饒舌なる死者7話目

 忌まわしい過去を封印している俺にとって、この町の同級生たちとは極力会いたくなかった。誰かの口から過去の話が漏れることを警戒していたからだ。

 小さな町であの事件は衝撃だった、時間が経過したからといって……おいそれと忘れてはくれないだろう。だから帰省中も知人には会わないように気をつけていた。

 それが東京の大学時代から交流がある、この町の出身者につい結婚の件を打ち明けてしまい、アメリカに移住する予定だと話したら、「おまえが日本に居る間に、是非、同窓会をやろう!」と強く押して来られた。

 最初は固辞したが、あんまり断わり続けるとを気にしてるせいかと勘繰かんぐられそうで、いずれ結婚したら、日本ともオサラバするし、これが最後だから、まあいいかなあーという甘い考えがあった。――それと、あの古賀真司こが しんじが現在どうしているのか気になっていたからだ。

 あれから十年も過ぎたのだから、もう立ち直って普通の生活をしているのではないかと思っていたら……同窓会の席でいきなり、古賀の自殺を聴かされて動揺してしまった。

 しかし、由利亜の自殺を引きずって十年も引きこもっていたなんて異常だし、大人だったら、いい加減に乗り越えていってしかるべきだと俺は思う。

 ツマラナイ奴だ! あんな男は死んだ方が世の中のためだと心底思った。


 さっそく綾奈からメールがきた。

 シティーホテルの名前が書いてあり、八時に待っていると書いてあった。

 実家に帰っているが、面倒くさい親戚の家へ結婚の挨拶などに連れて行かれて、ウンザリしていた俺にはいい気晴らしになる。――結婚したら、当分は浮気もできないだろうし、今の間に遊んでおこうと思っていたのだ。

 俺は綾奈に指定されたシティーホテルへ向かった。

『先に部屋で待ってる』と綾奈からメールが届いたので、ホテルのロビーから返信して、もうすぐ着くので、部屋の鍵を開けて置いてくれと指示した。

 あの男好きの人妻は割り切った関係なら、最高のセフレだと俺は思っている。結婚までの関係だけど、このまま手放すには惜しい女だ――。

 指定された部屋の前に立って、軽くノックしてから中へ入っていった。

 さすが、一流のシティーホテルだけあって、インテリアもロココ調で豪華な感じだった。室内はキングサイズのベッドとテーブルとソファーが置かれている。綾奈は猫足付きの真紅のソファーに毛皮のコートを着て長々と寝そべっていた。

なぜ、室内なのに毛皮のコートを着ているんだろう? 疑問に思いながら挨拶をしたら……綾奈は気だるそうに軽く手を振り、ウフフと小悪魔みたいな笑みを漏らして……コートの合わせをパッと開いて見せた。なんと! 中は一糸纏いっしまとわぬ全裸だった。

――いきなりの彼女の挑発行動に俺は面喰った。


「なにもしちゃあダメよ。あなたは見ているだけ……」

 綾奈は片足をソファーの背に乗せて、女性器を露わに晒した。

 そして、取り出したバイブレーターでオナニーを始めた。ウィンウィンとうねるバイブが女性器の中へ挿入されていくと、綾奈は喘ぎ声を漏らし、のけ反って腰をくねらせ始めた。

 俺はオナニーする女性をリアルで見たのは初めてだったので、すごく興奮して、ズボンの中のペニスがいきり立っていた。やがて、綾奈はよがり声を上げてイッてしまったようだった。オーガズムの最中に何か、うわ言のようなことを喋っていたが……それは誰かの名前みたいだったが、よく聴き取れなかった。

 オーガズムの後、ソファーでぐったりと上気した彼女に、ズボンを下ろして、今度は俺の性器で責めてやる。イッたばかりの女の性器はぐっしょりと濡れていて、とても敏感になっているので、すぐさまのセックスを拒んでいだが……耳の裏から首筋、乳首などの他の性感帯を刺激してやったら、やがて、気持ちよくなって――俺の服を脱がせ出した。

 ふたりは全裸になってソファーの上でセックスを始めた。

 座った俺の上に綾奈がまたがり腰を動かした。膣の奥までペニスが入るので気持ちいいと、ポルチオに強い性感を得ているのか、何度もよがり声を上げて、彼女はオーガズムに達した。

 絶頂感で俺の背中に猫みたいに爪を立てられた。たぶん背中は爪跡で血が滲んでいることだろう。もうすぐ、婚約者が日本にくるというのに……この背中の傷はマズイ! 俺がそのことで綾奈に怒ったら、「興奮しちゃって、ゴメンなさい……」と言いながら、俺の背中の傷口を猫みたいにペロペロ舐めてくれた。――少し、血の匂いがする。


 綾奈が持ってきた赤ワインを、お互いの口移しで飲んで気持ち良くなった俺たちは、キングサイズのベッドの上で激しいセックスをした。アルコールと心地よい疲労感で眠ってしまった。それは快楽の後の気を失うような眠りだった――。

 ふいに目を覚まし、携帯の時計を見たら小一時間は眠っていたようだ。傍らの綾奈を見たら、シーツに包まったまま、静かに寝息を立てていたので……そっと起き上がり、俺はシャワーを浴びにいった。

 背中の傷が気になったので、シャワールームの鏡で見たら……結構、ヒドイことになっていた。この傷がバレないように婚約者とセックスするのは難しそうだ。後、三日でナオミがアメリカから俺に会いにくるというのに――。

 シャワールームから出たら、いつの間にか綾奈の姿がなかった。

 俺がシャワーを浴びている最中に帰ったようだ。挨拶もなく、急に帰るのはオカシイと思ったが、人妻なので……何か、のっぴきならぬ事情ができたのだろうと憶測した。

 ベッドの乱れたシーツを見て、妻は貞淑、愛人は淫乱に尽きるとほくそ笑む、それほど綾奈とのセックスは刺激的だった。シーツを直そうと中をまくったら、ピンクのガーベラが一輪置かれてあった。

 その花を手に取って眺めていたら、フラッシュバックして、遠い過去の嫌な思い出が俺の脳裏に浮き上がってきた。――なぜ? 綾奈がこんなものを……不思議で仕方なかった。

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