饒舌なる死者6話目
十年振りに参加した高校の同窓会、二次会の居酒屋で同級生だった
最初見た時は、誰だか全然分からなかった。――竹田綾奈なんて、俺の記憶に残っていなかったからだ。教室の隅っこで、一人でポツンと居るような大人しい子だという印象だったが……十年振りに会った綾奈は、そのイメージから大きく
人目を惹くような美人に、彼女は変身していたのだ。
ギャル風の派手な化粧、茶色のロン髪を縦巻きロールにして、身体の曲線にピッタリ沿ったスリットの入りの黒いワンピースとシャネルのバッグ。首の襟開きが広く、ちょっと俯くだけで豊満な胸の谷間が露わに見える。身体中からプンプン匂う、シャネル№5は扇情的だった。――まさに、喰ってくれとアピールしているよう女だった。
「あたしさぁー、高校の時、憧れてたんだよ」
そう言いながら腕を絡めてきた。
「俺に?」
「そう……。頭イイしカッコ良くて、女子にモテモテだったでしょう?」
「そうかなあー」
高校時代から俺はモテてたが、そんな風に言われると満更でもない。
「あんときは近づけなくて……悔しかったわ」
「あははっ」
「でも、会えてウレシイー」
腕に豊満な胸を圧しつけてくる、そして俺の太ももの辺りを摩ってきた。明らかに挑発している行為だ。これだけの美女に誘われて断われる男はそうはいないだろう。
綾奈の身の上話だと――結婚しているけれど、夫が商社に勤めていて海外出張が多く、子どももいないので、独りぼっちで寂しいのだという。
今日は憧れのこの俺に会えるから、お洒落して同窓会に参加したと言っていた。
二次会の席から、俺たちはさっさと姿をくらまし、
地元で一番賑やかな繁華街の少し外れた場所には、お決まりのようにラブホテルのナオンが煌めいている。そのひとつに俺たちはしけ込んだ。
夫が留守がちで、男ひでりだった綾奈は、最初から驚くほど積極的で……むしろ、俺の方が面喰ってしまうくらいだった。
男を楽しませるテクニックをいろいろ知っていて、しかもピルを服用しているというからコンドーム無しで、存分にセックスを楽しむことができた。彼女の
まるで女吸血鬼カミーラみたいに、俺の精気を吸い取られるかと思うほどだった。
綾奈は目を惹くほどの美人だし、男好きの淫乱だし、持ち物もブランド品ばかりで裕福そうに見える。――この女は、かなり遊んでいる人妻だと俺は踏んだ。
情事の後、綾奈が俺に「お互いに割り切った関係を続けたい」と、メルアドを書いたメモを渡したので、そのメルアドに即座に返信して俺の連絡先を教えておいた。セフレだったら、相手は人妻だし、後腐れもなさそうなので、これは美味しい話だと思い乗った。
ホテルで別れ際、ふたりはディープキスをして「近日中に、また会いたい」と、次の予約も入れた。綾奈は、ホテルからタクシーを呼んで先に部屋を出ていった。
俺の身体には、いつまでも彼女の匂いシャネル№5が纏わりついてとれない。もう一度シャワーを浴びてからホテルを出ることにする。
――俺は長い間、郷里に帰ることを拒否してきた。
あの事件の後、東京の有名大学に入学して、そのまま東京の人間になった。月々の親の仕送りの他に、家庭教師のアルバイト先で知り合った生徒の母親たちと親密な関係になり、月に二、三回人妻相手にセックスをするセフレ契約をして、大学卒業まで結構な小遣いを稼いできた。
大学三年では、同じ大学の女子大生と同棲していたが、しつこく結婚を迫られて困っていたら、大学のコンパの帰りに歩道橋の階段から転落して亡くなった。かなり酔っていたので事故ということで、その事件は片付けられた。
それにしても同棲していた女に死なれるなんて、後味の悪い事件だったが、死んだのなら後腐れもないし……前にあんな事件があっただけに、二度と失敗をしないように女の捨て方には用心していた俺だから、厄介払いができたと内心ホッとしたことは確かだ。
大学卒業後、一流企業に就職した俺は三年間の海外転勤を終えて、今年から本社の重要ポストに就くことになっていた。――まさに、出世コースに乗った訳である。
その上、俺は結婚する予定になっている。
今度こそは遊びではなく、本気で結婚を考えているのだ。婚約者の名前はナオミ・ミヤシタという。転勤先のサンフランシスコで知り合った日系二世の女性で、両親は純然たる日本人だが、彼女はアメリカ生まれのキャリアウーマンで弁護士の資格を持っている。家庭も裕福で両親は地元の日本人会の名士でもある。
仕事も頭もきれる彼女は、まさに理想のパートナーだと言えよう。
この冴えない町に、十年振りに俺が帰省した理由は、親に婚約の報告をするためと、彼女が俺の両親にも挨拶がしたいと言うからなのだ。長い海外転勤を終えたばかりなので、二週間ほど休暇を取ってある。アメリカの仕事が片付き次第、日本に居る俺に会うため来日するという婚約者を今は待っている状況なのだ。
ナオミと結婚したら会社を辞めて、彼女の両親がやっている日本料理のチェーン店を手伝う予定だから、いずれ国籍を取ってアメリカに移住するつもりだ。
この結婚は俺にとって、『アメリカンドリーム』へ近づくため手段であり、その第一歩だった。
俺の目の前には、
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