王の剣技とユーリの目

 あれからシオンさんと勝負をするために、場所を王城の中の庭に移動した。

 城の中にあるというのに、ここの庭はかなりの広さだった。

 庭木は綺麗に手入れがなされており、見たことない綺麗な花々が植えられていた。


 そして今現在庭にいる俺の目の前には、木刀を持ったシオンさんが立っている。

 はぁ、なんでこんなことになった。俺はただ手紙を渡しに来ただけなのに・・・・・・。

 俺が溜息をつき天を仰いでいると、エルが真剣な表情をしながら俺の前に来る。


「いい? ユーリ。お父様はヤマトと呼ばれる一族なの手強いわよ」

「えっと、エルさん?」

「エルでいいわよ? 私はあなたの嫁になるんだもの」


 エルは笑いながら、俺の手を握ってくる。

 こんな時じゃなかったらすごく嬉しいよ?

 でも、今そんないい笑顔をしてくれても・・・・・・。


「それじゃあエル、シオンさんはどんな戦い方をするかわかる?」

「ん~~そうね、私がお父様の剣術を見たときは、お父様が消えたように見えたからよくわからなかったのよね」


 消えるように見えたか・・・・・・。

 そうなると消えているように見えるほどの速さか、魔法がある世界だし、魔法ってこともありえるか。

 魔法自体よくわからない俺には、魔法は絶対破れない。

 それ以前に、大人と子供の体格差や筋力差もあるんだし、どう頑張っても勝つのは無理だ。

 まず、シオンさんの攻撃を完璧に避けるか一撃を当てると、エルと婚約者になれるって前提がおかしい。

 俺には、娘さんをくださいと言った覚えはない。

 いっそのこと勝負自体投げ出してしまおうか。

 そんなことを、考えているとエルが俺の手を両手で強く握ってきた。


「ユーリ! 絶対にお父様に私とユーリのこと認めさせてね? 私はユーリと幸せになりたいの」


 そんな可愛い顔をしながら必死でお願いされた、頑張らない男の子はいないよね。


「でも、エル。なんでいきなり俺と結婚するなんて言い出したの?」

「ユーリを見た瞬間ビビッと来たの! ユーリと結婚しないと絶対後悔するってそう思ったの」


 これは一目惚れってやつなのか? まぁ、エルみたいな美少女に好意を寄せられて嫌な気なんてまったくしないけどさ。


「ユーリ、準備はいいかい? まず僕は魔法を一切使わない、それとハンデとして一回攻撃するたびに仕切りなおしてあげよう」


 シオンさんは、それでも余裕があるのだろう。

 まぁ、当たり前か子供相手だし。

 だけど、そんな事を言われるとムキになってしまうのが俺なのだ。

 絶対認めさせてやる。たしかに子供だけど、これでも小さい頃から父さんに剣術は教えてもらってたんだ。


「じゃあ、そろそろ始めるわよ?」


 エリスさんの言葉で木刀を構え前に出る。


「よーい、始め!」


 エリスさんの合図と共に、シオンさんの姿が視界から消える。

 それと同時に背中に寒気が走る。

 後ろ!? 振り向くと同時に木刀で頭をガードする。

 木刀から軽い衝撃が伝わってきた。


「おおーよく反応したね。怪我しないように軽めに木刀を振ったけど、これなら普通に振ってても防がれてしまったね」


 ムッとした顔をする俺を見て、シオンさんは楽しそうに笑う。


「さすがヴィルの息子だね。でも、防ぐだけじゃ避けた事にならないよ? さて次はどうかな?」


 そう言って、シオンさんは一度俺と距離をとり、また木刀を構える。


 本当に消えた。いやただ俺が見えなかっただけだ。シオンさんの速度についていけてない。

 完全に遊ばれてる。なんとか避けて終わろうかとも思ったけど、どうにか一撃当てたい。

 それにしても、どうやってあんなに速く動いてる? 魔法は使わないと言ってたから、あれはシオンさん自身のスピードだ。人間ってあんなに早く動けるのか? 


 シオンさんの動きを読むために集中する。次もまた後ろから来る? それとも前?

 そしてまたシオンさんが視界から消える。

 集中しても全然見えない! 速すぎる! 

