二十一話 お題:竹細工 縛り:清元、引き幕、損ずる

 親戚に清元の三味線方をしている男性がいる。ある時、彼が三味線の師匠と話をしていると、師匠が突然こんなことを言ったそうだ。

「画竜点睛ってあるだろう、あれは本当だぜ」

 師匠曰く、昔とある芝居小屋で竜が出てくる歌舞伎の演目をやることになった際、大道具師が心血を注いで巨大な竹細工の竜を完成させたのだそうだ。その竜はとても竹でできているとは思えないほど大きく精巧で、役者から裏方まで褒めない人間が誰一人いないほどの出来栄えだったという。だが、その竜をよく見てみると目がついていなかった。座長が大道具師にどうして目をつけていないのかと聞くと、大道具師は画竜点睛の話じゃないがどうも嫌な予感がするのでつけていない、と答えた。座長は馬鹿馬鹿しいと一蹴し、大道具師に竜の目をつけさせた。結局つけても何も起こらず、無事に開幕の日を迎えたのだが、いざその竜を舞台に上げた時、問題は起こった。

「まぁ流石に飛びはしなかった。だが舞台の上で散々暴れまわって、その場にいたやつらに噛みつくわ、引き幕まで爪でズタズタにするわ、そりゃあひどいもんだった」

 その一件で公演は滅茶苦茶になり、以降その芝居小屋では大道具はおろかどんな小さな竜の絵だろうと絶対に目を損ずるようになったという。

「面白い話ですけど、いくらなんでも信じられないですよ」

 彼がそう言うと、師匠は大真面目な様子で、

「何を言ってるんだお前、俺の左足が一体何にやられたと思ってるんだ」

 確かに師匠は左足がない。彼はまだ師匠から、あれは冗談だよの一言が聞けていないという。

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