神殿と召喚

「お母様! さっきの魔法はいくらなんでもやりすぎです! お父様から庭に行ったと聞かされて、嫌な予感がしたから走ってきてみれば案の定!」

「ちゃんと加減はしてたわよ・・・・・・」


 エルに怒られて、エリスさんが珍しく困った顔をしている。


 俺はというと、情けないことに地面に尻もちをついて立てなくなっていた。

 かっこ悪い所を見られたという恥ずかしさもあるが、今は命があったことに感謝だ。


「ユーリ大丈夫?」

「ありがとうエル、大丈夫だよ」


 それにしても、あの水の塊はエルの魔法かな?

 あれがなかったら今頃丸焦げだったかもしれない。

 それにしても、本格的な魔法ってすごいんだな。

 氷の槍やら炎の塊やらをぽんぽん撃てるなら、戦闘に関してなら大抵の事はなんとかなりそうな気がする。


「それで、ユーリ君は私と戦って魔法についてなにか感じた事はある?」

「魔法についての脅威はもちろんなんですけど、それとは別に魔法について疑問が一つ」

「なにかしら?」

「俺は生活魔法を一回使うだけで結構疲れてしまったんですが、なんでエリスさんは魔法を使い続けても疲れないんですか?」


 俺の質問に、エリスさんは嬉しそうに笑う。


「いい所に目をつけたわね。それは私自身の体内魔力量が多いのもあるけど、一番の理由としては複数の精霊から加護を受けてさらに契約を済ませているからよ」


 たしか、直接自分の体に加護を受けると、本格的な魔法を使えるようになるとは聞いてたけど・・・・・・契約ってなんだ? それに体内魔力量っていうのも気になるな。

 精霊と契約するとさっきのように魔法を何度も使えるようになるのか?


「体内魔力量と契約とはなんですか?」

「まず私達は体内に魔法を使うために必要な魔力というものを持っているわ、通常は精霊から直接加護を受けて魔法を使うわけだけど、それだと魔法を使うのに自身の体内魔力を消費してしまうのよ。だから精霊と契約して精霊の魔力を借りたり、精霊の力で空気中の魔素を魔力に変換することによって、魔法をたくさん使っても体内魔力が減らないようにするの」


 エリスさんの説明を聞いて魔法についての仕組みは大体理解できたわけだが、さらなる疑問が生まれる。


「体内魔力というのは、使いすぎるとどうなりますか?」

「最悪は死ぬわね。生活魔法一回で疲労するユーリ君は、人より体内魔力量が少ないのはあきらかだし、魔法を使いたければ精霊と契約するしかないわね」

「精霊と契約するにはどうしたらいいですか?」

「今から神殿に行って、そこで精霊に気に入ってもらえればいいだけよ」


 嬉しそうに話すエリスさんだったが、隣で頭を抱えるエルを見る限り、精霊と契約するのはそんなに簡単な話ではないのだろう。

 それにしても、エリスさんは魔法について嬉しそうに話すんだなぁ。

 初めて会ったときは美人で優しい人だなと思ったけど、魔法について嬉しそうに話すエリスさんを見るとなんだか可愛い人だなと思ってしまう。


「魔法についてわかったところで、今から神殿に行ってユーリに精霊を呼び出してもらいましょうか」


 子供のような笑顔で庭を出て行くエリスさんとは対照的に、頭を抱えながら溜息をつくエルを見て少し不安な気持ちになったが、今さらなにを言ってもエリスさんが考えを変えることはないとわかっているので、大人しく庭を出てエリスさんについて行くことにした。




 城を出た後、エルとエリスさんと一緒に大通りを歩く。

 さすがに、いろいろな人がエルとエリスさんを見て驚いていたが、女王と王女が揃って街を歩いているのだからそれも仕方ないと思う。

 大通りを少し歩いて行くと、初めて王城に向う途中に見たおごそかな雰囲気の神殿のような建物の前でエリスさんが立ち止まる。


「ここが魔法を使うために精霊を呼び出す神殿よ」


 そう言いながら笑顔で神殿の中に入っていくエリスさんの後についてエルと一緒に中に入る。

 建物に入ってすぐ、奥にある大きな扉が目に飛び込んでくる。

 建物の中は大きな扉以外に目立ったものはなく、とても簡素な作りになっていた。


「ここが神殿ですか?」

「そうよ! あの扉をくぐった先で精霊を呼び出して加護を受けるなり契約するなりするのよ!」


 俺の質問に嬉しそうに返した後、エリスさんはさっさと扉の前まで行ってしまう。


「エル、なんでエリスさんはこんなにテンションが高いの?」

「お母様は、魔法のことになると人が変わるのよ。気にしないであげて」


 なにかを諦めた顔をしているエルを見て苦労してるんだなと思ったが、口には出さずエルと一緒に扉に向う。

 エリスさんに追いついた後、壁にあるレバーを引いて大きな扉を開けると、そこには天井も壁も真っ白な広い空間があった。

 見た事ない空間に驚きながらも、室内をよく見ると部屋の真ん中あたり床がキラキラと光り輝いていた。


「それじゃあユーリ、さっそく始めましょうか」


 エリスさんはそう言いながら俺の手を引き、キラキラと光る床の上に俺を立たせる。


「それで、俺はなにをしたらいいですか?」

「そこに立っているだけでいいわよ?」


 これからなにが始まるかわからず不安な俺をよそに、楽しそうな顔をするエリスさん。

 立っているだけでいいって言われても、ここに立っているとなにが起こるんだ?

 精霊の加護を直接受けるって言ってたけど、こんな簡単にできるならみんな魔法を使えるようになるんじゃないのか?

 それにしてもエリスさんは本当に楽しそうだな。

 そんなことを考えていると、床の光がどんどん強くなり突然疲労感が襲ってくる。


 「エリスさん? なんだかここに立っているとすごい疲れるんですけど」

 「大丈夫よ! 体内魔力を吸われてるだけだから!」


 エリスさんは大丈夫だと言うけれど、だんだん体に力が入らなくなってくる。

 これやばいぞ、なんというか体を動かすエネルギーをどんどん吸われていってる感覚だ。

 体の疲労感が増すにつれ、床の光がどんどん強くなる。

 そして、立っていられないほどの疲労感に襲われ俺が床に座りこむと、床が一度大きく発光してエネルギーを吸われる感覚がなくなった。


 終わったのか? そう思いながら顔をあげると、そこには綺麗な緑色の髪をした小さな女の子が立っていた。


「あなたはだれ・・・・・・です?」


 俺を見ながら女の子が首をかしげる。


「えっと、俺はユーリ。君は?」

「わたしのなまえはリア=シルフ=レーベン・・・・・・です。かぜのだいせいれいとよばれています・・・・・・です」


 女の子は恥ずかしそうにしながらも自己紹介をしてくれた。

 恥ずかしそうにもじもじしている女の子から目線をはずし、エリスさんとエルを方を見ると二人は驚いた表情で、こちらを見ながら固まっていた。

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