第3話
一週間待った。
澤木さんが私のアパートに泊まる日。
夜に駅前で待ち合わせ。
いつも混んでいるおしゃれなカフェの前に九時。
でも、約束の時間になっても澤木さんは来ない。
「さむっ」
ぼそっと小さく呟くと白い息が出た。
[澤木さん、仕事お疲れ様。カフェの前にいます。]
もうメールは他人行儀ではなくなった。
今日は、ちょっとだけおしゃれしてみている。
[ごめん、今仕事終わった。急いで向かってる。]
人を待つのはドキドキする。
澤木さんを待つのは、もっとドキドキしている。
最近はだいぶ心身のバランスがとれてきている。
通院して薬を飲んでいるし、ひとり暮らしでも案外だらけない(今のところ)自分を毎日褒めている。
そうやって逃げたいものから逃げて、新しい自分に会って、私は私を取り戻した。
取り戻したのは、私が好きな自分だった。
常識は持ってるよ。
元々個性的な性格してるなとは自覚してる。
ちょっと羽目を外したいだけ。
夜中に家を抜け出して友達と星を見に行ったり、
中学校の時にトイレで冷や汗をびっしょりかきながらピアスを開けたり、
家に帰るのが遅くなったり。
そういう年頃?そういう性格?んー、両方重なってると思うな。
その度親に怒られる。もう慣れっこだけど。
そういう突飛的な行動達も私が選んだ今の状況も、親が言う"普通"とはかけ離れている。
でもいいの。
うまくいえないけど、そういう自分が私を作るの。
だから、その私が選んだ道も、間違いじゃないのよ。
後悔なんて私が私にさせないよ。
[もうすぐ着くよ]
[気を付けてね]
携帯電話をかばんにしまってあたりを見ると、澤木さんがこちらに走ってくるのが見えた。
メールしてから登場までが早くて思わず口角がふっと上がる。
澤木さんが近づいてくるのを見て、口元が緩んでにやけてしまう。
「お疲れ様、澤木さん」
「ごめんお待たせ!」
澤木さんの手をとると、ギンギンに冷えていた。
コートの袖からちらっと見えた腕時計の針は、九時二十分をさしていた。
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