猫の隠れ家Ⅰ
「シオンさん、俺が住める家はどこら辺にあるんですか?」
王城を出てからしばらくして、なんとなく家の場所を聞いてみた。
「んーそうだねぇ、街はずれにある猫の隠れ家という宿屋は知っているかい?」
知っているもなにも、そこはヤンさんと一緒に泊まっていた宿屋だ。
朝もそこから出て王城に行ったのだから知らないはずがない。
「知っています、というか今日もそこから王城に行ったので」
俺がそう言うとシオンさんが、驚いた顔をする。
「そうか、なら話しが早いね。そこが今日から君の家だ」
シオンさんの答えに頭が混乱する。
住む家って宿? いやいや、宿に住むにしても俺はお金を持ってない。
それ以前にまだお金のことについてすらわかってないのに、いきなり宿が今日から家だと言われても困る。
俺がそんなことを考えながら唸っていると、問題の宿についてしまった。
「ヘレナ、いるかい?」
シオンさんが扉を開けて、宿の中に入っていく。
まだ頭が混乱したままの俺は、とりあえずシオンさんの後ろについて宿に入る。
「あらシオンさん、久しぶり。今日はどうしたの?」
ヘレナさんは、シオンさんと笑顔で話しをしている。
二人の様子を黙って見ていると、ヘレナさんと目が合ってしまう。
「ユーリ君? どうしてシオンさんと一緒にいるの?」
ヘレナさんが不思議そうに尋ねてくる。
俺もなぜヘレナさんがシオンさんと知り合いなのか聞きたいですよ!っと言ってしまいそうだったがとりあえず我慢する。
俺も聞きたいことたくさんあったが、まだ考えがまとまっていないので、とりあえず俺自身の事を説明した。
「あら~ユーリ君は、ヴィルさんの息子さんだったの? どうりでユウナさんに似ていると思ったわ」
父さんと母さんの事知ってるのかよ! と突っ込みたくなったが話しが進まなくなるので堪える。
「それにしても、ヘレナがユーリと知り合いだったのは僕も驚いたよ」
シオンさんが椅子に座りながら、ヘレナさんと話している。
「それで! ここが今日から俺の家ってどういう事か説明してもらえますか? あと、ヘレナさんがなんで父さん達の事を知ってるのかも!」
俺がそう言うとシオンさんとヘレナさんが事情を話してくれた。
全て話すと長くなるので簡単に説明するとこういう事らしい。
父さんが若い頃、この国は亜人に対しての差別があった。
亜人がこの国に来ても、泊まる所も食事をする所も全て亜人はお断りだったそうだ。
だけど、父さんは亜人だからといって差別するのは間違っていると思っていたらしい。
みんなが、亜人を差別するなら自分が亜人を受け入れる場所を作ればいいと思い立った父さんは、いろいろな国を回り依頼を受けて、魔物を倒しお金を集めこの宿を立てたらしい。
そして、お金を集める旅の途中、とある街で奴隷として売られていたのがヘレナさんで、父さんはヘレナさんや他の亜人の奴隷を全て買い取ってこの宿の従業員にしたそうだ。
そして、父さんが母さんとエリスさんと世界を見て回る旅の前に、この宿の運営をヘレナさんに託して行ったたそうだ。
ちなみに、シオンさんとヘレナ知り合ったのは、父さん達が魔王を倒してこの街に戻ってきた時らしい。
なんだか一気に説明されて頭が少し混乱しているが、この宿の運営をしているのはヘレナさんだが、父さんが死んでしまった今、事実上の所有権は俺にあるということだ。
「それで、ユーリはここに住むということでいいのかい?」
説明が終わった後、シオンさんが真剣な顔で俺に質問してくる。
今のこの宿の所有権が俺にあるなら、住んでもお金は取られないだろうし、他に住むところもないので住まないという選択肢はないのだが、少し引っかかることがある。
「その前に、ヘレナさんに一つ質問いいですか?」
「あら、なぁに?」
ヘレナさんがきょとんとした顔をする。
きょとんとした顔も可愛い。
じゃなくて!
「ヘレナさんは、父さんがいなくなった後も、ずっとこの宿を守ってくれていたんですよね?」
「守っていたというのは大げさだと思うけど、そうねぇヴィルさんが私達亜人のために立ててくれた宿だもの、ヴィルさんがいつ帰ってきてもいいように、この場所を大事にしていたのはあるわねぇ」
「そんな大事な場所に、そういう事情もなにも知らない子供が住みつくのは嫌じゃないですか?」
俺がそう質問すると、ヘレナさんは一度目を瞑ってなにかを考えてから、優しく微笑み俺を抱きしめる。
俺は突然の事にびっくりして固まってしまったが、ヘレナさんの大きな胸の柔らかさと、優しくて甘い香りに体の力が抜ける。
そんな俺を抱きしめながら、ヘレナさんは静かに話し始めた。
「私はねユーリ君、ヴィルさんにとても感謝しているの。奴隷という身分から私達を救い出してくれただけじゃなく、この宿に連れてきた亜人達をヴィルさんの家族だと言ってくれたの。ヴィルさんがもうここに帰って来ないのはとても悲しいけれど、今ここに私達の新しい家族が帰ってきてくれたんだもの。家族が同じ家に住むのは当然でしょう? 遠慮なんてしないでいつまでもここにいてくれていいのよ」
そう言いながらヘレナさんは涙を流していた。
俺はヘレナさんの涙を見て黙って抱きしめられることしかできなかった。
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