 なんとか防ごうとしてみるが、なにもできないまま右腕に鈍い痛みが走る。


「おや? 今度は防げなかったね。 目だけで見ているうちは防ぐことは難しいだろうね」


 目だけで見ているうちはって、気配でも感じろってこと? 

 たしかに父さんと剣術の稽古してた時も部活で剣道をしてた時も、攻撃して来るってなんとなくの気配は相手の動きから読めたけど、動いた瞬間見えなくなるのに気配もくそもない。

 右腕の痛みを我慢しながら剣を構えてシオンさんを見る。


「ユーリ! 頑張って!」


 エルが心配そうな顔をしながら応援してくれる。

 会ったばかりの俺に、どうして本気でそんな顔ができるんだろうか。


「エル、僕は応援してくれないのかい?」

「お父様はもっと手加減してくれてもいいと思うわ!!」


 シオンさんはくすくすと笑っていた。


 ああ、悔しいな! 一撃当てたいけど、今の俺じゃ絶対無理だ。まずは、自分にできる事をやろう。

 今の俺にできることは全力でシオンさんの攻撃を避けることだ。

 それに相手の気配を読んで戦うなんて、それこそ達人と呼ばれる人達のレベルだろう。

 俺の今の実力じゃその領域には届かない。

 なら、どうするか。あえて見てから避ける!

 あとは、どうやって見てから避けるかが問題だ。

 そういえば父さんがなにか言っていた気がする。


 『いいかユーリ、攻撃される際に一番重要なのは全体を見ることだ。相手の武器に集中したり、体の一部分を見ていると、自分の視界の外に相手がずれた場合、見失って攻撃を避けるのも防ぐのも難しくなる。いいか、体の全体を見るんだぞ』


 全体・・・・・・。体だけではなくシオンさんの全体を見る。

 シオンさんの体が左にぶれる。

 同時に木刀で体の左側を防ぐ、すると鈍い音をたてて木刀と木刀がぶつかる。


「すごいね! 今のは完全に見て防いだね・・・・・・」


 完全に攻撃を防がれた事に、シオンさんが驚きつつもニヤリと笑い距離をとる。

 今のは見えた! 見て防げるなら、見てから避けて反撃もできるはず。

 再度剣を構えシオンさんを見つめる。


 今度はシオンさんの全体だけじゃなく、庭全体を見るくらいの意識で見る。

 この範囲を見ようと意識すると物凄い目が疲れる。

 集中しろ! ギリギリまで引きつけてから・・・・・・。

 シオンさんの姿がぶれると同時に、体を半身にしつつ右に避ける。

 それと同時に木刀を振り下ろす。

 手応えあり! そう思ったが俺の木刀はシオンさんに当たる事はなく木刀で受けられていた。


「ユーリは素晴らしい目を持っているね。ここまでとは思わなかった」


 俺の攻撃を木刀で防ぎながらシオンさんは笑う。

 くっそ! 絶対当たったと思ったのに。

 俺が悔しそうな顔をしていると、横からエルがものすごい勢いで抱き付いて来る。


「ユーリ! 本当にすごいわ!」

「エル、喜んでくれるのは嬉しいんだけど、もう少し優しく抱き付いてくれても良かったのに」


 突然横からタックルのように抱きつかれたせいで、支えきれず倒れてしまった。 

 そのおかげで、エルのやわらかい部分が当たっているのでよしとしよう。


「いやぁ、ユーリはすごいね。僕の攻撃を目で見て避けたのもすごいけど、反撃までしてくるのは予想外だったな。さすがはヴィルの息子だね。娘の事よろしくお願いするよ」


 シオンさんはエルに押し倒されている俺を見て、本当に嬉しそうに笑っている。

 待てよ? あれだけ反対してたのにあっさりと引きすぎじゃないか?

 エリスさんの元に戻ったシオンさんを見ると、二人はこっちを微笑ましいものを見る目で見て庭を出て行った。


「・・・・・・なるほどね」


 俺がそう呟くとエルが不思議そうな顔をして「なにが?」と聞いてきた。

 なんでもないよと言ってからエルを降ろし、庭を出てシオンさん達の後を追って歩く。

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