第7話 俺を咎める者はいない

 それから何時間経ったろうか。俺は天にも昇るような心地よい眠りから覚めた。

 驚くほどスッキリした目覚めだった。

 まぶたが軽い。こんなの初めてだ。

 一瞬、もしかしたらすべてが夢だったのではないかと不安になり、また目覚まし時計を浮かせてみる。

 ――浮いた。これは現実だ。

 ならば次は温泉だ。朝風呂だ(もう昼近い時間だけど)。

 俺は、他に客のいない静かな温泉に瞬間移動するよう念じてみる。

 着いた先は、いかにも秘境といった感じの天然温泉だった。

 客はもちろん、従業員もいない。

 一応、脱衣場みたいなところはある。

 それ以外に人工物はない、大自然の真っ只中に沸いた温泉だ。

 風が冷たい。まだそこかしこに雪が残っている。

 どこかの山中か。もしかしたら日本ではないかもしれない。

 なんにせよ、温泉に入るにはちょうどいい。

 俺は服を脱ぎ捨て、湯に浸かった。

「はぁぁ……」

 溜まりに溜まった疲労と毒素が体内から溶け出していく。

 手足が伸ばせる風呂なんて久しぶりだ。安アパートの小さな風呂桶とは全然違う。

 しばらく浸かっているうちに喉が乾いてきた。

 なんか飲むか。

 俺は湯に浸かったまま冷たいフルーツ牛乳を出し、一気に飲み干した。

 ふはは、温泉の中で飲むとは何という暴挙!

 だが、ここに俺を咎める者はいない。俺は自由だ!

 ……はぁ。

 なんだか虚しくて、ため息をつく。

 俺ってちっぽけだな。

 その気になれば全世界を支配できる力があるってのに、こんなことで喜んでるとは。

 まあでも、その方がいいか。人間の欲望には際限がないからな。いきなり大きいことをやると、すぐ飽きてやることなくなっちゃうからな。

 しばらくは、ちょっとした贅沢を楽しむとしよう。

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