結婚をチャンスにする女達
一夫多妻で、下剋上
ある一夫多妻の国の政府の高官の世話をしたことがある。彼は2番目の妻と共に来日していた。
美しい、綺麗な体をしたパーフェクトな美女だったが、素朴なとても可愛らしい雰囲気を持っていた。もちろん、彼女の世話は日本人女性がしたのだけれど、伝え聞くと、夫がとても厳しく、日本にいても、息が詰まる、と言っていたらしい。
そのまま日本で失踪しても、すぐに女優やモデルができそうな美しさ、スカーフはしていない。しかし、夫は、宴会の席に妻を連れてきても、写真を撮ろうとする日本人の社員に、ダメだ、ダメだ、彼女の写真を撮ることは許さないぞ、と言った。
その時に、誰かが慌ててシャッターを切ったピンボケした集合写真が、かろうじて一枚残っているだけだ。
実は、彼女は、医学を学んだ後、アルバイトで秘書をして、その関係で2番目の妻となった。日本や、欧米に行きたい。なので、日本に住まわせてもらうことを条件に、結婚して、やってきた。彼女は夫が帰った後も、日本の取引先が面倒を見るという名目で、ごく短い数ヶ月、夫が迎えに来るまで一人で日本に滞在したが、日本の大学で勉強をさせてくれると言ったから来たのに、約束が違う、と、毎日こぼした。
日本の取引先の人間は、彼女に何かあったら一大事なため、いつも見張っている。会社に出社させて、簡単な雑用を頼む。夫と申し合わせ、若い彼女の要望を叶えると見せかけて、実際は籠の鳥だった。
夫からは数時間ごとに、今どこで何をしている?と、彼女に電話が入る。
せっかく日本に来ても、これでは意味がない、と彼女は言っていた。美しく、優秀な彼女が選んだ、2番目の妻という選択。
実際は、本妻がいるので、いくら良い生活をさせてもらっても、夫は毎日自分の家に帰ってくるわけではなく、本妻に頭は上がらない。あくまで二番目の妻。本妻がいるので、愛人扱い、という彼女は、立派な屋敷を買ってもらっても、「自由が欲しい」と言っていた。
いつか自由な国に行きたい。ここは日本だから、スカーフはしなくていい、と彼女は言って、そこまで敬虔じゃないけれど、日本に来て、ちょっと気持ちが変わった、今は、毎日祈っている、と言った。
その時は気づかなかったが、本当に結婚していたのかは、わからない。あくまでも2番目の妻を同伴、とのことだったが、もしかして、結婚していなかったのかもしれない。ふと思い当たったのは、本国でも全く自由じゃない、と言っていて、本妻にすごく気を使っている様子だった。もしも、結婚しているのなら、そこまで遠慮はしないんじゃないか。
その後、数年して伝え聞いたところ、結局、彼女は、結婚を解消していた。どうやら海外にいるらしい。夫と彼女は、親子くらいの歳の差があった。別れたのが先か、それとも、夫との死別で、遺産でも入ってきたから、本国を出ることができたのか知らない。とにかく、夫は既に亡くなった。
あまりにあっけなくて、驚いた。いくらなんでも早すぎる。二人は、かなりの酒豪で、どんどん強い酒を底なしに飲んでいた。だからだろうか。
彼女も、今、糖尿を患っているらしい。あの若さで?と驚いたが、飲みっぷりを見る限り、十分にあり得る話だ。
俺は風の噂を聞いた時、彼女の下剋上の結婚は、成功したんだろうか、と思った。
とにかく逃げ出したい。
美しい彼女は、それこそ振るいつきたくような美女で、しかも頭脳明晰。今どこで何をしているのか知らないが、彼女の幸せを願う。ちなみに、いくら仲良くなった日本人女性の世話係が、彼女の個人的なメールアドレスや連絡先を聞いても、決して教えてくれなかったそうだ。
夫に知られたら、まずいことになるから、と。
なので、彼女のその後の消息は不明なままだ。とある自由な西洋圏に逃れた、と聞いたのが最後だった。
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