……どっち?

 夕方、小学校から帰ってきて、いつものように家のカギを開けた。

 ドアチェーンをかけてから、クツをぬぐ。そのまま、あたしの部屋へ行こうと思ったら、キッチンで音がしたので、のぞいた。

「あれ? お母さん帰ってたの?」

 とん、とんと包丁で何かを切っていたお母さんが、顔を上げてふり返る。

「お帰り、チサト」

「今日は仕事終わるの、早かったんだね」

「夕ご飯は、チサトの好きなハンバーグよ」

「やった!」

 部屋にランドセルを置いてもどってくると、リビングで電話が鳴った。

「チサト、出てー」

「はーい」

 受話器を取る。

「もしもし」

「あ、チサト?」

「……え?」

 お母さんの声だった。

「もうすぐ帰るからね。夕ご飯は、チサトの好きなハンバーグよ。じゃ」

 切れた。

 キッチンのお母さんが、たずねてくる。

「だれからー?」

 答えられない。


 いつもなら、お母さんは、まだ帰ってきてないはず。

 じゃあ、今、キッチンにいるのは、だれ?


 背中がぞわっとした。

 げん関に走る。

 ドアにかけ寄り、がちゃがちゃチェーンを外そうとして、ふっと思った。


 もし、本当に、たまたま仕事が早く終わったんだとしたら。

 じゃあ、電話をかけてきたのは、だれ?


「チサト、お客さん?」

 キッチンのお母さんが、包丁を持ったまま、ろう下へ出てきた。

「チサト、そこにいるの?」

 家の外から、お母さんの声が聞こえる。

「チサト、玄関で何してるの?」

「チサト、チェーン開けて?」

 ドアにしがみついて、一生けん命考える。


 ……どっち?

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