第2話 もし生まれ変わることがあるなら
ある日、仕事で失敗した。
「この、ばかやろうが!」
上司は俺の顔を殴った上で、こう言った。
「お前が出した損失の分は、お前の給料から引かせてもらうからな!」
理性が吹き飛びそうになるのをグッと堪え、せめて一矢報いようと俺は返す。
「だったら、今まで俺に支払われるはずだった残業代から引いてください。充分足りるはずです」
「うるせぇ!」
上司は再び俺を殴った。
口の中に鉄みたいな生臭さが広がった。
さすがに我慢の限界だった。
俺は上司を殴り返そうとした。
途端、周囲に止められた。上司は止めなかったくせに。
あまりにも腹が立ったので、無断で家に帰ってやった。
後日、会社は俺を減俸処分にした。暴力を振るった上司は注意だけで済んだ。
滅茶苦茶だ……。
失敗したのだって元はといえば過労が原因なのに、すべて俺が悪いときた。
どう考えてもまともじゃない。もう先のことなんて知るか!
俺は人生で最大の勇気を振り絞り、辞表を提出した。
だが、会社はそれすらも認めなかった。死ぬまで俺をコキ使うつもりらしい。
もちろん、しかるべき手順を踏めば退職は可能だが、その後どうする?
大学の時よりさらに厳しい条件で就職活動をして、まともな会社に入れるのか?
幸せになれるのか?
もう面倒だ。
死のう。
俺は遺書に、この会社の悪事を思い出せるだけ書いて、人生を終わらせることにした。
死人の言葉は偉大だ。この会社もただでは済むまい。こんな小さな会社一つ潰したところで世の中は何も変わらないだろうが、俺のような小心者にはそれが精一杯だ。
もし生まれ変わることがあるなら、今度こそ幸せになりたいなぁ……。
俺はオフィスビルの屋上から飛び降りた。
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