出世するのはいいことなのかもしれないが俺は自由がほしい
戦勝祝賀会、諸侯を招いて盛大な宴が催された。俺は主役のひとりとして、諸侯の挨拶を受けていた。なんていうか、顔と名前が一致する人数のほうが少ない。あと、娘を売り込もうとする奴多すぎ。にっこり微笑むご令嬢たちはたしかに美しいが、なんというか、心惹かれるような女性はいなかった。
そういえば、カイルが大出世を遂げていた。トゥールーズ候爵の婿養子でそのまま爵位を次ぐことが決定と、改めて公表された。まあ、俺自身の処遇も王女たちから聞いた以上の動きというか情報がない。
ところで、ミリィ。お前なんで俺の腕にしがみついてるんだ?え?ハニートラップから守ってやってるって?ある意味お前がそのトラップだよな?違うって?どこが?愛があるかどうかだって?おいおい、照れるじゃないか・・・っておい、なに驚いてんだ?エレスがついにデレたってどういう意味だおい。
さて、ダンスの時間のようだ。王の気まぐれで流しの吟遊詩人にも演奏させてるとかなんとか、おお、なんかいい声で歌ってるな。
「エレス卿、一曲お願いできますか?」
「喜んで、イリス殿下」
俺はイリス王女の手を取ると軽やかにステップを踏み始めた。リズムに合わせて飛んで来るローキックと足払いを細かく捌き、振り上げた手が鼻先をかすめていくのを僅かに顔をそらして躱す。なんなんだこの戦場格闘技のようなダンスは・・・?
なんか素敵とかお似合いですわ-とか貴族のお嬢様のコメントが漏れ聞こえてくるが、昨日叩き伏せたオルレアン伯より手強くないかおい?あ、ルドルフのおっさんがミリアムにダンスを申し込んでさっくり断られてやがる。って目線を逸らしたのがまずかった。クルッとターンした後遅れて飛んできた裏拳が俺の顎先をかすめ、脳を揺さぶられた俺は、小鹿のような足取りでイリス王女にすがりついてしまったのである。
「あらあら」「まあ、やはり噂は・・・」「許さんぞ、ミリィちゃんというものがありながら・・・」
最後の一言はさておき、やはりある程度噂は流れていたのかもしれない。
陛下も苦笑いでこちらを見ていた。
数曲分の休憩でやっと足のしびれが取れてきた。頃合いを見計らっていたのかエリカ王女がこちらにやってきた。うん、かわいい。なんか殺伐とした最近の生活で潤いを与えてくれるのはこの子だけじゃないか?
「エレス卿、一曲お願いできますか?」
「身に余る光栄、喜んで」
幸いにして、姉のような至近距離で打撃が飛び交うようなこともなく、普通のダンスだった。普通っていいよなあ。
「やはり本命は妹殿下か?」「イリス殿下というものがありながらエリカ殿下まで・・・殺す」
「許さんぞ、ミリィちゃんというものがありながら・・・」おっさんはしつこい。
侍従が案内し、王が演壇に上がった。音楽も一気に盛り上がりを見せ、一斉に演奏を終える。先ほどの喧騒からの静寂に、招待客は固唾を呑んで、王の言葉を待った。
「さて、諸君。宴もたけなわであるが、ここで皆に知らせおくことがある。此度の騒動で、イリスは見事国賊を打ち払い、外敵を退けた。予の後継者として、イリスを指名する」
ざわめきが広がり、高まってきたあたりで誰かが打ち鳴らした手がきっかけとなって豪雨のような拍手の音に満たされた。内心はともあれ、新たな王位継承者への中性を示す言葉で溢れている。
「もう一つの話じゃ。この戦いで、賊軍を打ち破り、古今無双の武勲を上げた。ラーハルト辺境伯エレス殿。貴公をラーハルト公爵に封じる。また、救国の英雄たる貴公は王女の婿にふさわしい」
王の言葉に熱狂的な拍手と、俺に向け賛辞を繰り返す諸侯。だが、睨めついたような嫉妬の目線と成り上がり者を見下すような言葉も隠れてつぶやかれていた。
「王女イリスとエリカをラーハルト公に嫁がせる。また、王配として摂政に任ずる」
・・・・はい?聞いてないよ?摂政だと???
ふたりとも…だと?それでは計算が!
なんかいろいろとざわめいているな。まー、王女どちらかを俺と結婚させて、王族に取り込むってところまでは皆読んでいたようだ。そのうえで、もう一人の王女の結婚相手となって、権力の増大と、俺を取り込む算段を立ててた連中がいたんだろうな。
「皆も知るところであろうが、ここ100年ほど、摂政についたものはおらぬ。王に次ぐ権限を持つからの。
イリスはまだ年若く、王としての職務を任すにいまだ不安がある。
故にエレス公にイリスを支える大きな柱となっなってもらいたいのだ」
あーもう、好き勝手言いやがって・・・
ふと周りを見渡すと、王の演壇までの間似いたはずの人々が道を開けていた。王と目が合う、あーもーわかったって・・・
演壇の前に向かって歩き出す。いつの間にか左右には王女二人が寄り添うように歩いており、真後ろにはミリアムがいた。4人で王の前に跪く。
「エレス公よ、予が背負ってきたものを、おぬしに託す。受けてくれるか?」
「はっ!全身全霊を上げ、この国と姫お二人の身命、お預かりいたします」
「よろしく頼む」
王は俺を見て微笑んだ。エリカ王女に面差しの似た、穏やかな笑みだった。そうか、今この方は王という重荷を下ろしたのだ。ただの父親となれたのだと、訳もなく悟っていた。
それは置いといて、なんで俺に全部押し付けて爽やかに笑ってやがりますかこの野郎。なんかいろいろとこみ上げる感情を込めて王に目線をよこすと、なんか微妙に顔から血の気が引いていた。冷や汗を書いていたかもしれんが気のせいだろう。
翌日、俺は王の執務室に呼び出された。デスクが増設されており、俺の席もあるようだ。両隣に、エリカとイリスも座り秘書官から渡された書類を確認している。つーか、フリードの執務室より遥かに広いのだが書類の密度はあの時より多い。目の前が暗くなるような感覚に落ちながら、毎度のつぶやきを漏らすのだった。
どうしてこうなった・・・
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