シンデレラ〜日本のサムライ王子と玉の輿


 海外で会社を立てた青年実業家は、俺が見ても憧れるくらい、普段から完璧な男だった。言動がクール。必死でない。


 そんな男だから、いつもモテて仕方がなかった。アジアのとある国で会社を起業し、もちろん、その前から日本でもモテて困る男なのに、現地では、”超絶王子様”という状態。女性が自分のパンツを部屋にわざと置いて帰る。


 他の女をできるだけ寄せ付けたくないというアピール。そんなことしても無駄なのに。


 そんなモテ男が、妻に選んだのは、現地の女性だった。なぜ?外国人を?と俺は思ったが、彼女と会ってみると、確かに背が高く、丸顔の童顔、スタイルもいい、綺麗な娘だ。そして、日本人かと思う流暢な日本語。彼女が来日経験があるとは聞いたことがない。なので、努力だろう。なんとしてでも王子様をゲットしたい!健気だ。


 そんな彼だから、結婚しても、女の影が消えない。それくらい覚悟の結婚だろうし、彼のことだから、女に嵌るとかは、ないだろう。そう思っていたが、実は気の強い彼女は、やはり浮気は許せないらしい。


 許せないと言っても、仕方ないだろう。彼は男から見ても魅力的な男。正直、遊びでいいから、彼と時間を過ごしたい女性はそこらに一杯いる。日本にいても、モテモテなのに、ましてやアジアの国。ものすごい壮絶なバトルが繰り広げられただろうことは、想像に難くない。彼はそれだけモテても、俺の知ってる限り、ステディになった子は少ない。彼の初めての彼女は小説にしたいくらい、儚い雰囲気の大人しい綺麗な娘だった。家柄も良い下級生のあの子と結婚するかと思っていたし、実際のところ、結婚してもまったくおかしくなかった。絵に描いたようなお似合いのカップルだった。


 こうは言ってはなんだが、アジアに遊びに行った時に紹介してもらった子は、歴代の彼の彼女の中で、容姿の面では、なぜこの子を選んだの?というレベルだった。


 頭脳明晰、優秀、気の強い自立した女性。できる女性だから、旅のオーガナイズは完璧で、案外そういうところが良かったのかもしれない。姉さん女房という風情で、彼はいつもやり込められていた。確か、家が自営業とのことだった。案外そんなところから、ビジネスチャンスがあるのかもしれないが、俺は、この娘とはまさか結婚しないだろう、と思っていたら、やはりその通りになった。


 自分よりも美しい女性が多いだろうし、無理もないが、なんにせよ、別れるのが大変そうな女性だった。しっかりしてるため、すっかり奥さんのように彼の生活に食い込んで、陣地を取って、実際、諦めさせるのが大変だったらしい。


 彼曰く、嫉妬深くて、本当に大変なんだ、と、別れる直前は、芯から辟易した様子だった。それに勝る良いところもあったのかもしれないが、彼女の場合は、ビジネスパートナーなら、うまくいくような子だった。そんな子とわざわざ結婚しなくてもいいだろう。

 

 彼のことだから、元カノとも別に連絡を取り合っている、と思い、あの子どうしてるの?と聞いたら、元気にしてる、とのことだった。彼女は彼と別れた後、さっさと欧州に留学し、そっちで外国人の彼氏を見つけたらしかった。

 

 彼女も”転んでもただでは起きないタイプ”。何より非常に優秀な女。欧州から、元彼のビジネスにきっと有益なアドバイスをくれるだろう。彼女も起業家タイプだ。でも、そういう女性は妻には向かない。

 

 何事にも捕らわれない彼は、結婚してからも、はは、マッサージに寄ったら、気持ちよくて寝てしまった。起きたら夜が明けていた、とか言っていたが、奥方は、朝帰りが許せない、と怒っていたようだ。そういう彼女の持っている持ち物は、すべてブランド物だ。雲の上のような生活を彼女はさせてもらっているだろう。


 愛があれば、お金など要らない、というのなら、王子様は諦めて、彼女ぐらい若くて綺麗なら、他の誰とでもと結婚できたはずだ。彼女は性格がいい。素直で明るい。努力家で、綺麗な日本語を書く。実家も裕福な方。でも、彼にだけは嫉妬深くなる。まあそれも理解できないことはない。


 先に書いたが、結婚前にも、一人暮らしの彼の部屋から、女性物のパンツが出てきて、一悶着あったらしい。彼は、”誰かが忘れて帰ったんじゃないの?洗って干して忘れた、とか。”と、しれっと答えた。


 俺が女性なら、怒る気にもならない。きっと事実だろうと思う。誰かが泊まった、パンツを洗って干して、履いて帰るのを忘れた、忘れたというより、他の女へのアピールだろうが。


 まあそんなわけで、そういうのが嫌なら、そんな男と結婚しなきゃいい。彼は何をしていてもカッコいい。一言一言が、カリスマ的。なので、気に入らないなら、他の女のために別れてあげたらいい。列を作って女が待ってる。


 スポーツマンだし、度胸がある。精神的に強く、実家は裕福。イケメンで、何事にも捕らわれない、寝起き姿でさえカッコいい。子供の頃からずっとそうなのだから、その格好良さは、筋金入り。何してもカッコいい男というのは、生まれつきで、計算がない。素で生きていて、カッコいいのだから、彼のような男が、野生のサムライ男子。こうしたらカッコいいとか、おそらく考えたことなどないに違いない。彼にとっては、カッコいいとか、カッコよくないとか、そんなことはどうでもいい。今を生きるだけ。


 ほぼ何もないところから、海外でフードサービスのチェーン店を展開するような男、浮き沈みも激しいかもしれないが、何よりも、この男、転んでもただでは起きない度胸がある。それまでも、海外で起こした事業を潰して、その度ごとに、一から自分でスタートしたはずだ。


 日本と海外に自宅を二軒。若いのにこれだけの実力のある男。シンデレラは当初の結婚の感激が薄れて欲深くなってしまったのか、現地の男どものように、もっと育児を手伝って欲しいと少々不満顔だが、彼に出会ったことを感謝した方がいいと思う。こんな男は滅多にいない。


 

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