第10話 俺は旅に出た

 そういうわけで、俺は旅に出た。

 数ヵ月かけて、超大国から小さな島国まで、ありとあらゆる国と地域を駆け巡った。

 最も衝撃を受けたのは、貧国のスラム街や紛争地域に暮らす人々の様子だった。

 奴隷なんてもんじゃない。

 栄養失調や感染病で人が虫のようにバタバタ死んでいく。

 誇りも尊厳もない。

 生き延びたければ奪うしかない、殺すしかない。

 そんな地獄を見た。

 俺は自分の生活がいかに贅沢だったかを思い知った。

 同時に、これほど便利で豊かな生活をしているのに、ちっとも幸せと感じないことを不思議に思った。

 世界には、決して裕福とは言えないが幸せそうに暮らす人々もたくさんいた。

 例えば、南米やアフリカで今も原始的な生活を営む少数部族だ。

 そこにはテレビもパソコンも携帯電話もない。選挙権も職業選択の自由もない。

 それでも、彼らは彼らなりに人生を楽しんでいた。

 少なくとも俺なんかよりずっと……。

 なぁ、毎日遅くまで働く社会人の皆さん。

 あんたらはいったい何のために死にもの狂いで働いてるんだ?

 幸せになりたいという想いはそこにあるのか?

 ほとんど強迫観念だけで働いてないか?

 少し前までの俺はそうだったよ。

 完全に空回りだった。

 人間のためにあるはずの仕事が、仕事のための人間になっていた。

 本末転倒だった。

 それに気付いたのが、この旅の一番の収穫だった。

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