波乱の序章と災厄の萌芽
風の宝珠を手に俺たちは塔から降り立った。いきなり頭上から降ってきた俺達に案内人が腰を抜かし、なぜかいたアストリア卿が驚愕の表情を浮かべていた。
「エレス殿、我らサンカ族の民は貴方に従いましょう」
「え、貴公らはフェルナン卿の配下になるのではないのか?」
「貴公はこういいましたぞ?俺に従えと。それこそこれ以上ない形で力を示していただいた。精霊王を従えるは心正しきもののみ。それにですな、ラーハルト領の善政は我らにも伝わっているのです」
「やめてくれ、俺はそんな大層なもんじゃない。一度フェルナン卿に話はさせてもらう。そのうえで問題なければ、部族まるごと引き受けよう」
「ということですがよろしいか?」
「無論、私に異存はないよ」
「ってなんかもう話が俺がいないところで決まっていたような気がするんですが?」
ハッハッハと笑う二人に俺は脱力した。
その場で簡単な取り決めが結ばれた。アルフェンス領への街道敷設を延伸し山脈の麓との村へつなぐ。そのままその村が当家の飛び地の領土となった。山の民サンカ族は人口3000、険しい地勢に鍛えられた精鋭であり、成人男子のほぼすべてが戦闘員となる。総動員すれば1000の兵力を抽出できるが、常備の兵500を配置し、鉱石や木材を街道を利用してトゥールまで運搬することとなった。希少な鉱石を積み上げた光景はこの地に訪れていた商人の目の色を変えさせ、この地に移り住む人も大きく増加したのである。
もともとの村の規模があまり大きくなかったため、より広大な敷地を持つ北の砦を、領都フリードとして都市化した。もともと兵たちの住居と商人が市を開く広場、そして食料生産体制も整えられつつあったためである。それに伴い、南の山脈としか呼称されていなかったものを、フリーデン山脈と名付け、サンカ族あらためフリード族とした。アストリアは、騎士を拝命しフリーデンの代官として領都と村を行き来する生活を送っていたが、先代族長に村を任せ、フリードに居着いた。この後ラーハルト領は隆盛の一途をたどることとなる。
そういえば風の宝珠というとネックレスに加工され、俺の首からぶら下がっている。シルフィードの分体が宿っており、時々鳥の姿になって飛び回っているようだ。
1年が過ぎた。地方の村であったトゥールはラーハルト領都フリードの衛星都市として、水運と物流で賑わっていた。領土経営を始めた頃の困窮ぶりはウソのように順調で、エレスは名君としての評価を確立しつつあった。
王都方面からあまり良くない噂が漏れ伝わってきた。王が原因不明の病に倒れ、第一王女クレアと対立していた第二王女イリス。第三王女エリカはイリスについたようだ。もともと第一王女は余り目立つ存在ではなく、第二王女は敵国からの侵攻を退けた武勲により人気が集中していた。王は正式に意思表示をしておらず、後継者についても全くの白紙とされていた。そもそも壮年の王にそういった心配はまだ早いとも言われていたのである。その王が病で面会謝絶になっている。そして王の居室を第一王女の手のものが警護して、対立を深めていた。しかも何故か元バルデン伯が復権し、嫡子フィリップが第一王女の婚約者として公表されたという。てかあのオークもどき、そんな立派な名前だったのか。
その数日後、またあまり聞きたくない知らせが届いた。近衛騎士団の団長が解任され、元バルデン伯オーギュスト卿がその地位についた。即日近衛騎士団と王都駐留兵がバルデン領に雪崩れ込み、レックス卿が生死不明とのことである。オルレアンにはミリアムをアルフェンスへはアランを使者として送り警戒を呼びかけた。平行して西の領境付近に警戒用の拠点を設置しており、そこに駐留する兵を増やすなど、幾つかの手を打った。
更に数日後、王都からの使者が来たとの報告があった。使者は第二王女の近衛騎士レイリアで、旧交を温めるまもなく特大の爆弾を投下してくれた。
「王都でクーデターが発生しました。近衛騎士団を中心に厳戒態勢が敷かれ、王族は幽閉されております。イリス殿下の命をお伝えいたします。東部諸侯を率いてクーデター派を除くように。とのことです。あと、これ任命書です。エレス卿を辺境伯にすると」
「あー、状況はなんとなくわかってたんだが・・・話がいきなり過ぎないか?」
「実はですね、領土発展と南方の山賊討伐の功績があって、昇爵の話が何回か出ていたのですよ。ただ、王都の法衣貴族から大反対がありまして、のびのびになっていたのです。で、王女がこの際どさくさに紛れてやっちまえと」
「あー、あー、あー。事情は分かったがあんた、ぶっちゃけ過ぎだろ……?」
「なにを今更ですよ。あ、そうそう、この任務に成功したら功績すごいことになりますよ。多分王女を娶ることも夢じゃありませんね」
「そうかそうか、めでたいなあ」
「そうですよね!あの王女が片付けば、私も晴れてお嫁にいけます!まあ、その前に相手探さなきゃですけどね」
「そうかそうか、だが断る」
「えっ?!王女と結婚したらほぼ王様ですよ?何で断るんですか!!!」
「そんなめんどくさいものはいらん!」
「そこをなんとか」
「あんな腹黒押し付けられたら俺1年以内に衰弱して死ぬ自信があるぞ」
「なんなら第3王女もつけますから、ほんわか癒し系ですよ」
「なんか、国家の一大事って言うより露天商と商談してる気分になってくるなおい」
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます」
「ほめてねえ!!」
そんなこんなで、配下の騎士をまとめ、俺は軍を編成した。不本意ながらあの王女には貸しがある。それを取り立てるまでは死なれちゃ困るからな。ってレイリアさんよ、そのニヨニヨ笑いをやめてくださいお願いします。
はあ、毎度のことだがどうしてこうなった・・・
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