戦後処理と次への対策
諸侯連合軍2500のうち半数以上は逃亡離散した。戦死者は300ほどで、投降もしくは捕虜となったものが800余り。レイリアさんが実家のトゥールーズ侯爵家を盾にとって鞍替え、もしくは好意的中立の立場を取るように説得という名の脅迫を行っていた。男爵、子爵クラスの指揮官は討たれるか逃亡しており、騎士爵クラスの家であればまず逆らえない。逆に、侯爵家の寄り子となれることを条件に寝返ってくるものが多くいた。しかしながら、今すぐ足並みを揃えて戦うわけにも行かず、最初の戦いで捕虜になったマルク男爵にまとめさせ、別ルートで行軍させることとした。
従軍を断ってきたものには条件を出した。今回の戦いの顛末を喧伝することと、可能であれば、我軍が東都に迫った時に、可能なかぎりの味方を連れて参戦することである。奇襲をかけたとはいえ、倍以上の軍勢にほぼ無傷で勝利したのである。この情報が伝われば王都付近の諸侯は動揺するだろう。正直日和見が増えるだけでもありがたいのが実情である。
「レイリアさんのおかげで色々助かりました」
「いえいえ、イリス殿下のためですもの。協力は惜しみません」
「ところで、今後のクーデター派の動きですが・・」
「そうですね、クレア殿下が本気でクーデターなんか起こすようには思えません。黒幕がいます」
「ふむ、向こうさんにそれを出来るような大それた人間がいるんですかね?」
「宰相のブリエンヌ候は野心家ではありますが、軍事に疎いのです。近衛兵団を率いていたサヴォイ伯とは犬猿の仲でした。サヴォイ伯自身は領土に引きこもっていて、クーデター側とは距離をおいています」
「だからオーギュストのおっさんを引き上げて軍を率いさせている可能性は?」
「なくはないのですが、宰相自身が軍人を脳筋の猿扱いしてましたからねー」
「それはひどい」
「閣下、アルフェンス伯が到着されました」
「そうか、こちらへ案内を」
「はっ」
カイルが報告に現れ、指示を聞いて立ち去った。
そして怪しげな目つきでカイルを見ていたレイリアさんに気づき、声をかけたが、なにもなかったかのような表情で答えてくるあたり、この人怖い。カイル……幸せになってくれ。
アルフェンス伯軍3500を加え5000に膨れ上がった軍をさらに西に進めた。先の戦いの噂が広がっているのか、敵対してくる領主はほぼなく中立を保ってくれた。そのまま順調に1週間ほど進み、バルデン領に入った。クーデター首謀者の一人でここから抵抗が始まると思った矢先、500ほどの兵が現れた。迎撃部隊としては少なく、様子見をしていると、白旗を掲げた騎兵がやってきた。
「レックス卿がこちらとの合流を申し出てきました」
「それはありがたい、直ちにお通しするように」
逃亡、潜伏生活を送っていたレックスは、自身に従う土豪の拠点を転々として追撃をかわしていた。現状、バルデン領はレックス派とオーギュスト派で事実上分裂状態に陥っており、領都バルデンには近衛騎士団の一部2000が駐留しており、近衛騎士残りの3000がグラナダ要塞に詰めているとのこと。王都には王都駐留軍5000が詰めている状況だった。
「では、軍議を始める」
「まずよろしいか」
「レックス卿、どうぞ」
「ありがとう。まず、父のことだが、明らかに正気ではなかった。何かに操られているというか、目つきがおかしいというか」
「いまさらですが、近衛騎士団長のサヴォイ伯は騎士団からの信望が厚く、いくら王族からの命令であっても騎士団がそれを肯んじるとは思えないんですよね-…」
「近衛騎士は5個大隊で構成され、全ての大隊長が認めないとなれない慣例になっています。その辺りも探ったほうがよろしいかと」
「ふむ。とりあえず敵を蹴散らして終わりってわけじゃあなさそうだ」
「左様。何より、これは内乱です。他国が付け入ってくれば存亡の危機となりえましょう」
「たしかに。いかに早急にかつ犠牲少なく勝つかってことか・・・頭痛い」
とりあえず情報収集を行うこととして一旦軍議は散会した。レックス卿にバルデン領内の味方を集約するよう依頼し、フリード族から隠形術に長けたものを選抜して編成した密偵集団を展開し、敵の内情を探る。バルデン領都に向け進軍しつつ、戦況は不気味な静けさを見せていた。
そんなさなか、合流待ちのオルレアン勢1500がバルデン軍本体2000に奇襲を受け、苦戦に陥っているとの報告がもたらされた。現在の本陣をアルフェンス伯に任せ、俺自身はラーハルト勢1000を率いて出撃した。オルレアン勢にはミリアムがいる。その事実は想像以上に俺から心の平衡を奪っていたのかもしれない。レイリアさんのニヤニヤ顔で、ふと我に返りそういやあんた王女と俺をくっつけたいんじゃなかったのか?と問い詰めたくなる心を抑え、手勢に出発の号令を下した。
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