食べることが嫌いになる方法

 あなたは、幼稚園児くらいの子供です。

 お父さんは毎日お仕事で帰りが遅く、一緒に夕ご飯を食べることはありません。

 夕ご飯の時間、家にはあなたと、お母さんの二人きりです。

 あなたはテーブルの上の夕ご飯を、懸命に口へ運び続けています。でも、一度に飲み込める量が少ないのか、口の中の食べ物が完全になくなるまで時間がかかります。その分、噛む回数はとても多いです。

「一、二、三……」

 とっくに自分の夕ご飯は食べ終えているお母さんが、正面に座って、あなたが噛む回数を数えています。

 夕ご飯を食べ始めてから、もうすぐ二時間。あなたのお皿やお茶碗にはまだお料理が残っていますが、もともと小食のあなたに合わせた量なので、多すぎることはないのだそうです。実はもうお腹いっぱいですが、あなたの分が綺麗になくなるまで、席を立つことはできません。

 あなたは、とにかく夕ご飯を目の前から消したくて、口いっぱいに詰め込みます。詰め込み過ぎて、うっ、と気持ち悪くなり、急いでトイレへ走って、吐きます。今、詰め込んだものも、二時間かけてお腹に詰め込んだものも、全部。

 トイレから戻ると、お母さんが、

「アフリカの難民は飢えてるのに、あんたは!」

 と怒りながら、残っていたお料理をゴミ箱へ投げ捨てます。


 その瞬間、あなたはとても嬉しい。お料理が消えたから。


 ――そして、嬉しいと思ってしまった自分を、とても悪い子だと思うのです。


 明日も、明後日も、同じことが繰り返されます。

 そうすれば、きっとあなたは、食べることが嫌いになるでしょう。

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