赤い半纏

 しょうがっこうに入るまえに、お母さんがかってくれたのは、くろいランドセルでした。

 お母さんはいつも、「いろに、おとこの子ようとか女の子ようなんて、ないの」といいます。わたしがおみせで、あかやピンクのかわいいものをみていると、おこります。かみのけがみじかくて、くろいふくで半ズボンをはいているわたしは、おとなの人に「ぼく?」ときかれます。

 でも、わたしは、ほかの女の子たちみたいに、あかやピンクのおようふくがほしかった。かみをのばしてリボンをつけたいし、スカートもはきたかった。ランドセルだけは、あかいのをかってもらえると、おもっていたのに。


 しょうがくせいになっても、わたしはみじかいかみで半ズボン。女の子でくろいランドセルなのは、わたしだけ。かわいいおようふくの女の子たちとは、いっしょにいたくないし、おとこの子たちには「おとこおんな!」とわらわれます。

 かなしくてかなしくて、がっこうのはしっこの、だれもこないまっくらなトイレにとじこもって、ひとりでないていました。

 そうしたら、トイレの中で、だれかのこえがしたのです。


「赤い半纏はんてん、着せましょか……」


 いきなり、しらないおばあさんのこえがきこえたので、びっくりしたけれど。


「赤い半纏、着せましょか……」


 はんてん、というのがよくわからないけれど、〝あかいはんてん〟? あかいおようふくをきていいの?


「赤い半纏、着せましょか……」


「うん。きたい」


 そしてわたしは、うまれてはじめて、あかいはんてんをきることができたのです。

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