料理が味を失った日

<料理人>の不遇は、割と早いうちに運営の方に届いていた。

そして運営の方でも、幾つかのアイディアが出ており、その中で採用されたアイディアは、このようなものであった。


すなわち、現在の料理アイテムによるNPCの好感度上昇を削除して、レベル50以上の料理に長時間の能力強化を与えるというものであった。


これはPC達には諸手を挙げて受け入れられた。長時間効果を持つ強化は、割と特徴として強いものであったし、戦闘で役立つ料理というのはそれだけで大規模ギルドからすれば効率の良い稼ぎになるのは目に見えてわかることだからだ。


例えば攻撃力が10%上がれば、敵を倒す速度を10%上昇させることができるからだ。

他にも常時回復や防御力上昇なら回復薬の負担も減るし、移動力上昇ならリポップする敵を素早く倒すことができるようになる。


PC達に有利になるシステムにわりと好意的な意見が会社の方には寄せられた。


にゃん太が属しているギルド『ねこまんま』のギルドルーム。

『にゃん太。運営からのメール見たか?』

『確かに見ましたにゃ。』

『これで、料理人も日の目も見るようになるな。』

『そうだぜ、NPCの好感度ってあまり高くても問題だしな(この時期、NPCの好感度が低いことで発生するイベントが存在した、がペナルティの意味がなくなるためわずか数か月で廃止された。この時のPKプレイヤーの阿鼻叫喚っぷりは伝説に残るほどであった。)』

『レイド(大人数におよぶ特殊な戦闘)には料理人を連れていくのが常識になってくるだろうな。』

『ふむ、吾輩、このアップデートは少々納得のいかないものがありますのにゃ。』

『納得がいかねえだと?』

そこでにゃん太は自分の言葉を紡ぐ。

『料理は単なる薬とは違うにゃ。日々の糧として食べていくものですにゃ。

 このアップデートは、食品を薬品と同じように扱うことになるのにゃ。

 それと何を使って何を作っても同じ反応しか返さないというのはとてもおかしな話ですにゃ。』

『なるほどな。』

その言葉に一人が呟く。ギルド『ねこまんま』のギルドマスター、玉三郎だ。

『美味しい料理、まずい料理、色々あるのはよくわかるぜ。

 だけど、俺達は運営の作ったレシピでしか物が作れないんだ。

 まさか、エルダー・テイルの中で物を俺達の手で加工するわけにはいかないだろ?』

楽しそうに玉三郎はそう言う。

『自分で加工できたら、ゲームとしていろいろ大変だろ?』

『美味しい食事にちょっとした手間は必要だにゃ。』

にゃん太はそういって反論する。


そう、それは食事を薬に変える選択であった。

料理に味がついていた事を冒険者もNPCも忘れたかのように設定がなされたのだった。

19年(228年)後。それは味のしない料理として冒険者達の身に降り注ぐことになるのだが、そんな事を知らない冒険者達はのんきにわいわいと話し合っていた(なお、この時素材アイテムは、設定を変更されずにすんでいる。これは、素材アイテムは売り買いが予想される為、ある程度の反応の変化が必要であったからである。)


『もし、できれば自分の手で向こうの物を料理してみますのにゃ。』

『そいつは面白いな!』

メンバーがどっと笑う。この約束が、まさか実際に行われるとはまだ誰も思ってはいなかった。


そしてこの約束がアキバを救うことになるのだが、まあそのあたりはすっ飛ばしておこう。


それは楽しい日々であった。ネットの中だけの楽しい会話空間。

みなそれがずっと続くと思っていた。

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