二十話 お題:番い 縛り:暇、節制、末弟、ピーナッツ、風靡

 以前一世を風靡した元アイドルと飲む機会があり、その時に聞いた話である。芸能人が芸能界から引退すると生活のあまりのギャップに身を持ち崩すことが多いそうなのだが、彼もその例に漏れなかった。アイドル時代にやっていたあらゆるトレーニングをやめ、元々乱れがちだった食生活が更にひどいものになったために、彼の体はあっという間に無残なものになったという。幸いだったのは彼が末弟で、上の兄弟達が皆厳しく世話焼きだったことだ。彼がだらしない生活をしていることを知ると文字通り叩き直しに来てくれたのだという。懸命に節制に励み、体型がアイドル時代に近づいた頃、彼は暇と孤独に耐えかねハムスターを飼い始めた。一匹だけで飼っていたのだが孤独のためか落ち着きがなく、時には大暴れすることもあったそうだ。

「もう一匹飼った方がいいか、とも思ったんだけど」

 ある日を境に、ハムスターがぱったりと暴れなくなった。よく観察してみると、まるで見えないもう一匹のハムスターと触れ合っているような仕草が度々見られた。彼が見えないもう一匹のハムスターの存在を確信したのは、飼っているハムスターにおやつのピーナッツをあげた時だ。

「あれ、食べないなぁと思ったら端からピーナッツが消えていくんだよ。何かに齧られてるみたいに。きっと自分のおやつを譲ってたんだよな」

 その後一年ほどで飼っていたハムスターは死に、彼は簡単な墓を作ったのだが、穴にハムスターの死体を埋める際、何かが穴に飛び込んだ気配があった。

「そのまま埋めちゃったけど、一緒の墓に入るってすごいよな。俺なんかハムスターのことなのに結婚したくなっちゃったもん」

 彼が結婚したという話はまだ聞かない。

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