件名:呪

 今、市内の学校で流行っている噂。

 ――4時44分に届いたメールを読むと、呪われる。


 4時44分。私の携帯が震えて、メール着信音が鳴った。

「ほら、メール来たよ? 見れば?」

 ニヤニヤ笑いながら言うクラス委員長。後ろでクスクス笑う取り巻き。

 毎日、夕方4時半を過ぎると、私の携帯は、知らないいろいろなアドレスから沢山のメールを受信する。メールは、送信から受信までに時間差がある。ここにいる委員長たちが、ここにいない誰かが、44分に届くよう狙って送っているのだろう。件名に『呪』と書かれたメールで、私の携帯は埋め尽くされる。


 靴を隠される。教科書を破かれる。提出物を捨てられる。みんな、外面は良いこの委員長が、クラスの女子たちに指示してやらせていること。

「ブス」

「気持ち悪い」

「学校来んな」

「何で生きてんの?」

 他人には聞こえないように、しかし私には聞こえるように、女子たちからすれ違いざまに浴びせられる言葉が、携帯に溜まるメールのように、私の心を埋め尽くしていく。


 4時44分を過ぎても、私の携帯は、メールを受信し続ける。


 件名:呪

 件名:呪

 件名:呪

 件名:呪

 件名:呪


 読まなくたって、充分に私は、呪われている。

「メールの見方忘れた? あたしが開いてあげようか?」

 私の手から携帯を奪い、勝手に操作する委員長。

 もう、私、呪われているんだもの。だから、これも、呪いのせい。


「ほら、開いたよ」


 その瞬間、私は、委員長の腹に、隠し持っていたカッターナイフを突き立てた。

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