藤と花
友人がいよいよ危篤と聞いて駆けつけた。
長患いの彼はいつものように座敷で横になっていた
だが、顔色こそ悪いがケロリとして私をからかうのである。
「おや、香典でも持ってきたか」
「バカ言え、なんだ、元気そうじゃないか」
「なに、このぐらいなんともないさ」
「なんだ、だがよかった。報せを聞いたときは肝をつぶしたよ」
「おいおい実は喜んだんじゃあないだろうな?」
「ははは、実はな、と言ったらどうする」
「化けて出てやるさ、毎晩金縛りだ」
「そりゃ恐ろしいな、ははは」
しばらく話をした。
しかし彼は、死にゆくのだと分かった。
「なぁ、聞いていいか」
「なんだ」
「こんなことを聞くのは本当は許されない、だが、お前だから聞く」
「勿体ぶるなよ」
「死ぬとひとはどこへ行くのだろうか」
「ははは、どこぞの文豪同士の会話ようだ」
「すまない、だが死に一番近いおまえなら、きっと、
少なくとも俺よりそれが分かるんじゃあないかと」
「いいさ、だが俺にもわからんな、地獄かもなぁ」
「お前が地獄なら俺はどうなる」
「さぁ、俺が死んだら地獄のその下を見てきてやるよ」
時計の針の音がする。
その会話は静かであった。
「なぁ、おれは」
「おれはおまえのことを」
「なぁ」
「俺はお前のことを愛してやれただろうか」
「死ぬと人はどこへいくんだ」
「俺はそれがわからないんだ」
「なぁ、俺は」
友人はくらいくらい箱にいれられてしまった。
けむりをしばらく見ていたが、結局最後までわからなかった。
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