神様と彼と死
逸川しゃらく
最初から最後まで。
むかしむかーし、そのまた昔。
とてもとても信心深く、とてもとても賢い人がいたそうな。
彼は神官様に尋ねた。
「神様とは一体何なのです」
神官様は答えた。
「神様とは、この世の全てを作りたもうた存在です」
神官様は、神様と、神様の作った世界について色々と教えてくれた。
それを聞いた彼は考えた。
神様は何故この世を作ったのだろうかと。
彼は神様を信じていた。
だからこそ、彼は神様の意図が知りたかった。
何故、神様はこの世界を、この私を作ったのだろう?
この疑問に答えは無かった。
しかし、彼はとある名案を思いつく。
「この世の仕組みを全て理解出来れば、少しは神様の考え方が分かるんじゃないだろうか」と。
彼は、この世の全てを研究し始めた。
なぜ風は吹くのだろう。
なぜ星は瞬くのだろう。
なぜ犬は四つ足なのだろう。
なぜ人は生まれたのだろう。
彼は尽きない疑問と戦い続けた。
そして、はたと気がついた。
「神官様の言う【神様】は、この世を作った神様と考え方が違っている」
彼は神官様にその事を言った。
「神官様、あなたの言うことは間違っています。神様はあなたの言うような世界を作っておりません」
神官様は穏やかに答える。
「そんなことはありません。神様はこの世を作りました。何故そのような事を言うのです?」
彼は、神官様に研究の成果を見せた。
その研究の成果をまとめた紙を見せて、彼は言った。
「ほら、貴方の言っている事とだいぶ違っております。だから、貴方の言う【神様】は、この世を作った方とは別の方です」
神官様は、研究成果の載った紙を床に叩きつけた。
「こんな考え方は異端だ。私は神の意志を汲む者だ。間違っているはずがない!」
彼は研究成果を拾い上げようと、屈み込んだ。
神官様は、彼を見下ろしながら言った。
「破門です。貴方は、私を侮辱した。これは神様を侮辱した事と同じなのです。地獄に堕ちますよ」
彼は、研究成果を大事に抱えて、真っ直ぐ神官様の目を見た。
神官様の目は、侮蔑と憎悪に満ちていた。
彼は言った。
「構いません。私は貴方を信じたのではありません。わたしは神様を信じていたのです。わたしは神様の意思を汲んで、神様を見つけます」
彼は神官様が何か言う前に立ち去った。
それから何年経っただろうか。
彼は神様を探し続けている。
それでも、神様は見つからない。
神様が残した「この世の謎」はあまりに多すぎた。
思いつく限りの謎を解明し終わったころには、彼はすっかりおじいさんになっていた。
おじいさんになった彼は、ベッドに横たわって考えた。
「神様は一体何を考えてこの世を作ったのだろうか。たくさん勉強して、たくさん研究して、色々なことがわかったが、それだけはどうしてもわからない」
彼は、「あっ」と声を漏らした。
「そうだ、まだ分かっていないことがあった」
「なんだ、そうか、そういうことか……」
彼は呟いて、大きなため息をついた。
そのため息を最後に、彼は二度と息をすることはなかった。
彼が最後に残した疑問は「死ぬことは何か」だった。
彼が神様の考えを理解出来たかは、誰にも分からない。
神様と彼と死 逸川しゃらく @itukawa_syaraku
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