前哨戦・・・倍の兵力相手にどうしろと

 トゥールから西へ3日ほど進んだところで野営の準備を行った。ポーワテイル平原のやや高い丘陵地で、見晴らしがよく、奇襲されにくい地勢である。念のため防壁などの野戦築城を行いつつ斥候を放つ。オルレアンとアルフェンスの両軍の合流を待つためでもある。なぜかいきなり辺境伯に任じられたため、この軍の最上位者は俺になっている。なんだろう、この嵌められた感。


 さて、輜重を中央に置き防壁を築いて方陣を組む。仮に包囲されても援軍との挟撃を可能にするためだ。軍が通りやすいよう、整地も行いながらの進軍のため、若干足は遅くなっていた。確定している敵は王都駐留軍5000と近衛兵団5000。ほか王都周辺の諸侯でクーデター派にくっついた奴らが3000の合わせて13000ほど。王都の城塞部分は山脈の谷間にそって築かれており、3重の防壁に守られている。まともに力攻めを行えば、10万の兵が必要になるとすら言われる。もしくは戦略級魔法が必要になるだろう。ただしそんなもんぶっ放せば、人質になっている王女の命はなく、俺達はただの逆賊だ。そもそも、城壁内には市民もいる。実に頭がいたい。現状の手勢は1000ほどで合流まではあと2日かかるめどだ。そして斥候の報告により、諸侯勢2500の襲来の報告があった。

 俺はあえて打って出る選択をした。ここでこの寄せ集め共を叩いておくことで味方の士気を上げられるし内通してくるものが出るかもしれない。そして敵の指揮官はやらかしてくれた。中軍1500と別働隊1000に分割し、こちらを包囲しようと迂回させてきた。そして別働隊もやってくれた。更に半数ごとに分割し、別行動を始めたのだ。どうせあれだ、辺境の寄せ集めなんぞ敵じゃないとかいう感じで油断してくれちゃってるんだろう。


「あーやっぱはじめましたかー。手柄争いで多分自分の手勢だけで打ち破ったりとか、先陣切ればあとの発言権上がりますからねー」

なんかこの人王女が横にいないとぶっちゃけトークが多い気がする。こっちが素か。


 とりあえず、こちらから見て左に回りこんできた敵勢の側面を突いた。なんか喚いてる指揮官らしきおっさんを馬上から叩き落とし捕虜にする。騎士クラスは奪い返そうとこちらに反撃してくるが、雑兵は逃げ腰で、頭上で火球を破裂させると逃げ散った。面倒なので追撃はしない。そのまま兵を移動させもう一方の500を蹴散らす。こっちの指揮官はナガマサがすれ違いざまに槍で突き落としていた。

 起伏のある地形を利用し、敵の視界に入らないように背後に回りこむ。敵さんはや野戦築城したこっちの陣をめがけて進んでいるので、進路の割り出しは簡単だった。まあ、そもそも、シルフィードの分体が空中から偵察し、敵とこちらの位置関係を知らせてくるのである。それは、日が落ちた今でも変わらない。むしろこれで負けたら嘘である。敵が野営の準備を終えたあたりで奇襲した。

「魔導兵前に!曲射、火炎弾。斉射3連・・・撃てっ!!」

 魔導兵は訓練通りの力を発揮し、予想以上の効果が出た。頭上から降り注ぐ火球と爆発音に敵陣は混乱を極めた。精鋭を率いて本陣に突入し指揮官と思しき身なりの良い騎士数名を討ち取リ、そのまま突破して駆け抜けた。そのまま予め築いた陣地に入ったのである。

 明るくなって状況が改めて見えてきた。陣幕を焼き払われ、物資も欠乏し、帰還するまでの食料に事欠く有様である。その認識が敵陣に広がっており、士気?なにそれ食えるの?といった状態である。レイリアさんに護衛としてカイルと騎兵10をつけて降伏を呼びかけた。しばらくすると何故か同士討ちが始まり、ひときわ大きな喚声が上がったあとに、白旗を掲げた使者が現れた。


「んで、どんなペテンを使ったんだ?」

「あら、人聞きの悪い。責任者の首を差し出せば、それ以外は助命するって伝えただけですよ?」

「うっわ、えげつねえ」

「じゃあ、徹底抗戦されて、さらに血を流しますか?」

「いや、それはその通りだがな?何で同士討ちになったんだよ?」

「トップの某子爵が昨日の夜襲でお亡くなりになったそうで」

「ほう、それは気の毒だ」

「ええ、で。某子爵はNo.2を置かなかったんですよ。同格のどんぐりが二人」

「あー、どっちが責任を取るか、いや、取らせるかで実力行使になったと・・・?」

「ええ、ただ残念なことに相打ちになってしまわれまして」

「なんだと、それは困ったな。って、責任者の首が2個になったってことか」

「うふふ、これであの陣には騎士爵クラスの小物しかいません。取り込み放題ですわよ」

「お、おう、よくやってくれた」

「礼には及びませんわ。けど、そうですね。私にふさわしい殿方をご紹介くだされば・・・」

「よしわかった、うちのでイキのいいのを見繕っとく」

「あ、そうそう、私の実家は侯爵家ですので、そのあたりもご考慮くださいませね」


そう言い残して彼女は自分の割り振られたテントに戻っていった。

去り際に浮かべた艶然たる笑みは俺達に寒気を覚えさせた。


「なあ、カイルよ。女って怖いな……」

「いやまったく・・」


そう頷き合い戦後処理を進めてゆくのだった。

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