夢の羊

 夜、一人暮らしのアパートでまったりしていると、携帯電話の着メロが鳴った。見覚えのない番号からだったが、とりあえず出る。

「わたし、ドリーさん。今、あなたの家の前にいるの」

 その直後、玄関チャイムがピンポーンと鳴る。

 何だよこれ! メリーさんの怪談みたいじゃねえかよ!

 友人の誰かのイタズラに違いないと自分に言い聞かせつつ、恐る恐る、ドアスコープから外を確認する。

 魚眼レンズの向こう、アパートの薄暗い廊下にポツンといるのは、一匹の白い羊。

 そういや、イギリスのクローン羊の名前がドリーだったか、と思いつつ、そもそも何で羊がいるのかわからない。

 ピンポーン。

 またチャイムが鳴り、はっと気づくと、いつの間にか廊下の羊が二匹になっていた。

 ピンポーン。

 ピンポーン。

 音がするたびに白い羊は増えていき、狭い廊下を埋め尽くして、ひしめく。

 羊の区別などできないが、それでも……色も大きさも、全く、同じ羊に見える。

 ピンポーン。

 ピンポーン。

 ピン……

「やめろ!」

 叫んだ瞬間、魚眼レンズの歪んだ視界の中で、同じ顔をした羊たちが、一斉に、ギョロッとこちらを見た。

「うああああっ!」

 ドアに突進してくる羊たち。ミシッ、ミシッと軋むドアを、中から必死に押さえる。鳴り続けるチャイム、ドアにかかる圧力はどんどん強くなる。このままじゃ破られる!


 がばっと跳ね起きた。アパートの、ベッドの上。夢だったとわかり、ほっとする。

 喉が渇いたので、何か飲もうとベッドから出たとき、枕元で、携帯電話の着メロが鳴った。

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