プロローグ 急転直下!一介の兵のはずがどうしてこうなった!?
フェリアース地方には4つの国がある。古王国フェリアースは600年前に建国王クローヴィスがこの地に巣食っていた魔獣を打倒し、その武勲と名声を背景に建国した。成立より400年ほどたって双子の王の争いにより南北に分割された。フェリア王国とアースガード連邦である。さらに50年ほどでフェリア王国が東西に、アースガード連邦よりファフニル王国が独立を果たす。以後150年、各国はお互い争い、結び、古王国の栄光を取り戻すという大義名分を果たそうとしていた。
ウェストフェリア王国北部、バルデン領。第二王女イリスは東部諸侯への巡幸を終え、当地の領主バルデン伯オーギュストの護衛を受け、王都への帰還の途上であった。物語はここから始まる。
王都より随行していた兵の一人が異変に気づいた。この地方には珍しい黒髪、長身の若者で鎧も黒を基調としたホーバージョンをまとい、動きやすさを重視していることがわかる。背には大剣を佩いていた。名をエレス。士官学校を卒業したばかりの従騎士で、姓は許されていない。彼の周辺にいる兵たちも独特の格好をしていた。
魔道士然としたローブの少女、流れるような銀髪を背に流し、端正な容貌とわかりやすい無表情。腰には魔法発動体であるワンドを下げている。黒髪の青年、エレスにミリィと呼ばれた時だけ、目元に表情が浮かんでいた。
東方の鎧を着込んだ青年が二人、刀と槍を持っている。槍を背に皮肉げな笑みを浮かべているのがビゼンノカミ・ナガマサ。カタナを腰に佩き、長髪を後ろに紐でくくっているのがイセノカミ・トモノリ。東方からやってきた一族の末裔で、名の前に故郷の官職名を名乗るのが習わしだそうだ。出世して一族を呼び寄せるのが将来の夢と語る。サムライは伝説の存在であり、武芸に優れ、攻撃魔法を使いこなし、智力と人格に秀でていなければならない。この二人は、腕は確かで、魔法も使いこなす。しかしながら、普段から残念な言動が玉に瑕だった。
エレスと並んで歩く青年はカイル。白を基調としたサーコートにカイトシールドを持つ。鮮やかな銀髪と涼しげな眼差しはさぞ人目を引くに違いない。剣の達人で小さな村の村長の長男である。エレスとともに士官学校に入学し、同期卒業した。
そして、モスグリーンの革鎧に長弓を背にした少年が一人。名はロビン。弓の名手で、飛んでいる鳥を射落とす腕と言われる。矢に魔法付与を行い、貫通力を上げたり、爆発させたりする事もできるらしい。二刀流の短剣術も収めており、ナガマサとの模擬戦では、一歩も引けを取らずに渡り合っていた。
エレスとカイルは王国従騎士という身分を持っているが、他の4人は公式な身分はない。エレス個人の部下という形をとっている。命の恩人とか、お嫁さんにしてくれるって言ったよね?とかいろいろなしがらみの結果こうなっている。人生とは出会いと別れである。
「敵襲!前方200ほど。行軍停止を!」
「なにがありましたか?」
馬車の中から王女が問いかける。
「盗賊かと思われます。いささか数が多いですが、一気に蹴散らしてご覧に入れましょう」
「伯の武勇に期待いたします」
「は、我が剣にかけて」
「ところで、領内にあれほどの規模の賊がいること、後で詳細な説明を求めます」
そう言って窓をピシャっと閉じた王女。そして眉間にしわを寄せ、苦々しい表情をしている伯爵が残された。
バルデン伯オーギュスト率いる騎兵が突撃した。さすがに強い、盗賊と思われる敵兵が蜘蛛の子を散らすように逃げ散っていく。その機を逃さず馬車を中心に陣を組み突破を図った。ろくに交戦もなかったので負傷者が僅かに出ただけで先に進むことができ、ほっとひといきついたところでところでさらなる悲報が届いた。この先街道は森を通る。その森のなかにゴブリンの集団が巣食っているとの報告がもたらされたのである。森を抜ければバルデン領都である。間道を使い増援の使者を走らせているがたどり着いているかは現状確認できない。そして方針が決まった。森を強行突破である。
「ざっけんじゃねえええええええええぇ!!」
怒声が陣営に響き渡った。
強行突破作戦が決定された、そこは良い。ゴブリン共の数は不明で、しかも奴らが得意とする森のなかでの戦闘、かなり無謀だ。そこも譲ろう。しかし、何で俺が先陣の指揮をとる羽目になってんだ?!
「いいか、貴様らは命に代えて殿下が安全地帯までたどり着く道を切り開くのだ。
王家の礎となれるは兵の誇り、本懐である。わかったな?」
そう言い残すとバルデン伯は身を翻し馬上の人となった。
セリフは立派である。野郎の顔がニヤついていなければ。
この野郎は士官学校の校長だった頃から気に食わなかったんだ。
ってか、新米の俺にこんな重要任務(王女の巡幸の護衛任務)が回ってくることも今から考えたらおかしかった。ってかはめられたか?昨日までの自分の能天気さに指差して笑ってやりたいくらいだ。
やり場のない怒りは、奴らに聞こえても構うものかと俺は肺活量のすべてを使い切って叫んだ。
あ、馬車の窓からイリス殿下が目を見開いている。やっちまったか・・・
かくして俺は100ほどの兵を率いて、ゴブリン共が巣食う森に足を踏みれることになるのだった。
どうしてこうなった!?
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