英雄の凱旋
ファフニル軍が国境を超えたたことを確かめると、国境警備兵を残し、軍を王都に返した。諸候の軍勢も最低限の数を残し、解散させて領地に帰還させている。特に東部国境に近いアルフェンス領とオルレアンは伯爵の護衛以外の兵力しか残さなかった。イーストファリアが動く可能性を考えて、フリードにはアストリアを城代に任命しフリード族の精兵をつけて急ぎ帰還させた。辺境伯の任命権を行使して子爵に昇格させている。
プロヴァンスから兵を解散しつつの行軍をしてきたため、3日かかった。城門は大きく開け放たれ、王都の市民が歓呼の声をあげていた。どうもクーデター派は非常に評判が悪かったらしい。そのクーデター派をわずか2日で駆逐して、さらに外国の大軍を追い返して戻ったのである。というか、なんか話が大きくなっている。ファフニル軍とは講和を結び、国外退去願ったのが、俺が一騎駆けで先陣を切ったとか、敵将を真っ二つにしたとか、敵軍を一人残らず討ち取ったとか、ちょっと待て。それ実現できるのって人間か?
イリス王女の人気も高まっている。救国の聖女だとか、英雄ラーハルト辺境伯を見出した慧眼とか、まあ、今回の防衛戦については総大将は王女だ。戦勝の功績は王女に帰するのは間違っていない。花のような笑顔を振りまいて、群衆に手を振りながら馬を歩ませる。俺は演出のためだと言われ、王女の半歩後ろにいる。そして、騎乗サイズのシリウスが俺の横を歩いている。シリウスを見た群衆は沸き立った。フェンリルを従える勇者の伝説は事実だったと。
【主殿、なんかうっとおしい】
【すまん、後でブラッシングしてやるから】
【仕方ないですのう】
口調は仕方なさそうだが、しっぽがバッサバッサと揺れている。可愛いやつだ。
第三城門をくぐり、王宮前の広場に軍を整列させた。王が帰還した軍を迎える儀礼の始まりである。
「我が将兵の諸君。よくぞ帰って来た。再び諸君らに見えることができて嬉しく思う!」
おおおおおおおおおおおお!
「そなたらの働きにより、叛徒は討ち果たされ、侵攻してきたファフニルの軍も追い返された!
我がウェストファリアの精鋭、英雄たちよ。戦勝の祝いは3日後に執り行う。従軍した兵全てにその日までの休暇を与える。英気を養うが良い。では、解散!」
あー、そういえば、俺何処に寝泊まりすればいいんだ?カイルを呼び寄せてその辺りの確認を行う。と言っても王都まで一緒に来たのはラーハルト勢のうち500のみ。マルク男爵が率いていた東部諸侯の寄せ集め部隊も解散していた。マルク自身は俺の家臣になることが決まっており、辺境伯領の子爵への叙任が内定していた。そのへんはアランへ丸投げである。
カイルが確認してきたことによると、幹部級は王宮に客室が与えられるとのこと。兵たちは近衛の宿舎が割り当てられた。後、今回は間に合わないが、ラーハルト辺境伯向けの居館が王都に用意されるとのことである。割り振られた客室は城東そのもので、王宮の侍従に戦塵を落とすよう進められ、浴室に入った・・・何で先客がいる?湯気が濃くてよくわからないが、小柄なその姿は……ミリアム?
「ミリィ?!何でここにいる??」
「お背中流します、旦那様?」
「なぜに疑問形」
「カイルも幸せになったし、私達もそろそろ・・・ね?」
「ちょいまて、おい、服を着るんだ」
「お風呂で服を着てるほうが不自然」
「いやそうだが、ってなんで鍵がかかってる!?」
「王女の手引だもの、王宮の人間はみんな私達の味方・・・だよ」
「え、ちょ、おま、マテマテマテマテ・・・相変わらず絶壁だな」
【・・・・バインド】
「ちょ、おま、拘束魔法ってシャレになってねーぞ」
「うふふ、大丈夫。やさしくするから」
「そういう問題じゃねえ、やめてすまん、俺が悪かった、やめ、やめて・・・」
「いただきます」
「や、め、ちょ、アーーーーーーーーーッ!」
完全に意識が覚醒したのは客室の寝台の上だった。衣服はまとっておらず、横に素っ裸のミリアムがすやすやと眠っていた。まあ、起きてから色々と諦める羽目になりつつ、説明されたのは、戦勝の宴でミリアムとの婚約が発表されること、イリス、エリカとも結婚することが既に決定事項であること。爵位も上がること。王は引退する方向で話が付いていること。へー、なんか歴史が動いてる感じだな。
そいやカイルは?へ?トゥールーズ候爵のところに婿入りか。まー完全に外堀埋まってたしな。俺の家臣って立場は変わらないって?ってちょっと待て、候爵を従えるってことは、俺どうなるの?
おかしいな、俺の望みは適当に軍に務めた後、退役して年金もらいながらグータラ暮らすことだったんだが。忙しいのって嫌いなんだけどね?そりゃー、綺麗な嫁さんがいるのは嬉しい。ミリアムのことも別に嫌いじゃない。貴族で位が上がればこれはこれで国から年金が出るし、領土から上がる税収も俺の収入だ。いいことずくめじゃないかって言われる。けど、どうして俺の意思は無視されたまま話が進むんだろう?
どうしてこうなったのか、俺はなにを間違えたんだろうか?
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