」」
なんかテンションに任せて煽ってしまったが・・・うーん、大丈夫かこいつら?
その後近衛と王都軍各1000で模擬戦が始まったが、最初は陣を構え戦線の突破を測るなど、戦術の妙を競っていた。だがしばらくするとドロドロの殴り合いが始まり、2000の兵同士による乱闘が始まった。どうも昔から対立していた因縁ガーとか聞こえてきたが知ったことではない。
訓練用の木剣を従兵から受け取り、手近なところからしばき倒してゆく。一閃ごとに数名の兵がふっとばされ、俺の行く手は人が割れ、向かってくる者は空中に放り上げられた。とりあえず剣も放り出して殴り合いを続ける阿呆共を蹴散らし、中心部にたどり着くと・・・頭痛の種が人の姿をとって低レベルな罵り合いを続けていた。
「んだとこのヒキコモリ軍団が!」
「はっ。実力もないコネ軍団が偉そうに!」
とりあえず、双方の木剣を切り飛ばすと、ギギギとゴーレムのような動きでこちらを見る指揮官二人。
「「えっ、摂政殿下??」」
「まああれだ、お前らとっとと頭を冷やしてこい!」
なんかイライラを剣に込めて思い切り水平に振りぬいた。ふたりとも近くの兵を巻き込んでふっとんだが、俺は知らん。
訓練の仕上げがやたらグダグダだった。サヴォイ伯が言うには、どうもこの問題を俺に見せたかったとか言っている。まあ、それは本当なのだろう。対策を求められたので、各騎士団ごとに人員交流を創設するように伝えた。特に幹部候補生には、必ず複数の騎士団での勤務を義務付けることにした。これで少しは視野を広く持つことができるようになるだろう。
訓練を終え、自室に戻るとこぼれ落ちんばかりの書類が出迎えてくれた。エリカは来客用のソファでシリウスを抱きかかえてすやすやと寝こけている。
まあ、こいつも疲れてるんだろうなととりあえず放置して自分の席を見ると、イリスが突っ伏して眠っていた。
ちょっと待て、てめえ、書きかけの書類の上によだれの地図を描くとは・・・俺に対する嫌がらせだな、そうなんだな?
俺は無言でイリスの襟首を掴んで開いているソファーに放り込むと、ベタベタになった書類を処分して書類の書き直しを始めるのだった。
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