<エルダー・テイル>バニラ
発売日とその次の日
<エルダー・テイル>開発室。ソフトが販売され、仕事が一通り終わったその時に全員が一同どっっと疲れたかのような雰囲気が訪れる。
「つかれたーーー。」
「終わったぞー!!」
「これから家族とパーティーだ!!」
口々にそう言いながら、席を離れるメンバー達。
「そうだ。今日は特別な日だ。うちでパーティーをしないか?」
上司がそう言って、メンバー達を誘う。
「OK。」「行きます。」「ではお言葉に甘えて。」
「あの、私もよろしいでしょうか?」
「ああ、ハラコも来てくれ。……できれば、おめかしをしてな。」
「は?」
どんよりとした目をしながら返事をするハラコに、全員が大笑いをした。
パーティーはつつがなく終わり、メンバーはその日はぐっすり休み、そして次の日の仕事日となった。
「へー上手く動いてるじゃん。」
様々な種族が大神殿から出ているのが見える。
これはゲームマスター専用の画面だ。流石にプレイヤーと混ざりながらゲームマスターがプレイヤーと一緒に遊ぶことは憚られた。
確かにこういったゲームは一緒にやった方が楽しいのだが、流石にゲームに一番詳しい人間がプレイヤー側と混ざりながらプレイするのは不公平だろうし、様々な確認を行うときに『神の視点』というのは便利な物なのだ。
例えばPKを発見する時には、GMキャラが出張って行動するよりも、こういう『神の視点』の方が便利なのだ。
只やりすぎると『監視されている』感覚が強くなりすぎるので、『定点カメラ』のようにある程度の範囲を確認しながら行うというのが一番やりやすい形式なのだ。
この時彼等はこの中に世界があるとは誰も思っていなかった。
彼等にとって、この中の物は作り物の世界であり、やや悪く言うのなら自分達の箱庭のようなものだったのだから。
あるいは、自分達が設定した部分が多かったために、結局は自分達がやり遂げたという感覚ばかりが先行してしまったのかもしれない。
最も、彼らの苦労を考えれば仕方ない事なのだが。
日本のとある場所において1人の男がソフトを片手に色々と考えていた。
「種族、性別、メイン職業……後は細々した顔とかですか。」
そう言ってその男は次々と設定を行っていく。
名前:にゃん太
種族:猫人族
性別:男
メイン職業:スワッシュバックラー
そう入力しながら、説明書を読み始める。
「ふむ。」
彼は、その実オンラインゲームという物に興味を持ていなかった。
その実、休みの間に時間をつぶせそうなゲームを探していたらこれが見つかったのだ。
そう、この日新たな1人の<冒険者>が生まれた日だった。
さて、第1話において料理人を『世界を変える』力と書いたが、その能力の真髄をここで説明しよう。
てっとり早く言うならば『売った都市の人口を増やす』能力を持っている。
例えば、Aと言う都市で食料アイテムを売れば、アイテムを売った分だけ都市の擬似的な人口が増えていき、基本的なポーションの生産量や、販売アイテムの質が良くなっていくという形になっていた。
また、都市友好度(その都市の住人からどれぐらい好かれているのか)が一番上がりやすくなっており、様々なサービスを最初に受けられるというメリットもあったりした。
全般としても個々にしてもかなり大きいメリットを持つ職業として設計されていた。
が、しかし、プレイヤーには全く受けなかった。
何が楽しくて、自分がゲーム上の都市を大きくしなければいけないのか?
都市友好度は普通に素材を売るだけでもそこそこ上がっていくし、何しろ武器なんかを作れるわけではない。
とある理由により、値下がりがしにくいという特徴があるのでハズレ職とまでは言わないが、その実進んでやろうとする職業ではなかったのだ。
しかし、にゃん太は<料理人>の職業を選んだ。優れた武器や防具よりも、異世界の食べ物に興味を持ったからだった。
レシピを集め、様々な料理を作る。これがなかなか面白かった。
美味しそうな代物を売ると明らかに反応が変わったし、様々な料理はそれこそ<エルダー・テイル>を支える重要な要素に思えたからである。
しかしそのような時期は1年(12年)しか続かなかった。
その日、すべての料理は味を失った。
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